
昨シーズン、クラブ史上初めてB3リーグでプレーオフに進出し、充実のシーズンを過ごした岐阜スゥープス。今オフには、小林康法HCやエースの高橋快成、ハンター・コート、ライアン・ローガンらの退団が重なり、チームは厳しい状況に置かれた。
B3リーグ最終年度となる今シーズンは、新たに指揮官に就任した早水将希氏の下、さらなる成長を模索する岐阜。昨季から継続契約している卜部兼慎は所属先のアイシンを退社し、「脱サラ」をしてプロ選手の道を選択した。また、昨季はB2信州ブレイブウォリアーズでプレーした山崎玲緒が新たに加入するなど、チームの層も厚くなっている。新たな決意を胸に新シーズンに挑む卜部と山崎に話を聞いた。

卜部兼慎のインタビュー
――「脱サラ」からプロの道を選びましたが、どんな覚悟で選択したのでしょうか
理由はもともと、大学卒業時にプロの道に進むか、実業団チームのアイシンAWに行くかで迷いました。その時、あるチームから特別指定選手の話もいただいていたんですけど、親と話し合った際に「将来は安定した方がいい」と言われたこともあって、アイシンAWでバスケットをしながらサラリーマンになる道を選んだんです。ですが、B1の試合を観に行った時に「もしあのとき別の道を選んでいれば、自分もあそこでプレーできていたのかな」と少し後悔してしまって。別にサラリーマンの道が悪かったわけではないんですけど、アイシンAWがアイシン精機と統合したタイミングで、(同社運営の)クラブチームが2つ(シーホース三河とアイシンアレイオンズ)になり、その1年後にアイシンアレイオンズが活動終了となりました。その際に人事部の方が話をしてくださって、当時アレイオンズの部長であった安田学さんから「休職期間を3年間設けるから、バスケットをしてきていいよ」と言っていただいたんです。そうして1年目は豊田合成スコーピオンズ、2年目はシーホース三河、3年目は岐阜(スゥープス)でプレーする機会を得ました。
3年間が終わるタイミングで、サラリーマンに戻るか、このままプレーを続けるか、本当に悩みました。しかし、AW入社当初にB1の試合を観戦した際に感じた後悔をずっと覚えていたので、「きっとこのままサラリーマンに戻って試合を観たら、また後悔するだろう」と自分の中で思ったんです。そんな時、一番の支えてくれていた奥さんも「後悔するくらいなら、バスケットは最後までやり切ってほしい」と背中を押してくれて、「やり切って燃え尽きたい」という想いから今回退職を選びました。それだけの覚悟を持って決断したということです。
アイシンは上場企業で、退職するのはもったいないとは思います。将来も安定していますし、バスケットの道を選ぶのは簡単な覚悟ではありませんでした。でも、バスケットにここまで育ててもらったので、自分は最後までバスケットをやり切りたいと思っています。
また、将来バスケットボールを引退した後も何らかの形で関わっていきたいという思いから、現在はプレーと並行してフロントスタッフの業務にも携わり、勉強させてもらっています。自分は指導者にはあまりなりたいと思わなくて、将さん(早水HC)や田中さんと話した時に、フロント業務や運営、イベント企画などにも興味があると伝えて、フロント業務に入れてもらいました。今日(取材日)も、練習が終わったら一旦帰宅して着替えて、事務所に行く予定です。ただ、あくまで自分の本分は選手としてプレーすることなので、フロントの仕事は雑用やヘルプ的な立場で関わっています。
――新チームの雰囲気はいかがですか
練習の雰囲気はめちゃくちゃ良いです。昨シーズンは練習中に雰囲気が悪くなることもたまにありましたが、今季はそういったことがほとんどなく、選手全員が高い意識を持って練習に取り組めていると思います。おかげで練習もしやすく、非常に良い雰囲気でできているので、とても良い状態だと感じます。ヘッドコーチも練習中に積極的に声をかけてくれるので、チームは非常に良い感じで仕上がっています。年下の選手からいじられることに関しても、僕は嫌いではないので、むしろそうしたやり取りでさらに仲が深まるなら大歓迎だと思っています。

――オフシーズンはどんなことに取り組みましたか
もともと膝に不安を抱えているので、オフシーズンはあまり体を動かしすぎないようにしています。シーズンが長丁場になる分、オフシーズンは逆に短いので、その間は体だけでなく心もしっかり休ませたいという思いがあります。オフには実家に帰省したり、愛犬に癒やされたりしていました。シーズン中は練習が多く、事務所に行けても1〜2時間程度だったんですが、オフシーズン中は時間があるときは1日事務所にいることもあります。基本的にはオフは休養に充てて、体を休めてケアをしっかり行うようにしています。膝もボロボロな状態ですから、なおさら休むことが大事ですね。
――今シーズンの目標や注目してほしいポイントは
目標はリーグで優勝することです。昨シーズン成し遂げられなかったプレーオフのホーム開催を実現したいと思っています。そのために、まずはリーグ戦でベスト4に入り、そしてプレーオフで優勝することを目指します。自分のプレーで注目してほしいのは、昨シーズンに引き続き、3ポイントシュートです。3ポイントを打てるのもチームメイトのパスあってこそなので、シュートに至る一連の流れも見てもらえたら嬉しいですね。僕だけでなく、チーム全員に注目してもらいたいです。
――最後に、スゥーピー(岐阜ブースター)へのメッセージをお願いします
昨シーズン良い結果を残した分、今シーズンはヘッドコーチも代わり、不安に思う部分もあるかもしれません。でも、早水HCを筆頭にチーム一丸となってしっかり練習に取り組んでいます。ぜひ昨シーズン以上の応援を会場でしていただければ嬉しいです。僕たちはその期待に応えるだけですので、たくさんのご来場をお待ちしています!
山崎玲緒のインタビュー
――岐阜への加入を決めた理由は
いくつかのチームから声をかけていただく中で、岐阜スゥープスのチーム文化や将さんから直接聞いた「チームの良さ」に魅力を感じ、このチームでプレーしたい、そして自分が加入することでこのチームを勝たせたいという思いが芽生えました。もともと最初に正式オファーをくれたチームにサインしようと決めていて、岐阜から真っ先にオファーをいただいたので、すぐに契約を決めました。
――信州ブレイブウォリアーズで勝久マイケルHCの下でプレーして得たものや、それを今後生かしていきたい点はありますか
得られたものはすごく大きいです。自分がこれからどこまでバスケットを続けていけるかわかりませんが、昨シーズン1年間、マイケルさんの下でプレーできたことは自分にとって非常に大きな財産になりました。また、昨シーズンの信州のメンバーとともに戦えたことも大きな財産です。具体的には、プレーの中で白黒つけなければいけない部分があり、それまで自分の中でグレーだった部分に明確な答えが出ました。数学に例えるなら、問題と答えは分かっていても、その間のプロセスが曖昧だった部分がはっきりと理解できた1年間でした。そこで得たことを岐阜で自分のプレーにも生かしていきたいですし、自分が学んだことや得た知識を周囲に広げていければ、岐阜もどんどん良くなっていくと思います。
昨シーズンの信州では、チーム内で各選手の役割が明確でした。自分が得点を取らなくても周りの選手が得点できるほど能力の高い選手が多く、自分は前線から積極的にプレッシャーをかけてディフェンスをするなど、与えられた役割を全うしました。ボールを奪ったらすぐに味方に託すといったプレーに徹していたんです。岐阜では求められる役割が変わり、プレースタイルもこれまでとは異なってくると思います。ただ、今までいろいろなチームで様々なプレースタイルを求められてきた経験があるので、幅広いプレースタイルに対応できればヘッドコーチにとっても起用しやすい選手になれるはずです。早水HCが求めるプレーヤー像に自分を近づけていきたいですね。それこそ時間帯によっては、昨シーズンのように仲間を生かすプレースタイルを求められることもあれば、自ら得点を狙いにいく場面も今シーズンは出てくるのではないかと考えています。

――岐阜のチームメイトの印象は
噂に聞いていた通り、岐阜には良い人ばかりです。本当に皆がいい人たちで、自分だけが少し異質に感じるくらいです(笑)。さまざまなチームを経験してきましたが、岐阜は継続選手が多く、中には岐阜しか知らない選手もいます。合流した当初はチームが「とても静かだな」という印象を受けました。良い人ばかりだからこそ静かなんだなという印象です。なので、自分はその静かな雰囲気を打ち破ろうとしています。
――早水HCの印象は
自分が埼玉(ブロンコス)でプレーしていたときに、早水HCはTUBCでコーチをされていたので、以前から面識がありました。聞いていた通りの素晴らしいコーチです。仮にヘッドコーチから「これをやれ」と指示されても、僕たち選手の意見もきちんと尊重してくれます。現場では選手とコーチという関係ですが、プライベートでは立場に関係なく非常にフレンドリーに接してくださるので、バスケットのことも意見を言いやすいですし、とてもコミュニケーションが取りやすいです。非常にやりやすいですね。
――昇格がないシーズンとなりますが、シーズンを通してのモチベーションの維持や目標は
確かに昇格が懸からないシーズンという点では、モチベーションの維持が難しい部分もあると思います。ただ、今シーズンはBリーグの再編(B革新)を控えていて、後に「最後にB1・B2・B3で優勝したのはどのチームだったのか」と問われたとき、カテゴリーに関係なく必ず名前が挙がるはずです。だからこそ「あの時、最後に優勝したのは岐阜だったよね」と言われるようなチームになりたい。
シーズン開幕前には「今年はこのチームが行くだろう」とか「お金をかけているチームが強い」といった前評判がある程度立っています。そんな中で岐阜がそういった相手に勝っていくことで、B革新が始まった時に「岐阜はあそこで優勝したから良かったよね」とか、リーグ最終年ではあるけれど、それを次のステップにできたよね、と言われるようにしたいんです。一段目をぐっと押し上げるといいますか、そういう第一歩を踏み出せるように戦っていきたいと思います。僕はここに来たからには、このチームを優勝させたいという気持ちで来ているので、優勝だけを狙っていきたいと思います。
――最後に、スゥーピー(岐阜ブースター)へのメッセージをお願いします
昨シーズンはレギュラーシーズン5位で、岐阜はプレーオフでは勝ち切れなかったと思います。今年は開幕から優勝を目指して頑張っていきますので、ぜひファンの皆さんにも「応援」という形ではなく、一緒に戦ってもらいたいです。
(榊原かよこ)






