
名門が王者に返り咲いた。
男子の第101回天皇杯全日本選手権ファイナルラウンドは1月12日、東京の国立代々木競技場第一体育館で決勝を実施。アルバルク東京がシーホース三河を72-64で下し、前身のトヨタ自動車が第87回大会で頂点に立って以来、14年大会ぶり3度目の優勝を飾った。
MVPは、A東京が戦った全4試合でいずれもダブルダブルを記録したライアン・ロシター。大会ベスト5にはロシターのほか、A東京のセバスチャン・サイズ、マーカス・フォスター、三河の西田優大、ダバンテ・ガードナーが選出された。
Bリーグでは2017-18、2018-19のシーズンに史上唯一の2連覇を達成するなど強豪の地位を確立しているにも関わらず、2016年にBリーグが開幕してから天皇杯タイトルとは縁遠かったA東京。前回大会も準優勝に終わっていただけに、喜びはひとしおだろう。
大会中、成長の手応えを語っていた選手がいる。エースガードのテーブス海である。優勝後のインタビューで「全然ダメだったんですけど…」と語っていた通り、数字だけを見れば際立ったものではない。特に3ポイントシュートの成功は大会を通して26本中1本のみ。シュートタッチに苦しんだ。
それでも、司令塔として「試合の流れ」を読む力が向上している実感があるという。

際立った「ゲーム中のアジャスト力」
まずは決勝を振り返る。
3ポイントシュートを武器とする三河に対し、序盤から外をケアする守り方をしていたA東京。ただ、ピックを使ったボールマンにプルアップシュートを決められる場面があり、第2Qからスイッチの判断を早くしてディフェンスのズレを防いだ。強みの一つを消されてリズムに乗りにくかったのか、三河はゴール下の簡単なシュートを決め切れない場面が目立った。
オフェンスにおいても、試合中の修正の早さが際立った。
三河はインサイドを荒らされることを警戒し、ボールマンとマッチアップする選手は基本的にスクリーナーのアンダーを通り、ビッグマンもドロップで対応。それに対してA東京は第1Qに単発の3ポイントシュートを外したり、横パスが増えてディフェンスのズレを作るのに苦労したりして、なかなか勢いに乗ることができなかった。
しかし、第2Qの頭にテーブスが積極的にペイントアタックを仕掛けてディフェンスを収縮させ、キックアウトして福澤晃平と小酒部泰暉の3ポイントシュートを演出。ここからオフェンスの流動性が増し、流れを押し返して前半を40-30とリードして折り返した。
後半、三河はオールコートとハーフコートでゾーンディフェンスを織り交ぜ始める。第3Qこそ手を焼いたが、ポゼッションごとに守り方を見極め、ビッグマンがミスマッチを突いたり、ガード陣がペイントアタックをしたりして攻略していった。フォスターの1対1での打開も効果的だった。
試合後、デイニアス・アドマイティスHCは「怪我人がいてチーム状況が苦しい中、常にプランA、プランBという二つの選択肢を選手たちに伝え、もしうまくいかなくてもプランC、Dも準備しています。コーチ陣がしっかりとプランを組み立て、選手がよくやってくれました。私たちのチームにはゲーム中のアジャスト力があるので、心配はしていませんでした」と振り返った。
このコメントにもあるように、安藤周人や大倉颯太、中村浩陸といった主力を欠く中で勝ち取った栄冠は、A東京の組織力の高さ、層の厚さを物語る。Bリーグと東アジアスーパーリーグ(EASL)の戦いにも好影響をもたらすことは間違いない。

“ホット”な小酒部に託した準決勝…テーブスが語った「見える感覚」
今回から集中開催のトーナメントに戻った天皇杯において、指揮官のコメントにあった試合中のアジャスト力は、勝ち上がる上でより強く求められる要素だった。
攻守において、相手の戦い方や変化にどう対応するか、常に漂流する試合の流れをいかに的確に把握し、どこに自分たちのストロングポイントを見出すか。それらの点で、司令塔のテーブスはPGとしての成熟を証明した大会と言えるだろう。
準々決勝の群馬クレインサンダーズ戦は、第4Qの残り0.3秒で体勢を崩しながらミドルシュートの同点弾をヒット。延長戦で8得点を挙げ、チームを勝利に導いた。
一方、準決勝の三遠ネオフェニックス戦ではまわりの選手を生かす道を選んだ。
象徴的だったのは接戦が続いていた第4Qのクロージングの時間帯だ。「普段だったら自分やライアンが最後に打開することが多い」と言うが、この日は終盤で“ホット”になった小酒部を主軸に据えた。結果、小酒部が鋭いドライブで相手ディフェンスを切り裂き、連続ポイントで勝負を決めた。
試合後、テーブスは「小酒部が乗っていたので、みんながスペースを広げて、全部彼が判断できるプレーをコールしました。自分にはシュートタッチが悪くても、ああいう場面で打ち切る役割があると思います。ただ、あの場面は彼が打つ権利があると思いました」と判断の背景を説明した。
今シーズンは負傷欠場が多く、Bリーグではここまで30試合中9試合の出場にとどまる。ただ、ゲーム感覚には手応えがあると言う。
「ここ数年で代表戦や天皇杯決勝、BリーグのCSといろんな経験をさせてもらっています。試合中には流れが変わるポイントが6〜7個くらいあると思いますが、その見極めと、ポイントを感じた時に自分でプレーをクリエイトする遂行力が徐々に上がってきたと思います。ゲームを読めてる感覚はありますね。自分のシュートが入る、入らないは別として、ゲームに勝つためのアジャストの手応えは年々増していると感じています」
この感覚は、決勝でも遺憾無く発揮された。

「入るのを待つ時間はない」3Pを2本外して決断
先述のように、三河がボールマンに対して主にアンダーで対応してきた中、テーブスは第1Qで積極的に3ポイントシュートを狙うが、2本連続でミス。大会を通してシュートタッチの良さが戻らない中、迷わず選択の質を変えた。
それが、第2Qの序盤で試合の流れを変えたペイントアタックにつながったのだという。
「普段から打ち続けるメンタルでやろうとしていて、Bリーグだといずれは決めないといけないのですが、決勝の一発勝負で自分のシュートが入るのを待つ時間はありません。ザックや福澤選手、小酒部選手などいいシューターがいるので、『タッチが悪いな』と思った瞬間、早めに自分の一番の強みであるペイントアタックを使えたことが、チームに流れを持ってくることができた要因だと思います」
大会や勝負の特徴を加味したこの仕様変更こそが、PGとしてのテーブスの成長ぶりを象徴している。
要所で3ポイントシュートを3本決め、優勝に大きく貢献した福澤も「相手にアンダーされてうまくいかない部分もありましたが、海が落ち着いてペイントタッチをしてくれたおかげで、いいシュートが打てました。それは彼が一番得意な部分なので、しっかりやってくれて良かったと思います」を状況判断の良さをたたえていた。
決勝は30分32秒出場し、スコアこそ8得点と控えめだったが、5アシストを記録してターンオーバーはゼロ。これまでビッグゲームでなかなか力を証明することができていなかっただけに、テーブスはしみじみと喜びを噛みしめる。
「チームを勝たせられるポイントガードになるために、いろいろ考えて、何度もミスをして、負けての繰り返しでした。大きな舞台でやっと優勝できて、報われたというか…。今までやってきたことが間違いないということを証明できて、本当にうれしいです」
自身のシュートが入らなくても、流れを読み、勝ち筋を見失わない。経験と失敗を積み重ね、再現性のある力を身に付けつつあるテーブス。名門としての矜持を取り戻したA東京が、さらに結果を積み重ねていく上で要の存在であり続けるはずだ。

(長嶺真輝)






