「一日一日、本当に『明日切られる』というメンタリティーで臨んでいることは変わらないです」
一言一句同じ言葉でも、発した選手の立場や経歴によって、受け手の感じる印象が全く異なることがある。このカギ括弧の中はその最たる例だろう。
4日にあった日本対ニュージーランドの国際強化試合後、危機感に満ちたこの言葉を発したのは代表歴の浅い若手ではない。チーム最年長の32歳で、長らく代表ジャージを当たり前のように身に付けてきた比江島慎(宇都宮ブレックス)である。
多くの若手選手を引き上げ、育ててきたホーバスジャパンの厳しい競争環境の中で依然として「ボーダーライン」に立たされるが、この試合でチームトップの12得点を記録。これまでほとんど経験がなかったであろう「明日切られる」という危機意識を力に変え、佳境に入る代表争いでアピールを強めている。
クイック3Pに“比江島ステップ”も
第1戦こそ2得点にとどまったが、第2戦は持ち味の得点力を大いに発揮する。7点ビハインドの第1Q残り1分38秒で初めてコートに立つと、最初のポゼッションでいきなり正面から3Pを射抜く。ハンドオフでボールをもらい、一瞬空いたマークマンとの隙間を縫ってのクイックシュートだった。
第2Qにも左45度でステップバックからプルアップの3Pをヒット。直後のオフェンスでは独特なリズムの“比江島ステップ”を駆使して中央の密集地帯を割り込み、ビッグマン2人のタイミングを外してゴール下シュートを難なく決めた。ニュージーランドにフィジカルの強さを生かしたディフェンスを仕掛けられてチームの得点が停滞する中、自らの役割をしっかりと全うした。
自身も「チームが得点面で苦しんでいるという印象があったので、積極的に点を取りに行くという意識で入りました」と振り返る。さらに「このチームはディフェンスで流れをつかんでいくスタイルなので、そこも意識しました」と語り、オールコート、ハーフコートのディフェンスで運動量豊富なディフェンスを貫いた。
相手のディフェンス見てプレー判断
冒頭の言葉は、「以前、日々死ぬ気でやっていると言っていたが、今日はどんな思いで臨み、手応えはどうだったか?」という質問の答えの中で発せられた。以下が詳細である。
「今日も変わらずといいますか、一日一日、本当に『明日切られる』というメンタリティーで臨んでいることは変わらないです。自分はいろいろ経験もあって、まわりの状況を見ながらプレーするところもあるんですけど、やっぱり今日は相手がよりフィジカルに来たので、隙間でシュートを狙い、自分の持ち味であるドライブも生きると思っていました」
さらに続けた。
「ファールをもらうことも意識しながら、しっかり自分らしいプレーができたと思う。次はもっともっとレベルが上がっていくと思うんですけど、これをどんどん続けて、自分の持ち味を出していけるようにしっかりアピールしていきたいです」
豊富な経験値 限られた時間で「自分らしいプレー」
Bリーグで所属する宇都宮ブレックスではスターターで出場する機会がほとんどだが、代表では途中出場が主だ。ニュージーランド戦では第1戦が12分6秒、第2戦が16分29秒と与えられる出場時間も少ない。ただ、それでもやることは変わらない。
「控えから出ることはBリーグではなかなかないですけど、点が必要な時は取りに行く。アタックするとこはアタックして、3ポイントもしっかり打つ。限られたプレータイムの中でしっかり自分らしいプレーを出すことを意識しています」
個人としての振り返りだけでなく、チームの評価も口にした。
「今日(4日)は難しい試合でした。ニュージーランドは前回の試合で負けているということで、やっぱりエネルギーを出してきたし、それを上回れなかったことは反省しないといけない。日本の持ち味のスピードを出せなかった時間帯は相手に流れがいったし、アップテンポにプレーできている時はいいバスケットができている。まだまだ突き詰めていかなきゃいけないと思うので、今日の試合をしっかり反省して、また次に生かしたいです」
最大の持ち味である圧倒的な得点能力に加え、国際大会で豊富な経験値を持つ比江島。2番、3番のポジションは代表選考において最激戦区となっているが、試合状況を冷静に見詰め、的確な状況判断でチームに貢献するベテランらしいプレーが継続できれば、他の選手とは異なるアピールポイントになることは間違いない。
(長嶺 真輝)