川崎との激闘を1勝1敗で終えたサンロッカーズ渋谷がCS進出に望み残す 田中大貴「どうしてもCSで戦いたい」
シュートを放つサンロッカーズ渋谷の田中大貴©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 シーズン前に紹介された豪華な机上の戦力とは裏腹に、苦悩の1年を送ってきた。

 それでもなんとか、もってきた。

 サンロッカーズ渋谷は27日と28日、ポストシーズンの椅子を直接的に争う川崎ブレイブサンダースとの2戦を1勝1敗で終え、チャンピオンシップ(CS)進出の可能性を残した。

 あまりに重たい意味を持つ28日の2戦目。前日、敗れていた渋谷は薄氷の思いで、白星を掴んだ。

 渋谷は試合残り3分を切って12点のリードを築くも、今季をもって引退するニック・ファジーカスのホーム最終戦に華を添えたい川崎が、ファジーカス自身によるものも含めて4本連続で3Pを沈め、残り12秒で同点とする。

 しかし、直後のオフェンス。渋谷は田中大貴がコーナーからのドライブインでレイアップをねじ込み、再リード。タイムアウトが解け、試合時間残り3秒。川崎は藤井祐眞がシュートを打てずそこからパスを受けたファジーカスが逆転の3P を放つも、入らず。渋谷が79−77で、歓喜と嘆息が入り交じるとどろきアリーナでの激闘を制した。

ダンクを決めるジョシュ・ホーキンソン©Basketball News 2for1

ベテラン田中が“経験”生かし決めた決勝点

 前日の試合も川崎が1点差(69-68)で勝利する僅差となったが、渋谷のルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチは試合後、「再びこことどろきアリーナにおいて、ドラマチックな試合となりました」と述べた。その表情と声から疲労の色は隠せていなかった。無理もない。12点差をつけ試合を手中にしたかと思ったところからの川崎による同点劇で、肝を冷やさない者などいるはずはなかった。

 27日の敗戦ではフィールドゴール7本のうち1本も決められず無得点に終わった32歳による決勝レイアップは、シーズンが終わった時に渋谷の1年の中でも最も貴重なものとなるかもしれないシュートだった。

 ベテランならではの「読み」が奏功した、シュートだった。トーマス・ウィンブッシュが同点3Pを決めた時点で渋谷にはもうタイムアウトは残されておらず、そのまま攻撃をせざるをえなかったものの、コーナーに位置取っていた田中は時間がない中、それまでの川崎の守り方の傾向からどう動くべきかと瞬時に判断した。

 「コーナーのところで自分も昨日、篠山(竜青)選手にスティールをされましたが、そこで寄ってくるので、もし自分のところにパスが来たら縦に(リング方向に)割れるなっていうのは構えながら思っていました」(田中)

 リングに押し寄せる田中の前に長谷川技が立ちはだかるも、田中は構わず跳躍。フィンガーロールで放ったボールはゆっくりとリングに吸い込まれた。

 これで渋谷はシーズン成績を33勝25敗とし、B1中地区の3位へと浮上。自動的にCSへの出場となる2位のシーホース三河はこの日、佐賀バルーナーズに敗れて34勝24敗となった。ワイルドカード争いでも、同1位の広島ドラゴンフライズ(35勝23敗)、同2位の千葉ジェッツ(34勝24敗)に肉薄している。

SR渋谷の指揮を執るルカ・パヴィチェヴィッチHC©Basketball News 2for1

2勝9敗スタートから積み上げた勝ち星

 なんとか、もってきた。

 冒頭でも記したが、今シーズンの渋谷についてそう感じる者も少なくないのではないか。

 シーズン前。田中やジョシュ・ホーキンソンアンソニー・クレモンズといった補強を施し、新指揮官にはアルバルク東京を2度のリーグ制覇に導いたパヴィチェヴィッチ氏を招聘。気の早い一部からは優勝候補とすら目された。

 ところが、ジェームズ・マイケル・マカドゥが故障(左肩関節後方関節唇損傷)により開幕から欠場したことや、ワールドカップに出場したホーキンソンのチーム合流が遅れたことでチームとしての練習がままならなかったこと、シーズン開幕後も陣容のコンディショニングがなかなか万全とはならず(ここまで全試合出場はクレモンズ、津屋一球ベンドラメ礼生のみ)となるなどの要因が重なったことが苦しみを呼んだ。

 開幕からの4連敗を含め、13試合で早くも10敗を喫した。マカドゥ不在のチームは10月下旬に急遽、43歳のジェフ・ギブスを獲得するも、リバウンドで低迷するなどインサイドゲームが展開できないことで安定感を欠く。順位は下位に沈んだ。

 それでも、パヴィチェヴィッチHCのA東京時代から知られるディフェンスの強固さを中心として、黒星よりもより多くの白星を刻むようになった。3月末からは5連勝を記録。さらには4月中旬には中地区首位の三遠ネオフェニックスから連勝を挙げ、CS戦線に浮上してきた。

 パヴィチェヴィッチ氏とともにアルバルクで優勝を含め幾度もポストシーズンを経験してきた田中は、2023-24が「今までに経験したことがないくらいいろんなことががある長いシーズン」「CSなんてちょっともう、追いつかないかなというところだった」と認めた。

 それでも、練習の厳しさで知られるパヴィチェヴィッチ氏が「チームをプッシュ」して戦い続けたからこそ現状の位置にまで上がってくることができ、「すごく充実した感情を持っている」と田中は、抑制された表情で語った。

CS進出に望みを残している©Basketball News 2for1

最終節はB1残留かかる信州と対戦 「気持ちで上回らないと」

 試合中にまとっていたスーツとシャツを脱いでより体の締付けの少ないTシャツ姿で会見場に登場したパヴィチェヴィッチHCも、「この川崎とのシーズン57試合目、58試合目を分けて終わることができたことはいい仕事だったと言えますし、そのことで私たちがプレーオフに行く可能性もまだ現実的なもののままです」と、最終節へ向けて前向きと言える発言をした。

 もっとも、そう口にするパヴィチェヴィッチ氏の表情の険しさが緩んだわけではない。それは田中にしても同じだった。最終節。渋谷はホームで信州ブレイブウォリアーズとの2戦を行うが、仮にこれを連勝したとしても上位のチームの勝敗次第では、シーズンはそこで終わりとなってしまう。

 川崎との2戦では中心選手の1人、ライアン・ケリーが「コンディション調整」のために欠場している。最終節で復帰すれば当然、チームの後押しとなるが、でなければ降格の危機に瀕し、遮二無二向かってくるだろう信州に対して苦戦する可能性もある。

 「自分たちはまだ、何も成し遂げたわけじゃない」

 田中がそう語る。それは、むしろ自分たちに対して言い聞かせる言葉のようだった。

 「今シーズンに関しては、どうしてもCSに出てその舞台で戦たい」と口調を強くした彼は、シーズン開幕からの戦いぶりに苦しみがあったことは否定しなかったものの、だからといって「誰々がいない」といった言い訳を求めずに、チームがパヴィチェヴィッチ氏ら首脳陣から求められることを愚直にこなしてきたからこそやがて結果がついてくるようになったと強調する。

 「自分たちが次の節で負けてしまったりそういうもったいないことは絶対にしたくない。信州さんもまた違った意味で、このリーグに残るか残らないかというところで次の試合に賭ける思いは強いでしょうし、気持ちの部分で自分たちが上回らないと難しい試合になるので、そこの準備をする必要があると思います」

(永塚 和志)

記者の質問に答えるパヴィチェヴィッチHC©Basketball News 2for1

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