【バスケ日本代表】“稀代のムードメーカー”川真田紘也、八村塁に「もっと立って」と促した理由 最終12人入りへ「出し切った」
日本代表の川真田紘也©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 バスケットボール男子日本代表(FIBAランキング26位)は7日、パリ五輪前に国内で行う最後の強化試合を有明アリーナで行い、韓国(同50位)に88ー80で勝利した。2日前の韓国戦、6月にあったオーストラリア(同5位)との2戦を合わせ、強化試合4戦で初の白星。八村塁はコンディション調整、渡邊雄太は左ふくらはぎの肉離れで欠場した。

 代表候補はこれまでに16人まで絞られており、強化試合の内容を踏まえ、8日に最終12人が発表される見通し。そのため、この4試合は勝敗もさることながら、パリ行きの切符を懸けたサバイバルレースとの意味合いも強かった。

 「自分のやるべき仕事はやり切ったと思っています」

 7日の試合後、晴れやかな表情でそう言ったのは、当落線上にいると見られる川真田紘也だ。オフェンスでのガード陣との合わせ、体を張ったディフェンスのカバー、ボールへの高い執着心。出場した強化試合3戦はいずれも出場時間が10分に満たなかったが、短いプレータイムで持ち味を存分にアピールした。

存在感をアピールした©Basketball News 2for1

ブロックとダンクで勢い メンバー入りへ「あとは神頼みっすね」

 コートに入ってから、すぐにハイライトをつくった。

 7日の韓国戦で初めに出場機会は得たのは、日本が7点ビハインドを背負っていた第1Qの残り2分36秒。直後のディフェンスでトップの位置からマッチアップする選手にドライブを仕掛けられたが、フットワークを生かして着いて行く。レイアップに合わせてジャンプ一番。右手で叩き落とした。

 見せ場は続く。今度はオフェンスだ。テーブス海とのピック&ロールからリングにダイブし、絶妙なタイミングでポケットパスを受けて豪快にワンハンドダンク。逆転につながる連続14得点に大きく貢献した。

 その他にもオフェンスリバウンドに積極的に絡んだり、味方にどっしりとしたスクリーンを掛けたり。204cm、112kgの巨体を揺らし、泥臭いプレーを貫いた。強化試合を通した自身の出来には及第点を付ける。

 「北海道では1試合ベンチ外だったので、自分は3試合に出ました。前回の韓国戦があまり良くなかったのですが、だとしても、3試合トータルでは本当に自分の持ち味をアピールできたと思っています。あとはもうトムさん(トム・ホーバスHC)がどう判断するかというところなので、どうしようもない領域。あとは神頼みっすね」

 汗ばんだ顔に笑みを浮かべ、そう言った。

7得点を記録した川真田©Basketball News 2for1

選ばれれば「いつでも準備はできてる」

 昨年のワールドカップに続き、12人の登録メンバーを懸けたサバイバルレースに身を投じてきた。前回代表入りを果たしたことで「メンタル的に慣れはあります」というが、余裕があったわけではない。ビッグマンの一人であり、今後チームの中心を担うであろう八村も合流したため、メンバー争いはより熾烈さを増した。

 これまでと同様に、特にライバルとして意識するのは、同じセンターで走力やブロック力に優れる渡邉飛勇だ。

 「飛勇がいいプレーをすれば『俺もやらないといけない』という気持ちになる」と自身を高める存在になってきたと言う。その上で「代表の12枠に入るために、苦戦して頑張ってきました」と振り返った。

 再び代表の座を掴めば、自国開催のフランス(FIBAランキング9位)やドイツ(同3位)と戦うことになる。自身よりも高さがあり、さらに機動力も備えた選手がゴロゴロいる世界。それでも気負いはない。

 W杯ではジョシュ・ホーキンソンと渡邊のプレータイムが伸び、なかなか繋ぎ役を全うしきれなかったが、現状の自信について聞かれた際のコメントである。

 「僕も飛勇も然りですけど、そこが僕らに求められていること。プライドを持ってやっているので自信があるし、『いつでも準備はできているぞ』という気持ちです。選ばれれば、やり切る自信はあります」

 韓国との2試合でもホーキンソンがベンチにいる時の得点力やリバウンド力が課題の一つになっていたが、本番に向けて「セカンドユニットが出た時の対処は僕も課題だと思っています。本番まで日数、試合は少ないので、その中でアジャストするしかないと思っています」と前を向く。

 その上で「塁さんはまだトムさんのバスケットをちゃんとやってるわけではないので、ちょっと合わないこともあるかもしれないですけど、本当に塁さん、雄太さんがアジャストして、僕ら全員で力を合わせてやれば、ベスト8に行けると思っています。そこは本当に楽しみです」と言葉をつないだ。

代表争いを繰り広げる渡邉飛勇(中央奥)©Basketball News 2for1

八村への絡み「めっちゃ勇気いりました」

 韓国との強化試合を通しては、川真田が持つコート外での魅力も発揮された。

 「僕らが負ける時は沈んでる時間帯がある」という課題感を持っているため、味方が好プレーをすればベンチでいち早く立ち上がり、声を出す。チームメートに絡みに行くシーンも多い。「よく雄太さんがもっと『盛り上げていこう』って言うし、勝とうが負けようが盛り上げるのは大事だと思っています」とムードメーカー役を買って出る。

 絡む相手は、6月末にチームに合流したばかりで、その時に初めて顔を合わせた八村も例外ではない。7日の韓国戦では、味方の好プレーにベンチで座って拍手をしていた八村に対して、笑いながら何かを話し掛けている様子が見て取れた。

 囲み取材で何を話していたのかを明かしてくれた。

 「塁さんはいつも座って手を叩くんで、『もっと立って、もっと立って』と言ってました。ちょっと絡みに行こうと思って。なんか笑ってくれたんで良かったです(笑)」

強化試合はベンチから見守った八村塁(左)©Basketball News 2for1

 笑い話のように語ったが、意を決して促したのだという。

 「めっちゃ勇気いりました。雄太さんの時は、雄太さんが僕の前情報を頭に入れてくれていたので、すぐ『うぇーい』って感じで良かったんですけど、塁さんは僕の情報なんかほんとに知らないと思うので。本当に一歩一歩踏み出してる感じですね」

 少しコミカルなエピソードに聞こえるかもしれない。しかし、川真田のこの行動は代表チームにとって極めて有益だ。

 キャプテンの富樫勇樹や渡邊、馬場雄大など以前から親交のある選手を除けば、合流時点が八村と初対面だった選手は川真田以外にも多い。いずれも日本のトッププレーヤーたちとはいえ、NBAに定着している八村に対して畏敬の念もあり、気兼ねなく話し掛けるのが難しい選手も少なくないだろう。

 ただ、本番まで残り約3週間という短期間でどれだけ信頼関係を深めることができるかは、コート上での連係や全体の一体感を高める上で重要なポイントになる。

 川真田は「僕は『自分が楽しければいいや』というスタンスなので」と謙遜気味に話す。もちろんそれもあるかもしれないが、やはりチームのためを思っての行動なのだろう。

 代表チームは、入りたくても入れない選手が大勢いる。オリンピックという夢舞台でJAPANのユニホームに袖を通せる選手も一握りだ。責任は重いが、やりがいがある。だから川真田は「代表でプレーする以上、本気でやりつつ、本気で楽しみたい」と思う。だから「もっとチームでワイワイできたらいい」と思う。潤滑油の役割を担う裏には強い信念がある。

 コートでも、ベンチでも、「自分のやるべき事をやり切った」稀代のムードメーカーは、パリの地に降り立つことができるのか。期待を胸に、吉報を待つ。

(長嶺 真輝)

常にチームを盛り上げるムードメーカーだ©Basketball News 2for1

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