
ヘッドコーチ(HC)がトム・ホーバス氏から桶谷大氏に交代したばかりのバスケットボール男子日本代表(FIBAランキング22位)が、いきなり大一番に臨む。
迎えるのは、16チームが4グループに分かれて実施している「FIBAワールドカップ2027 アジア地区予選」の1次ラウンドにおけるWindow2である。グループBの日本は、沖縄サントリーアリーナで2月26日に中国代表(同27位)、3月1日に韓国代表(同56位)と対戦する。
日本はWindow1でチャイニーズ・タイペイ代表(同68位)に2連勝しており、2勝0敗で首位を走る。2位韓国も2勝0敗で、3位中国は0勝2敗。7月には両国とアウェーで対戦するため、今回のホーム2試合の重要度は極めて高い。
FIBAランキングやグループ内順位だけを見れば、この3カ国の中で日本はトップに位置する。ただ、現状の力関係をそのまま反映したものかというと、必ずしもそうとは言えないだろう。
昨夏のFIBAアジアカップ2025において、日本が準々決勝進出決定戦で敗退して9位だったのに対し、韓国は6位、中国に至っては準優勝を果たしている。その後のアジア地区予選Window1では、その中国に対して韓国がホーム&アウェーで2連勝を飾り、勢いに乗る。Bリーグ組で挑む日本にとっては、両国とも、むしろ挑戦者として戦うべき相手と言えるだろう。
「桶谷ジャパン」の真価が、初陣からさっそく問われる。

目次
短い準備期間…異例の現地合宿で「コミュニケーションを」
日本バスケットボール協会(JBA)がホーバス氏との契約終了を電撃発表したのは2月2日のこと。翌日には記者会見が開かれ、島田慎二会長と伊藤拓摩強化委員長が登壇した。
島田会長は、日本が48年ぶりに自力でオリンピック出場権を勝ち取るなどの功績を残したホーバス氏に感謝を示した上で、「12年先を見据えた長期方針を策定し、1月初旬にホーバス氏に説明を行いましたが、双方の考えに相違がありました。確固たる信念を持つホーバス氏に方針の修正をお願いすることはリスペクトに欠けるという判断のもと、JBAから契約の解消を提案しました」と経緯を説明した。
その場で伊藤強化委員長から発表された後任が、桶谷氏である。
京都府出身の48歳。米国でのコーチング留学を経て、2005年に旧bjリーグの大分ヒートデビルズのアシスタントコーチ(AC)としてコーチキャリアをスタート。2008年から4シーズン務めた琉球HC時代に2度のbjリーグ制覇を果たし、その後は岩手ビッグブルズ、大阪エヴェッサ、仙台89ERSを渡り歩いた。2021年に琉球HCに再登板してからは、4シーズン連続でチームをBリーグファイナルに導き、2022-23シーズンには初優勝を達成している。
「最強の布陣で、最高の一体感を」というコンセプトを掲げた伊藤強化委員長は、NBAでのコーチ経験が豊富な吉本泰輔氏(Gリーグ:Grand Rapids Gold)とライアン・リッチマン氏(シーホース三河HC)の2人がACに就任するなど、スタッフ陣に厚みを持たせる新体制を発表。その上で、桶谷氏にオファーした理由について「一緒に仕事をする人たちの力を最大限に引き出してチームをつくり、勝っている」と述べ、高いマネジメント能力が挙げた。
確かに、若手や経験の浅い選手を積極的に起用し、シーズン終盤に向けてチーム力を高めていく桶谷HCの手腕に疑いの余地はない。ただ、代表チームは試合や大会ごとの間隔が長く、さらに今回に限っては、就任が発表された月に試合を行うという強行スケジュールである。
チームの一体感を高めるため、JBAは2月中旬から沖縄サントリーアリーナで直前合宿を敢行。代表合宿は東京の味の素ナショナルトレーニングセンターで行うことがほとんどのため、異例の対応と言える。
2月18日に行われたメディアデーでは、桶谷HCはコートを歩きながら選手、コーチと積極的に会話をしていた。取材対応でも「中国戦までの8日間、コミュニケーションをしっかり取りながら、どういうオフェンス、ディフェンスをやるかを理解していってほしいと思います」と語り、対話を重要視する姿勢を示した。
体制変更後の切り替えという意味でも、選手にとっていい機会になっているようだ。馬場雄大は「試合の場所でキャンプをするのは初めてなので、新鮮な空気が流れていると思います。雰囲気はすごくいいです」と述べ、柔らかい笑みを浮かべた。

タイムシェアできるか…中国戦で問われる「インサイド陣」の存在感
直前合宿に招集された16人の顔ぶれを見ると、キャプテンに就任した富樫勇樹を筆頭に、渡邊雄太や馬場、西田優大、富永啓生、ジョシュ・ホーキンソンなど、ホーバス体制からの常連組が順当に選出された印象だ。それに加え、目立つのはシェーファーアヴィ幸樹、佐土原遼といったインサイドを担える選手が多く呼ばれていること。渡邉飛勇やアレックス・カークも名を連ねる。
210cm台も含め、200cm以上の選手が多い中国戦においては、彼らがどれだけインサイドで戦えるかが勝負の鍵を握る。2月13日にあった就任会見の際、桶谷HCも以下のように中国戦を見通した。
「(中国は)韓国に連敗した時、ハンドラーでスコアラーのエースがいなかったので、彼がいるとチーム力が変わってきます。彼をどう抑えるか。あとはやっぱりサイズがあるので、そこは警戒しないといけない。今回は代表メンバーに入っているインサイド陣が本当にキーになってくるんじゃないかと思っています」
ビッグマンの中で機動力の高さとシュートレンジの広さを持つ選手という意味では、渡邊雄太とホーキンソンが突出した能力を持つ。それもあり、80-73で辛勝したWindow1の2戦目ではホーキンソンがフル出場、渡邊が37分にわたってコートに立った。このプレータイムの偏りについて、伊藤強化委員長はその後のメディアブリーフィングで「理想的かというとそうではない」と課題感を口にしていた。
サイズの小さいチャイニーズ・タイペイが相手ならまだしも、高さのある中国やフィジカルの強い韓国を相手に、これだけの時間をプレーすれば、試合終盤でパフォーマンスが低下する懸念は拭えない。
ビッグマンの起用法について桶谷HCに聞くと、「ゲームにならないと分かりませんが…」と前置きした上で、以下のように見通した。
「一定の選手のパフォーマンスが下がるようであれば、交代メンバーを使いながらやりくりしていかないといけません。ただ、ホーキンソンや渡邊はある程度の時間出場しても高いパフォーマンスを出すことができます。そのあたりはコミュニケーションを取ってプレータイムの話をしたいと思います」
久しぶりの代表招集となったシェーファーは、Window1の内容を念頭に「ジョシュと雄太さんを出し続ける判断をせざるを得なかったのは、その時にいたビッグマンが(代わりになる仕事を)できなかった部分があると思います。まず、HCに出したいと思わせるだけの信頼を勝ち取りたい。彼らの負担を減らす役割を担いたいと思います」と野心を口にした。
ホーキンソンと渡邊の2人がいない時間帯に、いかにゴール下のディフェスやリバウンドで我慢し、チームでオフェンスを組み立てられるかは見どころの一つだろう。

人とボールが停滞するオフェンス、課題改善なるか
韓国については、サイズが特段大きいわけではないが、かといって、日本ほど小さいわけでもない。200cm前後で体が強く、シュート力の高い選手を揃える。主に5アウトで攻め、Window1では2戦ともチームの3ポイントシュート成功率が45%を超えた。
桶谷HCは、長崎ヴェルカに所属する韓国のエース、イ・ヒョジュンに触れながら、試合の鍵を以下のように語った。
「韓国には長崎の素晴らしいシューターがいて、他にもシュートが入る選手は何人かいます。サイズこそ、そこまで大きくはないチームですが、中国に勝った勢いもあります。外からのシュートを気持ちよく打たせないことが一番大切だと思っています」
ディフェンスについて、西田は2試合ともに「フィジカルで負けちゃいけない。自分から当たりに行く」と強い気持ちで臨む。馬場もチームメイトであるヒョンジュンとの対戦に向けて「自分が守れないんだったら負けるくらいの気持ちでやっていきたい」と語り、ハードに戦う意思を示した。高い位置から激しいプレッシャーを仕掛け、主導権を握りたいところだ。
オフェンスでも、圧力の強い韓国のディフェンスを突破できるかは勝利に向けた大きなポイントになる。昨夏のアジアカップ以降、日本はハーフコートのオフェンスでボールと人の動きが停滞する時間帯が散見されており、西田も「うまくいかない時間帯は、上でしかボールが回ってなくて、相手に走られてしまう」と課題感を口にした。
新体制でどのようなオフェンスを展開するかは気になるところ。渡邊がその一端を明かした。
「ポジションレスで、より人とボールを動かしながら、という部分は強調してやっていました。ビッグマンがリバウンドを取ってボールを運んできたり、ガードがダンカースポットに入ったりすることもあると思います。ポジションレスは最近NBAでも多くなっていますし、自分たちにもフィットしていくんじゃないかと思っています」
ホーバス体制で重視していたペース&スペース、積極的なペイントタッチと3ポイントシュート、激しいディフェンスなどを継承した上で、さらなる進化を遂げることができるか。短い準備期間ではあるか、その片鱗を少しでも多く見せたい。
ワールドカップ出場に向けた重要な2試合に向け、渡邊は強い覚悟のコメントも発した。
「ここ数年、日本の方がFIBAランキングが伸びていってる中で、おそらく中国、韓国は相当悔しいと感じていると思います。僕が逆の立場だったらそう思います。『絶対に日本を倒してやる』という気持ちで来るのは間違いないので、FIBAランキングが上だとか、そういうところは一切気にせず、倒すべき相手として、チャレンジャーのつもりでやっていければなと思っています」
今後を占うWindow2の戦いが、まもなく始まる。

(長嶺真輝)






