男子日本代表(FIBAランキング36位)は8日、8月25日に沖縄などで開幕するW杯に向けた初めての国際強化試合を静岡県の浜松アリーナで行い、チャイニーズ・タイペイ(同69位)に108ー86で勝利した。エースとしての活躍が期待される渡邊雄太がまだ合流しておらず、河村勇輝や渡邉飛勇らもコンディション不良で不在の中、格下相手に大勝とはならなかったが、チームの身上である3Pを放った47本のうち21本(成功率44.7%)決めるなど強みを発揮した。
けん引したのは、約1年ぶりに「Akatsuki Japan」のユニフォームを着た富永啓生と、初めて日本代表としてコートに立った原修太の“ダブルサウスポー”だ。富永は5分の4、原は7分の6と驚異的な確率で3Pを沈め、チームに勢いをもたらした。
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富永は第1Q、原は第4Qに爆発 チームに勢い
富樫勇樹、須田侑太郎、馬場雄大、井上宗一郎、帰化選手のジョシュ・ホーキンソンの5人でスタートした日本。開始直後から馬場が積極的なドライブや3Pで得点を重ね、先行した。しかし、スイッチディフェンスでローテーションが遅れたり、井上がターンオーバーを連発したりしてなかなか波に乗れない。ビッグマン不足でリバウンド力も低く、僅差が続いた。
そんな中、まず流れを呼び込んだのは富永だ。第1Q残り5分5秒、須田との交代でコートに入ると、両サイドから立て続けに3Pをヒット。さらにクオーター最終盤にも体勢を崩しながら長距離砲を沈め、一気に二桁リードを奪った。
第2Qに入ると馬場や富樫、ホーキンソンらが得点を重ね、後半は引っ張り上げられるように吉井裕鷹や井上、須田らも調子を上げてじわじわと突き放していった。中でも、最も会場を沸かせたのは原である。
23点リードで迎えた第4Q。残り5分59秒、右45度からこのクオーター1本目の3Pをプルアップで沈めると、スイッチが入る。そこから距離関係なく中央、左右からさらに4本の長距離砲を決め続け、会場やベンチを何度も沸かせた。一躍ヒーローに躍り出て、勝利に大きく貢献した。
最後にコートインした原「やってやろうと思って」
この試合、原は第2Q残り3分で初めて出場する機会を得て、登録された13人の中で最後にコートに立った。所属する千葉ジェッツでは主力を担い、第1Qに出番が無いことは極めて稀だ。それを念頭に、強い決意を持ってコートに入ったことを明かした。
「合宿が始まる時から、代表では本当に下からのスタートでした。もちろん他のメンバーは今までの大会でHCからの信頼も厚いですし、出る順番はしょうがない。ただ10分ちょいですけど、久々にああいう(出られないという)悔しい思いをしたので、出たらやってやろうと思っていました」
1試合での3P6本成功は、Bリーグにおける自身のキャリアハイと並ぶ。ただ、その数字を記録した昨年12月の島根スサノオマジック戦は9分の6だったため、今回の方が成功率が高い。少ないチャンスで結果が求められる代表戦でいきなりビッグパフォーマンスを見せた原に対し、千葉Jの同僚である富樫も「一番最後に(コートに)出てきて、数少ないチャンスをものにしたというのは、彼の今までの努力の成果かなと思います」と脱帽した。
一方、昨シーズンのB1で初めてベストディフェンダー賞に選ばれた原は、トム・ホーバスHCからもそのディフェンス力を買われて代表入りした。自身もそれは強く自覚しており、「勇樹とかガードのメンバーが出ると、僕がボール運びの選手につくことはあまりありませんが、相手のキーマンにつかせてもらえるようにもっとディフェンスでアピールしたい。スリーが入ったことはうれしいですけど、切り替えて、もっと強みを出していきたいです」と気を引き締める。
まわりにはホーバスジャパンでプレー経験を重ねている選手も多く、「僕以外が全員慣れているという状況が初めてで、すぐにその中に入らないといけないというのが難しかった」という。ただ「結構物分かりが早くて、割りと賢い方だと思っている」という自負もある。「今、徐々に他の選手の特徴もつかめてきているので、経験を重ねていけばもっといいプレーができると思います」と向上を誓った。
“和製カリー”富永「武器をアピールし続ける」
一方の富永。現在は米NCAA1部のネブラスカ大学に所属しており、日本でプレーするのは高校のウインターカップ以来となった。この試合はほぼ満員の4,210人の観衆が声援を送り続け、「すごくワクワクした気持ちもあったんですけど、自分たちがやってきた日本のバスケットを、日本のファンの前で見せられてすごく良かったです」と和やかな表情で振り返った。
“和製カリー”の異名を持ち、米国でもシューターとして高い評価を得る富永に対し、ホーバスHCも「コーナースリーもあるし、トランジションスリーもある。(まわりも)彼を探しているので、打つチャンスがあれば打つということを求めています」と高い期待感をうかがわせる。
現在、チームは比江島慎や須田、馬場、西田優大など2番(シューティングガード)ポジションの層が極めて厚い。それを念頭に、富永は「競争の激しいポジションだと思いますが、自分の武器をアピールし続けてやっていくだけ。今日は大学のシーズンが終わってから初めての試合でゲーム感がちょっと鈍っているところはあったんですが、この強化試合で感を取り戻しつつ、自分らしいプレーを一つでもできればいいかなと思います」と今後を見据えた。
この試合は3Pが高確率だった一方で、フリースローはまさかの3分の0だったため、「もっとフリースローの練習をしないといけない」と反省も口にしていた。
ホーバスHC「左利きは必要」 目安は1〜2人
富永と原がチーム入りしたことで、これまで少数だった左利きが増えた代表チーム。それによる変化があるかをホーバスHCに問うと、少し思わせぶりなニュアンスを含んだ答えが返ってきた。
「(左利きの選手がいると)左のドライブを使うコールとか、いろいろあります。左利きの選手はいた方がいい。1人か2人。今のチームは3人だけど…」
W杯本番まで、あと50日を切ったAkatsuki Japan。今後は各ポジションごとに加え、サウスポー同士での競争も激化していくかもしれない。
(長嶺 真輝)