【バスケ日本代表】河村勇輝「あってはならない試合」 パリ五輪初戦まで3週間、韓国戦で起きた“失意の30分間”から学ぶコト
韓国戦でドライブする日本代表の河村勇輝©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 バスケットボール男子日本代表(FIBAランキング26位)は5日、パリ五輪に向けて韓国(同50位)と強化試合を行い、84ー85で敗れた。チームの核となる八村塁(コンディション調整)と渡邊雄太(負傷)は欠場した。

 点差だけを見れば「惜敗」だが、内容は「厳しい」と言わざるを得ないものだった。

 若手中心の韓国にディフェンス強度で上回られ、第3Q終了時点で20点ビハインド。第4Qで攻守に存在感を増した河村勇輝を中心に猛追したが、激しいプレッシャーから試合をつくる自分たちのバスケットボールを、試合を通してやり切れないメンタル面の弱さが浮き彫りとなった。

 パリ五輪の初戦となる27日のドイツ戦まで、あと3週間。一つ一つの強化試合で気持ちを出すことは、今やるべきことの最低限のラインなはず。「あってはならない試合」(河村)から突き付けられた課題は重い。

不出場となった八村塁(左から3人目)と渡邊雄太(同4人目)©Basketball News 2for1

ファストブレイクと3Pで圧倒される

 試合は河村、比江島慎馬場雄大ジョシュ・ホーキンソン渡邉飛勇の5人でスタート。素早いトランジションから比江島が連続でコーナー3Pを決めるなどして先行したが、徐々にディフェンス強度を高めた韓国にペースを握られる。

 特にガード陣に対してはオフボールのディナイ、オンボールでのスイッチDFなどで徹底的にプレッシャーを掛けられ、全体的にオフェンスが単調となって停滞。いい形のシュートで終われないことでディフェンスへの切り替えが遅く、ファストブレイクを連発された。5アウトでビッグマンを外に引きづり出され、クイックネスのミスマッチを突かれて3Pも高確率で決められた。

 最終的にファストブレイクポイントは15対26、3P成功率は日本が31.4%(35本中11本)に対して韓国は50.0%(22本中11本)に達した。

 前線から仕掛けるプレッシャーディフェンスでボールを奪い、 素早いトランジションに繋げ、ハーフコートバスケではペイントタッチから高確率で3Pを沈める。正にホーバスジャパンがやりたいバスケだ。河村も試合中からもどかしく感じていたよう。会見冒頭の総括コメントである。

 「ヒットファーストだったり、フィジカルディフェンスだったり、僕たちがやりたいことを常に相手にやられて後手後手になってしまいました。本当にあってはならない試合をしてしまいました」

 6月22、23の両日に行ったオーストラリア(FIBAランキング5位)との強化試合で、いずれも失点が90点以上に達した日本。その後の合宿では、いかに素早くマークマンをピックアップするかということに重点を置いてきた。

 しかし、河村が「1〜3Qはディフェンスのエクスキュート(遂行すること)がすごく悪くて、フリースローの後やハーフコートディフェンスでのカバレッジのミスが多かったです。オンボールのプレッシャーも足りていませんでした」と振り返ったように、準備してきたことを出し切れなかった。

 結果、相手のファストブレイクを止め切れず流れを逸失。八村、渡邊が欠場し、さらに第3Qまでの30分間は遂行力の低いバスケが展開され、失意に沈んだファンは多かっただろう。

記者の質問に答える河村勇輝©Basketball News 2for1

トム・ホーバスHC「目を覚ませ」

 第4Qは一転、河村が激しいボールマンプレッシャーや多彩なオフェンスでけん引し、流れを引き戻した。馬場、比江島、ジェイコブス晶、ホーキンソンが呼応し、先に体をぶつける「ヒットファースト」を徹底。最終盤には一時逆転する場面もあった。

 河村はこのクォーターだけで16得点、4アシストという圧巻の活躍。前半はオフボールで相手がスイッチをしながら密着マークを仕掛けてきたこともあり、早めのP&Rでペイントタッチしたり、パスをさばいたりすることを意識していたという。

 ただ、やはりトム・ホーバスHCの総括も手厳しい内容だった。

 「第4Qにやっと日本のバスケットをできたかなと思っています。ただ明後日は日本のバスケットを最初から最後までやらないと、このタイミングでは駄目かなと思っています。今日の負けから学ばないと駄目で、英語でいうと『wake up call』、日本語でいうと目を覚ませかな。そういう感じです」

 バスケの試合では、最終盤に追い詰められてからプレー強度が上がる場面はよく見られる。「最初からやれ」というツッコミも定番だ。最終第4Qは前出の5人がほぼフル出場して勝ちを拾いに行った印象だったが、最終12人を決めるサバイバルも兼ねた強化試合なため、いい内容のゲームであれば、より多くの選手を終盤の勝負所で試せていただろう。

 もちろん相手もいることであり、お互いに相手がやりたいオフェンスをやらせないディフェンスを仕掛けるため、自分たちのバスケを常に表現することは簡単ではない。それでも国内トップの選手たちが集い、パリ五輪を目前に控えたチームの遂行力としては、あまりに物足りない内容だった。

記者の質問に答えるトム・ホーバスHC©Basketball News 2for1

河村「学ばなければこの試合が無駄になる」

 次戦は7月7日の午後7時半から、同じく韓国と同アリーナで行う。パリ五輪前に国内で実施する最後の強化試合だ。「どんなバスケを見せたいか?」と問われたホーバスHCはこう言った。

 「試合が終わってから(選手たちに)言ったんですけど、オフェンスやディフェンスというより、今日の第4Qの気持ちを出さないと駄目です。本当にそこだけ。全員、試合に出る時に100%の気持ちを出さないと駄目。そこを見てます。泥臭い仕事をやらないと。ヒットファーストができないと負けるじゃないですか。明後日はもう、そういうことは負けないと思います」

 本番ではドイツ(3位)、フランス(9位)という格上と対戦する日本。今回対戦している韓国よりも高さがあり、体の強さもあり、スキルも高い。だからこそ、河村の危機感も強い。

 「この試合から学ぶことは学びたいと思いますし、学ばなければこの試合が無駄になってしまう。マインドセットをもう1回切り替えて、次の日曜日の試合は自分たちからヒットファーストして、ディフェンスの遂行力を高めて戦うことが必要になるかなと思います」 

 常に自分たちに矢印を向け、序盤からエナジー全開でやるべきことをやり続ける。勝つための原点に立ち返り、決戦の地へと旅立ちたい。

(長嶺 真輝)

チーム最多23得点を挙げた河村©Basketball News 2for1

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