来月27日に開幕するパリ五輪に向けて、現在強化合宿を行っているバスケットボール男子日本代表(FIBAランキング26位)。22日と23日に北海道で行われたオーストラリア(同5位)との強化試合では代表候補16人がプレーし、ロスター12枠をめぐる激しい争いが続いている。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)によると、28日から再開される合宿からはNBA組(八村塁、渡邊雄太)も合流予定で、パリ五輪に向けたチームづくりは佳境を迎えていくことになる。
そんな中、オーストラリア戦で素晴らしい活躍を見せたのが渡邉飛勇だ。現在25歳の渡邉は207㎝のビッグマン。2021年の東京五輪でロスター入りした12人のうちの1人であり、東京五輪後はBリーグ琉球ゴールデンキングスでプレー。チームの初優勝にも貢献した。
ホーバスジャパンでは23年2月のワールドカップアジア予選イラン戦で代表デビュー。昨夏W杯でのメンバー入りも期待されていたが、同年8月に行われたアンゴラとの強化試合で右肩を負傷し、チームからの離脱を余儀なくされていた。W杯のリベンジ、そして2大会連続となる五輪出場に向けて闘志を燃やす渡邉に話を聞いた。
オーストラリア戦インサイドで存在感
北海道大会では第1戦でロスター入りを果たした渡邉。第1クォーター残り4分17秒にコートインすると、約1分後には初得点。第2Qには河村勇輝からパスを受け豪快なダンクを決めるなど、11分15秒の出場で4得点(FG2/2)5リバウンド2ブロックを記録した。試合は89-90で惜しくも敗れたものの、およそ1年ぶりの代表戦で復活を印象付けるには十分なパフォーマンスを披露したといえる。
「クソ~(笑)」
試合後、記者のもとに現れた渡邉は悔しそうな表情でつぶやいた。
「前半は良かったですけど、後半にオーストラリアがアジャストして点数が増えて、僕たちはアジャストできなかった。残念でした。でも、これからですね。本当にこれから」
自身のパフォーマンスについては「最初の3分はひどかったです」と苦笑いしつつ、「リバウンドやいいディフェンス、いい判断をして、もらったパスはすべて決めきれるように頑張っています。ちょっとミスがありますけど、(22日の試合で)役割は果たせたと思います」と胸を張った。
ディフェンスとリバウンド 指揮官も高評価
五輪に出場する各国と比べてサイズで劣る日本は、高確率の3Pシュートや速い展開からチャンスを見出すスタイルだ。そのため、ディフェンス面では全員がプレッシャーをかけターンオーバーを誘発し、シュートが外れた後はしっかりとリバウンドを確保し、相手にセカンドチャンスを与えないことが成功のカギとなる。
オフェンス面では河村勇輝やジョシュ・ホーキンソン、NBA組が合流すれば八村塁や渡邊雄太らが大きな役割を担うことになる。ビッグマンに求められる役割としてはディフェンス面の比重が大きく、インサイドのカバーディフェンスやリムプロテクション、ディフェンスリバウンドをしっかり確保することなどになってくるだろう。
体格に恵まれ、機動力にも優れている渡邉は、オーストラリア戦でも2ブロックを記録するなどインサイドで存在感を発揮。相手ビッグマンに押し込まれることも少なく、センター陣のなかでは一番安定感のあるディフェンスを披露していた。渡邉のパフォーマンスにはホーバスHCも試合後に「飛勇のエネルギーとかリムプロテクションとかリバウンドとか、よくやっていた」と高く評価している。
インサイドのディフェンスについては、日ごろの琉球での練習環境が奏功している。Bリーグでも屈指の重量級ビッグマンであるジャック・クーリーやアレックス・カーク、アレン・ダーラムと日々競い合っていた渡邉。「ディフェンスでは、自分がコートの中で一番強い選手だと感じました。(琉球では)いつもアレックスやジャックとマッチアップしているから、それがとてもいい準備になっていると感じました。フィジカル的には問題なかったです」とインサイドでのプレーに自信をのぞかせた。
チームにどう貢献したいか、という問いには「リバウンド、ブロックショット、フィジカルで強い選手でいること。ジャック・クーリーのような存在でいることですね」と笑顔を見せる。「自分がこのチームで多くのことをやる必要はないです。素晴らしい選手が揃っているので。僕は体を張って頑張るだけです」
東京五輪&W杯のリベンジへ
昨年は直前で負傷離脱し、W杯の舞台に立てなかった渡邉。個人としての悔しさはあっただろうが、どんな時でも大切にしているのは“チームファースト”の精神だ。
「ケガはありましたが、ワールドカップ前の代表合宿で自分がやり切ったことは誇りに思っています。全身全霊を尽くしたと思っているので。ワールドカップでプレーした選手たちを誇りに思っているし、今も『チームのため』が一番です。いつも考えていることです」
代表選考がかかる強化試合でも、あくまで「チームのため」に試合に臨んだという。
「コンペティション(選考)もいいけど、今日は勝ちたい気持ちだけでした。争いは全然考えなかった。最後の12人のチーム(に残る)のためにプレーするのも良いけど、今日は勝ちたいという気持ちだけでした」
東京五輪のメンバーには選ばれたものの出場機会はなく、チームも全敗で終了。パリ五輪は個人としてもチームとしても雪辱を目指す舞台となる。予選ラウンドで戦うドイツ(同3位)やフランス(同9位)にはサイズの大きい選手が多く所属しており、どれだけインサイドで食らいつけるかが勝敗のカギを握ることは間違いない。
「(オリンピックでのインサイドのマッチアップは)やってみないと分からないですし、だからこそ僕がここにいると思っています」
どんなに泥臭く大変な仕事だとしても、チームの勝利のためなら自己犠牲を厭わない。NBAなどでは“グルー・ガイ”と称され、勝利には欠かせない役割として認知されている。アカツキジャパンの“グルー・ガイ”となり、勝利を呼び込むピースとなれるか。渡邉飛勇のプレーを、パリでも見てみたい。
(滝澤 俊之)