パリ五輪を戦うバスケットボール男子日本代表(FIBAランキング26位)の12人が、遂に決定した。
中核を担う八村塁と渡邊雄太をはじめ、キャプテンの富樫勇樹、NBAチームと「エグジビット10」契約を結んだばかりの河村勇輝と富永啓生、富樫、河村と共に昨シーズンのBリーグでベスト5に選ばれた比江島慎、身長208cmで高い万能性を誇る帰化枠のジョシュ・ホーキンソンなど、錚々たる顔ぶれが揃う。
個々の経歴だけを見れば、歴代最強チームであることは間違いないだろう。
今後の最大の焦点は、本番前に国内で行った強化試合4戦を全て欠場した八村と渡邊がコートに立った時、チームとしてどんなバスケットボールを展開するのか、ということである。
「ホーバスジャパン」は19日にドイツ(FIBAランキング3位)、21日にセルビア(同4位)と本番前最後の強化試合を欧州で行い、27日にはパリ五輪の初戦となるドイツ戦を迎える。残された時間は少ない。特に6月末に合流した八村はメンバーの半分ほどと面識すらない状態からスタートしているため、短期間で連係を深める必要がある。
7日にあった韓国(FIBAランキング50位)との強化試合後、メディアの囲み取材に応じた富樫も「2人が合流して、どういうバスケットをできるかが大事」とコメント。今後を展望した。
八村、渡邊の存在で変わること 富樫が考える「役割」とは
5日と7日に若手中心の韓国と行った強化試合は、84ー85、88ー80で1勝1敗。河村を筆頭にそれぞれが持ち味を発揮する場面は多かったが、ディフェンスの強度や連係、生命線である3Pシュートの低確率など、課題も散見された。八村と渡邊が不在だったとはいえ、遂行力の低さは本番に向けて修正すべき点だろう。
ただ、スモールラインナップで素早いトランジションや積極的な3Pを狙う韓国は、パリ五輪のグループリーグで対戦するドイツ、フランス(FIBAランキング9位)、ブラジル(同12位)とはタイプが異なっていたことも事実。本番では相手の高さが格段に上がるため、異なる戦い方が予想される。
そのため、富樫も韓国戦の出来についてはそこまで悲観的に捉えてはいないようだ。
「韓国を相手に、本番ではやるかやらないか分からないディフェンスもしました。相手はいい選手が多くて、正直僕もびっくりしたところもありますが、しっかり勝てたことは良かったです。大事なのは2人(八村、渡邊)が合流してからどういうバスケットをできるかだと思うので、これから練習、試合を積んでいっていいチームになれたらいいなと思います」
八村と渡邊はいずれも身長が200cm超ながら万能なオフェンス能力を持ち、ドライブや3Pなどで個でも打開できる。チーム戦術に与える影響は極めて大きい。特に変化が予想されるのが、河村や富樫、比江島などハンドリングに優れた選手たちがボールに触る比率が下がるということであろう。
2人が入ってきた時のチームのイメージを聞かれた富樫は「これから練習を積んでいかないと、彼(八村)をどう生かせるかはちょっと見えてこない」と付け加えた上で、こう答えた。
「前回のW杯もそうですが、雄太の場合はオフボールで活躍できる選手。塁もそうではありますが、塁は雄太以上にボールを持たせて気持ち良くバスケットをさせてあげたい気持ちがあります」
ボールは一つしかないため、各選手がいかにバランスを取りながらボールに触り、それぞれが自分のリズムを掴んでいくかは重要なポイントになる。
韓国戦では同じPGのテーブス海とコートに立ち、2番ポジションでプレーする時間帯もあった富樫。「いつもドリブルで自分のリズムを掴んでいく方なので、オフボールでの難しさはあった」と振り返る。
ただ「塁が入ればキャッチ&シュートが増えてくる可能性も多くあります。トムさん(トム・ホーバスHC)がいろいろ試してる中、自分の役割をしっかり考えながらやっていきたいです」とも言った。確かに八村は相手ディフェンスを引き寄せる吸引力があるため、キックアウトから3Pを打つシチュエーションは増えそうだ。
チームの調和を図るため、自身のプレースタイルを柔軟に変えていくことも考えているということだろう。
「塁がまわりの4人を信頼しないと勝てない」
戦術面もさることながら、連係を深めていくためにもう一つ重要になるのが、お互いの信頼関係である。
八村は6月末に合流したが、3年前の東京五輪で共闘した富樫、渡邊、馬場雄大、比江島、渡邉飛勇を除けば、初対面の選手は多い。河村や富永ら主力を張るメンバーとコミュニケーションを深めていくことは、本番に向けて優先順位が高い部分だろう。
富樫にキャプテンとしてどう立ち振る舞うかを聞くと、「あのー」とひと思案した上で、「塁の場合は、雄太とはまた違う難しさがある」と言及。さらに言葉をつないだ。
「会ったこともない選手が半分以上で、彼らは1週間前に会ったばかりなので、そこからどう信頼を得て、コミュニケーションを取ってやっていくかは簡単なことではないです。やっぱり塁がまわりの4人を信頼しいないと、(パリ五輪の)あのレベルのチームに勝利していくことはないと思います。これから3週間、そういうところも含めていいチームを作っていきたいなと思います」
信頼関係を構築する手段は、何も言葉だけではない。韓国との強化試合は、その一つのきっかけになったと見る。八村がベンチで見守る中、河村が2試合平均で20.0点、7.5アシストという圧巻の活躍を見せたことが理由だ。
「この2試合の河村選手のプレーを見て、塁も彼に対して信頼というか、『この選手ならボールを預けていい』と思えていると思います。河村と富永は塁と一緒にプレーしたことがないのですが、NBAレベルではお互いの信頼がすごく大事になってくるので、そこが一番の収穫なのかなと思います」
「12人以外の気持ち」も背負い、決戦の地へ
近くパリへと旅立つホーバスジャパン。選ばれた12人は本番前から寝食を共にし、濃密な時間を過ごすことになる。
富樫はその中で、メンバー同士が歩み寄っていく過程をイメージしているようだ。
「海外に行き、よりチームとしての行動になると思うので、短い期間で信頼関係をつくりたいと思います。若手も遠慮しないことが一番。塁もちょっとだけ大人になって帰ってきた気がするので、自分からうまくやってくれるんじゃないかなと期待しています」
NBAを主戦場としてきた八村、渡邊という二大巨頭と、河村、富永という若手2トップは今後どのようなシナジーを生み出すのか。最年少20歳のジェイコブス晶は、実績のある先輩たちに囲まれてさらなる成長を遂げることができるのか。比江島や富樫らベテラン陣は、頼もしい後輩たちに負けない存在感を発揮することができるのか。
あれこれ想像するだけでも、今から楽しみな要素は多い。
3年前の東京五輪は、自国開催ながら3戦全敗という屈辱を味わった日本代表。パリ五輪の目標は過去最高のベスト8入りを掲げる。高みを目指すチームをけん引する富樫は、力強い言葉で囲み取材を締め括った。
「16人全員(取材時は最終メンバー未発表)の気持ちは練習中からすごく伝わっていました。この16人だけではなく、ヘッドコーチがトムさんになってから、そしてトムさんになる前からもいろんな人たちがこの代表に関わってきて、今がある。そういう気持ちも背負い、フランスに行ってしっかり結果を残したいです」
出場12カ国中、日本のFIBAランキングは下から2番目。番狂せを演じて新たな歴史の扉をこじ開けるべく、日の丸を背負った12人のつわものが決戦の地へ乗り込む。
(長嶺 真輝)