
ヘッドコーチ(HC)がトム・ホーバス氏から桶谷大氏に交代したバスケットボール男子日本代表(FIBAランキング22位)は、沖縄サントリーアリーナで「FIBAワールドカップ2027 アジア地区予選」1次ラウンド・Window2に臨んだ。
2月26日の中国戦(同27位)は前半で最大15点をリードしながら87-80で逆転負けを喫した。一方、3月1日の韓国戦(同56位)は78-72で価値ある一勝を挙げ、「桶谷ジャパン」として初勝利を手にした。
通算成績は3勝1敗。チャイニーズ・タイペイ(同68位)を含むグループBの4チームの中で唯一3勝に達し、首位をキープしている。最後のWindow3は7月に中国、韓国とアウェー戦を行う。あと1勝すれば上位3チームが対象となる1次ラウンド突破を自力で決められる。
今回のWindow2は、ホームコートアドバンテージがあったとはいえ、2月上旬に体制変更が発表されたばかりの厳しいタイミングでの戦いとなった。それを考慮すれば、日本が9位に終わった昨夏のFIBAアジアカップ2025で準優勝した中国、6位だった韓国を相手に1勝1敗で終えたことは、及第点をつけられる結果だろう。
ホーバス体制の頃に比べ、戦い方の変化も見られた。大きな注目を集めた桶谷ジャパンの初陣を振り返る。
目次
向上したペイントアタックへの意識
中国戦の第2クォーター、残り3分を切った時だった。オフェンスの新スタイルを象徴するプレーが飛び出した。
安藤誓哉にスクリーンをかけた渡邉飛勇がダイブしてボールを受け、連動して左コーナーからエンドライン沿いをカッティングした馬場雄大にパスを送る。馬場はそのまま逆サイドへ走り抜け、右コーナーの西田優大へパス。人とボールを動かして生まれた相手ディフェンスのズレを突き、今度は西田がドリブルでペイントアタックしてフィニッシュした。
2日後にあった公開練習の際、原修太が「フリーランスオフェンスの中でも、2人だけで完結するのではなくて、3人、4人を絡めてオフェンスをしようという部分がホーバス体制の頃と違うところだと思っています」と話した。ポイントガードがボールを保持する時間が長かった前体制に比べ、オフェンスでボールを触る人数が増えた印象だ。
この試合では、第3クォーターに相手のディフェンス強度が高まり、オフェンスが停滞。大きな敗因となった。金近廉はその時間帯を念頭に、新体制でオフェンスの構築を担当するライアン・リッチマンアシスタントコーチ(AC)から「1個目のプレーで深く中に入り過ぎてターンオーバーが起きている。その後にセカンドサイド、サードサイドに振って、相手のディフェンスがズレてきたタイミングでペイントアタックする場面を増やしてほしい」と言われたことを明かした。
リッチマンACがHCとして率いるシーホース三河は現在、オフェンシブレーティングが118.6でリーグ4位。平均ターンオーバー数は26チーム中で最少だ。ペイントエリアを荒らしながら、より良いシュートシチュエーションを選択して、効率良く得点を重ねるオフェンスを日本代表にも注入しようとしているのだ。
三河でエースを務める西田が「自チームみたいな感じでオフェンスができている」と話し、ハンドラーとして存在感を増して14得点、12得点と活躍したことからも、三河のスタイルが踏襲されていることが分かる。

3Pの比率は4割程度に減少…中国戦では2P成功率が60%台に
結果として、スタッツにも顕著な変化が表れた。ホーバス体制を象徴していた3ポイントシュートの比率が落ちたのだ。
Window1のチャイニーズ・タイペイとの2連戦は、いずれも全体のシュート本数の約5割を占めたが、今回の中国戦、韓国戦はいずれも4割程度。比率が増した2ポイントシュートの成功率は中国戦が61.0%、韓国戦が58.3%に達し、得点の柱となった。特に全体のサイズ感で大きく劣る中国に対しても2Pシュートでこの成功率を記録したことは、これまでの日本代表の戦いぶりを考えると驚きに値する。
ただ、中国戦は多くのワイドオープンをつくりながら、3Pシュート成功率が19.2%(26本中5本成功)、フリースロー成功率も55.6%(27本中15本成功)と低迷。後半にターンオーバーが増加したことは課題だったが、桶谷HCが「決定力の部分で、いいシュートを打っている時もなかなか入らなかった」と話したように、この2つの精度がもう少し上がっていれば、十分に勝つ可能性はあった。
渡邊雄太も「ああいう負け方をしているので、正直『良かった』とは言いたくないですが、いい時間は間違いなくありました。あれだけシュート率が悪くて、中国に本当に勝てた可能性がある試合をできたことはプラスに捉えていいと思います」と振り返っていた。
一方で、渡邊はこのコメントに続けて「3Pシュートの成功率が19%で、世界相手に勝てるかというと、勝てるわけがない。最後は自分たちが決め切るしかないと思っています」とも言った。世界基準ではサイズが小さい日本が強豪国を撃破するためには、3Pシュートを高確率で決め切る必要があることは、ホーバス体制の頃から変わらないポイントと言える。

成熟の鍵は「修正スピード」の向上
他の課題も見えた2試合だった。特に顕在化したのは、相手の変化に対する修正スピードの遅さである。
前半を14点リードで折り返した中国戦は、前半こそ相手が日本の3ポイントシュートを警戒していたが、後半は好調だった西田を中心にハンドラーに対して早めのスイッチを選択し、ディフェンスのズレが生まれにくくなった。それに対して5分超にわたって得点が止まり、0-13のランで一気に勝負を振り出しに戻された。
試合後、西田は「スイッチをされた時に上でボールが止まってしまうのは、以前からの日本の課題です。ボールだけが動いていても仕方がない。そこからいかに次のアクションを起こしながら、全員が共通理解の中で動くかが大事になる」と問題意識を口にした。
2月中旬から会場の沖縄サントリーアリーナで直前合宿を行ってから迎えた2試合だったとはいえ、新体制に移行してから日が浅い中で完成度を高めるのは限界があるのも事実だ。とはいえ、渡邊雄太が「相手のアジャストに対して、コート上で次の良いオフェンスを見つけることができなければ、今日のような試合が今後も続いてしまう」と語ったように、チームにとっては伸びしろと言えるだろう。
3日後の韓国戦では、試合中に相手の2-3ゾーンやハードショーのディフェンスに手を焼く時間帯があったが、いずれも徐々に攻略していったため、さっそく改善に向けた兆候が見えた。
チームの共通認識を高める必要性は、ディフェンスにおいても同様である。
中国戦では相手が幾度となく使ったスペインピックでディフェンスが混乱し、中へのダイブや3ポイントシュートで後半に失点を重ねた。渡邊は厳しい口調で振り返った。
「新体制だから許されるようなミスではありません。あれだけスペインピックが連続で来ているなら、もうコーチ陣どうこうというより、コートの選手が対応しないといけない問題です。スペインピックでもシューターがスリップするとか、いろんな状況が出てくる中で、そこをしっかり対応するのがいい選手。コートの5人でしっかりやっていければと思います」
約4カ月の期間を空け、Bリーグのシーズン終了後の7月上旬にWindow3を控える日本。韓国戦後、桶谷HCは今後のチームづくりについて言及した。
「今回はけがで呼べなかった選手や、コンディションがなかなか上がってこなかった選手もいました。次の合宿はそういった選手もしっかり呼べるようにしたいです。今回は競争というよりも、より一体感を出して合宿に臨みたいという思いがありましたが、次の合宿はもう少し時間があるので、よりコンペティティブ(競争の激しい)な合宿になる可能性もあります」
桶谷氏がHCを兼任する琉球ゴールデンキングスのホームコートであり、日本代表にとっても2023年のFIBAワールドカップで歴史的な勝利を積み重ねた「特別な場所」(桶谷HC)である沖縄サントリーアリーナで、手応えと課題を得て船出した新生アカツキジャパン。進化の歩みに期待したい。

(長嶺真輝)






