「サンフラワーズが帰ってきました!」
文字通りの激闘を終えての優勝インタビュー。チームの“太陽”・渡嘉敷来夢がそう叫んだ。
そして、満面の笑みは、数秒の後に歓喜の涙顔となった。
「優勝して泣くキャラじゃないんですけど、涙が止まらない…」
目次
平均18得点12.7リバウンドで3度目のMVP受賞
15日よりWリーグの優勝決定戦のファイナルが武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)で行われ、17日の第3戦でENEOSサンフラワーズがトヨタ自動車アンテロープスを度の延長の末に72-64で下し4年ぶり、日本リーグ時代を含めると通算23度目のリーグ優勝を果たした。
初戦はトヨタが55−47というロースコアで制し、翌第2戦はENEOSが出だしからディフェンスの強度を生かして74−65で勝利。シリーズはタイとなって勝負は最終戦にもつれ込んだが、ダブルオーバータイムの激戦を「前・女王」が制した。
MVPはシリーズで平均42分強の出場時間で同18得点、12.7リバウンドを挙げた渡嘉敷来夢が、8年ぶり3度目の受賞となった。ENEOSは12月の皇后杯(全日本バスケットボール選手権)と合わせて、二冠を達成した。
試合はレギュレーション内では決着がつかず、それは延長でも同様だった。しかしENEOSは2度目の延長の残り2分を切ったところから林咲希が3Pを沈めると、続いて宮崎早織が相手のターンオーバーを利したファストブレークからバスケットカウントによる3点プレーを決めるなど3連続得点で引き離し、勝利を勝ち取った。
2度の延長も冷静「長引けば長引くほどうちが有利かなって」
第1クォーターを10-10、第3クォーターを42-42、そして第4クォーターを53-53、1度目の延長を61-61と同点で終えていることが、両軍の力量がどれほど拮抗し、激しくぶつかりあったことの証左だ。
疲労から双方とも終盤は脚が動かなくなるところも見受けられたが、ボクシングで言えばフットワークを使わずに近距離で戦う、そんな打ち合いを演じた。
そのような状況で当然、勝負はどちらに転んでもおかしくはなかったが、最後に相手に一撃を与えることができたのが、経験の面でトヨタ自動車を上回り王座奪取に燃えていたENEOSだった。
そして、その燃えるENEOSにエネルギーを注入し続けたのが、渡嘉敷だった。
「長引けば長引くほど、うちが有利かなって正直、思っていました。そしていつか絶対、自分たちの時間帯が来ると思っていたので、それが最後の最後に、我慢をして出た結果だなって思っています」
試合後、渡嘉敷はそのように試合を振り返った。
延長に入る直前、両腕を大きく上下させて会場のファンへ向けて「力をくれ」と煽ったが、それは「自身もまだまだいけるぞ」というアピールにも見えた。
もちろん、WリーグのMVPに7度輝いたことのあるスーパースターでも、コートを走り回っていればいつか疲れが襲ってくる。延長を2度も戦う試合の大半でコートに立ち続けたならなおさらだ。それでも、193cmの彼女には抜きん出た実績と経験があり、そのなかで培ってきた人一倍の自信と負けん気があった。
「いままでのENEOSの練習、めちゃくちゃきつかったんですよ。もう本当に走る練習ばっかりだったので、なにかそれも(最後に走り負けなかった理由として)あるのかなっていうのはちょっと感じました。なので、自分はもう3戦目になった時点でトヨタの選手たちに走り負けるわけがないって自分に言い聞かせていました」
屈託のない笑顔で話すことはなかば渡嘉敷の特徴となっているが、その表情とは裏腹に言葉は強気だ。
「それは『だって、やることやってきたし』みたいな。そういう自信のようなものはありました。経験というよりも『やることをやってきたから大丈夫』『走るのも自分のほうが速いし』とか、なんかそういうことばっかり考えて自分は戦っていました。やっぱり年下には負けられないという気持ちだったり」
大ケガ乗り越え リーダーとしてチームをけん引
2018-19シーズンまでの11連覇の大半に関わっている彼女だが、大崎佑圭氏や吉田亜沙美氏といった年長のスター選手たちがいたその頃とは違い、いまはより「絶対的な」存在としてチームを牽引する。いまのENEOSで渡嘉敷以外に11連覇を中心として経験している選手はほかにいない。それだけに、今回の優勝は多分に渡嘉敷によるところが大きかったし、彼女自身もリーダーとして責任を一手に引き受けていた。
たとえば、ファイナル初戦。ENEOSは出だしが重たく、前半終了時でトヨタに21点もの差をつけられてしまい、それが響いて試合を落としている。翌日の第2戦の勝利後、渡嘉敷はこの初戦で「自分のエネルギーが足りなかった。プレー面とかではなくて、盛り上げかたや見せかたで、たぶん他のメンバーはちょっと緊張したり不安になっちゃったのかなというのを反省しました」と話している。
自身の表情や言動などがどれだけチームに与える影響が大きいかを理解しているからこそ、精神面でも味方を支え、鼓舞する役回りもこなす必要があった。今季、キャプテンに就任してもチームに対してのアプローチでなにか変えたところはないと言った。また今年のENEOSの面々はみな「負けず嫌い」で「誰か1人が(精神的に)落ちてもみんなが落ちることがない。それが今のこのチームの強さ」としたが、そうした集団を作り上げたのは渡嘉敷というチームを明るく照らす“太陽”のような存在があったからこそではないか。
いつも明るい渡嘉敷も、自身の東京オリンピック出場を阻んだヒザのじん帯の断裂という大けがもあって、ここ数年「定位置」だったリーグ優勝から遠のき「しんどかった」とファイナル後には苦しかった胸の内を吐露した。
そんな彼女を「勝たせてあげたい」とまわりが感じていたこともまた、優勝をつかみとる強さにつながったように見えた。現チームではもっとも長く渡嘉敷とともにプレーをしている宮崎は、こう述べている。
「タクさん(渡嘉敷)がケガをしてしまって、やっとのファイナル。シーズンが始まって誰よりも声を出し続けて、(でもファイナルでは)すごい緊張していたと思うし、プレッシャーがあったなかで、体を張って頑張ってきたのを私はずっと見ていました。勝ちたいという思いは開幕戦からずっと伝わってきていたんですけど、代表から合流する選手がいたり、萌映子さんが入ったとかそういうのでプレーが合わなかった部分もあるんですけど、それでも大丈夫、大丈夫って全員に声を、シーズンを通してかけてくれていたので、優勝ができてよかったですし、パスを出し続けて、信じてよかったなって私自身も思っています」
渡嘉敷がチームをグイグイと引っ張ったのは間違いないが、彼女の仲間たちも彼女を勝たせてあげたいという気持ちを持ちながら、信じてついていった。それが今回の優勝につながったように映った。
トヨタは3連覇逃すも自主性重んじる文化を醸造
一方、トヨタは3連覇達成には一歩、手が届かなかった。しかし、実力で劣っていたことがその結果を招いたわけではないことは、このファイナル、とりわけ最終戦の大接戦を見た者ならばわかるはずだ。
同チームの大神雄子ヘッドコーチもこの最終戦を「みんなが全力を尽くしたベストゲームだった」と、試合中に枯らしてしまった声で話した。記者会見に出席した大神氏も馬瓜ステファニーも山本麻衣も、悔しさから目に涙を浮かべたが、自分たちもとことん入り込むことができ、また見るものを震わせるような、バスケットボールの面白さを示す試合を体現できたことに対する満ち足りた気持ちも持っていたはずだ。
それは選手たちの、このようなコメントからもうかがえた。
「もう途中から勝ち負けとかよりも、ずっとこの時間が続けばいいじゃないですけど、楽しくなってきちゃって」(馬瓜)
「みんなでここまで成長してこられて、最後はオーバータイムまでみんなとプレーできたことがすごく嬉しく思います。一番いい顔をしていたと思います、トヨタが。それは自信を持っているので、この経験を来年につなげて、また戻ってきたいと思っています」(山本)
2020−21シーズンで最初のタイトルを獲得したあとに先発PGだった安間志織(現イタリアリーグ・Umana Reyer Venezia所属)が抜け、連覇を達成した昨シーズン後には三好南穂氏(現トヨタ・サポートスタッフ)が引退し、馬瓜エブリンが休養を発表している。指揮官の大神HCも今シーズン就任したばかりだ。これだけ大きく状況が変わったにもかかわらず、再度、ファイナルの舞台に戻ってきたのは、このチームが真の意味での強さを手にしつつあることを示している。
大神HCが選手としてトヨタに加わった2015年頃からトヨタは、従来の女子バスケットボールチームのあり方に変革をもたらすべく努めてきたが、それが昨シーズン前の連覇という形で結果として表れた。そしてその大神氏がHCとなり、単なる指導者側からの上意下達ではなく選手たちに自主性をもってプレーしてもらうことや、彼女らに選手を終えたあとにも生きる優れた人間力を育むといった、長期的な視点を意識しながらチームを構築している。
選手たちに「任せる」という部分は、このファイナルを見ていても選手たちがコートで頻繁にハドルを組むことや、従来の感覚であればタイムアウトを取る場面で大神HCがそうしないといったところでわかった。
「できるだけ選手たちでちゃんと話して解決できるところは選手たちに託しています。それは普段の練習からつねにコミュニケーションを取ってねというところから、そういうところがようやく生まれてきたのかなと思っています」
ファイナル初戦後、大神HCはこのように述べている。
ファイナルを振り返って、厳しいことを言えばトヨタの選手たちには要所でターンオーバーなどのミスをしてしまったことが、結果的には優勝を逃す原因になったと言えた部分があった。だが、間違いを犯してすぐに交代させて目の前の試合の勝利だけを目指すといった「文化」は、大神HCを中心としたいまのトヨタにはない。
「ステファニーや山本は(3人制バスケットボールで)東京オリンピックに出たと言っても、いま24歳(山本は23歳)で、大会の数など経験の数はやっぱりまだ少ない。どっちを取るかなんですけど、ワンミスで交代させる選手と、しっかりと使ってそのなかで自信をつける選手がいるとしたら、私は後者。全員で(ミスを)補っていくというのが今年のチームスタイルなので、コーチもときに我慢と辛抱のなかでやっていますが、今シーズン通して我慢をするチームができあがってきていると思います」
かくいう大神HCも、自身が指導者としてまだまだ途上にあり、スタイルを作り上げていきたいと、シーズン序盤には殊勝に語っていた。彼女も、スペイン女子代表の指揮官を兼任していた前任者のルーカス・モンデーロ氏の後を継ぎ、人知れず重圧と戦ってきたに違いないが、今後、彼女が先頭に立つトヨタがどんなチームとなり、日本の女子バスケットボール界にさらなる新風を吹かせるのか。
今回のファイナルに負けても期待の度合いは褪せない。
(永塚 和志)