
試合終了のブザーと同時に、込み上げる感情を抑えきれずに両手で頭を覆い、フロアにしゃがみ込んだ。チームメイトが折り重なるように飛びついていく。立ち上がり、歓喜の輪の中心から出てきた宮崎早織は、トレードマークの笑顔ではなく、感極まった表情で涙を流していた。
1月11日、東京の国立代々木競技場第一体育館。バスケットボール女子の第92回皇后杯全日本選手権大会ファイナルラウンドの決勝が行われ、ENEOSサンフラワーズがデンソーアイリスに76-62で勝利し、3大会ぶり28度目の優勝を果たした。
今シーズン限りの引退を表明している宮崎にとって、現役最後の皇后杯だった今大会。16得点4リバウンド7アシストを記録した自身は5大会ぶり2回目の大会ベスト5にも選出され、有終の美を飾った。
名門として女子バスケ界を彩ってきたENEOSにとって、今回の優勝が持つ価値は看板選手の節目というだけにとどまらない。3大会前の10連覇をけん引した渡嘉敷来夢らベテラン陣は、一人、また一人と新天地へ移り、チームは若返りが進む。
世代交代のただ中でつかんだ銀色の賜杯は、ENEOSの未来に光を照らす輝きを放った。

強烈DFと3ポイント攻勢で突き放す
皇后杯ラストダンスの舞台に立った宮崎のスピードを生かしたレイアップシュートで幕を開けた頂上決戦。ペイントエリアへの進入を簡単に許さないディフェンスを徹底し、196cmの高さを誇るプレッチェル・アシュテンを中心にリバウンド争いを制したENEOSが流れをつかむ。
第2Q終盤にはアシュテンと馬瓜エブリンの連続3ポイントシュートで突き離し、40-28で前半を折り返した。この時点で、デンソーの主力である髙田真希と赤穂ひまわりを得点ゼロ。いかにENEOSのディフェンスが機能していたかが分かる。
第3Qは強度を高めたデンソーのディフェンスの前に「ペイントアタックが全然できなくなってしまった」(宮崎)とオフェンスが停滞し、猛追を受ける。46-46の同点に追いつかれ、運命の第4Qに突入した。
オフェンスを修正し、最終クォーターは宮崎が2本連続レイアップシュートを決めてスタートした。馬瓜を中心に活発に声を掛け合い続けたENEOSは、最後までディフェンスの集中力を維持。勝負所での馬瓜、アシュテン、田中こころ、宮崎による3ポイントシュート攻勢で突き離した。
「選手たちが自分たちのやるべきことを徹底してやり続けてくれたことに尽きます。いいディフェンスからイージーオフェンスに持っていくことができました。第3Qに追い上げのパンチを食らう時間がありましたが、最後まで全員が一つになって戦い抜くことができました」
ENEOSのティム・ルイスHCは、選手たちを手放しでたたえた。
馬瓜は「宮崎選手の最後のシーズンに優勝をプレゼントできたことは本当に素晴らしく、心からうれしいです」と、親友の節目に花を添えた達成感を口した。他選手からも異口同音なコメントが聞かれ、「宮崎のために」という強い意思がチームの一体感を高めたことは間違いない。

若手が多い中で優勝…宮崎「意味は全然違う」
冒頭の場面を経て、優勝インタビューでコート中央のマイクの前に立った宮崎。時折鼻をすすりながら、栄冠を噛み締めるように喜びを語った。
「本当に、本当に、うれしいです。何回も優勝したことはありましたけど、こんなにうれしくて、うれしくて、涙が止まらない優勝は初めてだったので、最高のチームメイト、スタッフ、ファンの皆さんに恵まれて、今ここに立ってインタビューを受けられていることが本当に幸せです」
ENEOS一筋の宮崎がWリーグデビューを果たしたのは、チームがWリーグと皇后杯の両タイトルで連覇の真っただ中にあった2014年。優勝経験は極めて多い。ただ、記者会見でも「(今回の)優勝の意味合いは全然違います」と言い切った背景には、この数年でチーム編成がガラリと変わったことがある。
皇后杯において、ENEOSが前回優勝したのは2022年度の第89回大会だ。その時の決勝では、渡嘉敷来夢、長岡萌映子、林咲希の3人が40分フル出場。岡本彩也花らも含め、黄金期を支えた当時のベテラン陣はいずれもチームを離れ、今はいない。チーム最年長となった30歳の宮崎、同級生で今シーズン加入した馬瓜、そして現キャプテンの星を除くと、主力としてタイトル獲得経験のない若手が多くを占める。
前回の第91回大会ではファイナルラウンドの初戦となるベスト8で敗退。チームが新陳代謝を進めた代償と言っていいだろう。名門の看板を支えてきた先輩たちが続々とチームを離れる中、宮崎にかかる重圧は大きかったはず。「また新しいメンバーで優勝できたことは本当にうれしいです」と柔和な笑顔で話す姿は、少し肩の荷が下りたかのようだった。

宮崎、馬瓜が背中で示すこと
今大会では宮崎に加え、馬瓜と星も大会ベスト5に選出。特に決勝でゲームハイの23得点に加え、8リバウンド3スティールという圧巻のスタッツを記録した馬瓜はMVPにも輝き、加入1年目にしてチームを優勝に導くパフォーマンスを見せた。
ただ、活躍が目立ったのは何もこの3人だけではない。いずれも20歳の八木悠香と田中こころら若手も含め、コートに立つ選手が高い遂行力でプレーし続けた。宮崎もチームメイトを誇る。
「ベンチメンバーが出てきた時にしっかり点を取ってくれたことが、大会を通してすごく成長した点だと思います。八木とこころに関しては、素晴らしい選手がENEOSに入ってくれたとうれしい気持ちでいっぱいです。星もキャプテンとしてすごく成長してくれました。私とエブリン以上に、若い子たちが成長し続けてくれたことが、この勝ちにつながったと思っています」
Wリーグプレミアにおいて、ENEOSは現在、10勝12敗で5位。「ここまでくるのは簡単ではなかった」と言うように、世代交代の現実と向き合いながら模索を続けている。だからこそ、チームで勝ち切った皇后杯で得た成長の実感と手応えは、より大きいものだったはずだ。
これからWリーグの戦いに戻り、トッププレーヤーとしての宮崎の旅はまだ続く。プレーやコミュニケーションを通し、次の世代へ伝えたいことは何か——。そう問われると、「常に楽しんでほしい」と言った上で、トップレベルに身を置く選手としての在り方に言及した。
「選手は勝ち負けに支配されがちな人生だと思います。常に誰かと比較されて、シュートが入らなかったら自分の価値はないんじゃないかと思う選手も多いです。でも、みんなに価値がある。それを忘れないでほしいです。仲間がいること、練習ができること、好きなことをやってお金がもらえることに常に感謝をして、前に進んでいってほしいです。一発のビッグプレーより、常に軸があり、ぶれない選手であり続けてくれたら、絶対に勝ちが降りてきます。ヘッドダウンすることがあっても、常に前を見続けてほしいと思います」

宮崎と馬瓜を筆頭に、指針となる先輩たちの背中は次世代を担う選手たちに刺激を与えている。
星が「チームを巻き込む力は(宮崎と馬瓜の)二人にしか出せない部分が多く、まだまだ自分には足りません。二人がいる間にしっかりと学び、みんなを引っ張っていけるキャプテンにならないといけないと思っています」と決意を語れば、八木も「厳しいことも含め、練習中からいろんな選手に声をかけている姿は『さすがだな』と思います。若い時から、この二人とバスケができて本当に良かったと思うので、今のうちにたくさん学びたいです」と言う。
どんな選手でもプレーに波はある。時には、選手としての自身の存在価値を見失いそうになる時があるかもしれない。それでも、日々の積み重ねを怠らず、コート上で自分のやるべきことを徹底する。3大会ぶりに取り戻した皇后杯の頂点は、宮崎が名門で培ってきた勝者のメンタリティーが、新しいENEOSにも引き継がれ始めていることの証左と言えるだろう。
(長嶺真輝)






