男子日本代表のトム・ホーバスHCが2021年9月に就任してから、代表に定着している選手の一人、SG西田優大。これまでは所属先のシーホース三河での役割と同様に、武器である3Pとドライブを中心に点を取ることに注力していたが、8日に静岡県の浜松アリーナで行われたチャイニーズ・タイペイとの国際強化試合では様相が異なった。
富樫勇樹と並ぶ主力ガードの一人である河村勇輝が右太ももの怪我の影響で欠場したことを受け、ホーバスHCの方針でPGとしてプレーしたのだ。スコアラーとして鳴らしてきた若き24歳の新たな挑戦が、約1カ月半後に迫るW杯に向けてチームにもたらすモノとはー。
可能性を示した「9分22秒」 井上の3Pを2連続で演出
初めに出番が訪れたのは第2Q開始時。チームで最もサイズのあるジョシュ・ホーキンソンに加え、SG比江島慎、SF吉井裕鷹、SF金近廉と共にコートに入った。最初のオフェンスで、早速トップの位置でボールを持つ。ホーキンソンのスクリーンを使い、右45度からプルアップで3Pを放った。外れはしたが、PGとして出場してもシュートの積極性を失っていないことをうかがせた。
その後は自陣からボールを運び、オフェンスのエントリー役を担う。特に印象的だったのは、大きな声やジェスチャーで度々味方に指示を送り、サイズの小さな日本代表にとって生命線であるフロアバランスを整えていたこと。6月に始まった候補者合宿から本格的にPGの練習をし始めたというが、ほとんど違和感なくコントロールしていた。このクオーターで出場した2分58秒、ターンオーバーもなく安定したプレーを見せた。
次に出場した第4Qでは、しっかりと結果につなげる。
残り8分を切った時間帯、右サイドからエンドライン沿いにドライブを仕掛ける。ゴール下付近で左コーナーで待ち構えていた井上宗一郎にキックアウトし、3Pを演出。次のオフェンスでは左45度でボールを持ち、ピック&ポップで再び井上にボールを送ってまたも3Pを成功させた。
出場時間は、13人が登録されたチームで2番目に少ない9分22秒だったが、PGとしての可能性を十分に示したゲームだった。
「もっとプッシュしたい」と反省 HCは高く評価
最終的なスタッツは3アシスト、1ターンオーバー。自身のプレーメークについては一定の評価をしていた。
「河村がまだ万全じゃなかったので、合宿の時に『ポイントガードで行く』と言われて、心の準備はできていました。僕からオフェンスのプレーをつくるとなった時に、いつもみたいに走るだけじゃないので、難しいなと感じています。ただ、状況判断としては悪くなかったんじゃないかなと思ってます」
シュートを放った2Pと3Pの計6本を全て外して無得点だったが、無理なシュートはほとんどなく、自らが打つべき場面、まわりを使う場面の判断はクリアになっているようだった。試合後、ホーバスHCも「合宿中、西田が一番いい練習をやったと思います。彼はPGとして素晴らしかった。今日は(初めてPGで)入って彼のベストではなかったですけど、こういう経験は彼にとって大きいです」と語り、自身のバスケを熟知する西田を高く評価した。
ただ、この試合は日本の特徴である速い展開が少なかったこともあり、西田は反省も口にした。
「走れる選手が多いので、もっとディフェンスからみんなが走れるようにしたい。そこはもっと自分がプッシュして、トランジションから速い展開をつくれれば良かったです」
身長は190cm。もし今後PGとして計算できるようになれば、代表のPGでは最も上背のあるプレーヤーとなる。それは八村塁の欠場が決まり、サイズ面で課題を抱えるチームにとってはプラスに働く要素だろう。河村に限らず、大会前、大会中とも当然負傷のリスクはあるため、複数ポジションをこなせるユーティリティープレーヤーの存在も欠かせない。
代表は9日も午後2時から浜松アリーナでチャイニーズ・タイペイと強化試合を行う。シーホース三河は本拠地が愛知県刈谷市であり、メンバーの中で最も所属先の本拠地が会場に近いことを念頭に、西田は「浜松開催で、愛知から応援に来てくれているお客さんもたくさんいると思います。今日はまだあんまりでしたけど、ポイントガードもできるよ、というところを少しでも見せたいなと思っています」と意気込む。
第1戦は富樫が9得点、6アシスト、1スティール、テーブス海も6得点、3アシスト、2スティールと結果を残し、代表争いが激化している1番ポジション。西田の存在が、選考レースに新たな刺激を加えてくれそうだ。
(長嶺 真輝)
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