20歳日本代表SF金近廉が千葉ジェッツ入り プロ転向の背景に見えた“世界への意識”
千葉ジェッツに入団した金近廉©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 2月のFIBAワールドカップ・アジア地区予選でいきなり20得点を挙げるという華々しいA代表デビューを飾った20歳の金近廉が、在籍していた東海大学を退学し、Bリーグ1部・千葉ジェッツへの加入を決めた。

 昨年12月、エースとして東海大学を2年ぶり、7度目のインカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)優勝に導いた身長196cmの万能スモールフォワードが、世界レベルのプレーヤーになることを目指して、大学を離れプロに転向するという決断を下した。

 金近は3月末をもって東海大を退学しているが、今シーズンはすでにBリーグの選手登録の期限が過ぎているため、試合への出場資格のない練習生という扱いで千葉Jの活動に加わる。しかし、2023-24シーズンの契約にはすでに合意しており、7月以降は晴れてプロとして同チームでの活動をしていくことになる。

記者会見でポーズをとる金近と千葉ジェッツ池内勇太GM©Basketball News 2for1

来季プロデビュー 今夏W杯日本代表入りへの思い強く

 最大の契機は上述のワールドカップ予選へ向けて合宿と試合に参加し、国内のトップの選手たちとコートをともにしたことだった。高崎アリーナで行われた同予選のイランとの試合では3Pを6本沈め、ゲームハイの20得点を挙げたことで自信を得、かつ今夏のワールドカップのメンバー入りへの意欲が強くなったことも背中を後押しした。

 「2月の代表合宿と(予選では)2試合に出場をしたんですけど、やっていくなかでこのままだと8月のワールドカップのような大会に出られるようなレベルに自分はまだないと思いました」

 5日の千葉J対群馬クレインサンダーズ戦前に船橋アリーナで開かれた会見で、金近はプロ転向の理由をそのように語った。

 日本協会は2月上旬に、大学生、高校生を中心とした若いタレント育成の意図でディベロップメントキャンプを開催したが、思いのほか良いパフォーマンスを見せた金近は直後のA代表の合宿にも参加することとなったのだ。そして、そのままウインドウ6の2試合にも出場。ワールドカップの共催国としてすでに出場権を得ていたとはいえ、半年後に迫る同世界大会へ向けてトム・ホーバスヘッドコーチも代表の陣容をおおかた固めつつあると思われていたなかでの選出はやや驚きだった。

 一方で、金近が代表のユニフォームを身にまとうのは初めてではなく、これまでU16、U19、U22と世代別のナショナルチームには継続的に選ばれてきたが、そのなかで強豪他国との距離感というものを体感してきた。2021年のU19ワールドカップで日本は全敗し出場16チーム中最下位という厳しい現実を突きつけられたが「世界」というものに対しての意識を強くもした。

 「そのU19のワールドカップを経験してから戦った相手のメンバーたちと、8月にあるワールドカップやオリンピックという舞台でもう1回対戦したいなという気持ちがありました。それが(2月の)代表の合宿や試合に自分が参加して出場となって、こんなに早くチャンスが来るとは思っていなかったので少し戸惑いはあったんですけど、でもその気持は持っているので、本当に8月のワールドカップに賭けていますし、そこへ向けてしっかり準備していかなといけないと思っています」(金近)

2月のワールドカップ予選に出場した金近(左)©Basketball News 2for1

タレントに練習環境 世界を目指すうえで「すごくいい勉強に」

 大学を退学してBリーグ入りした選手としては、岡田侑大(現・信州ブレイブウォリアーズ、拓殖大学)や、河村勇輝(現・横浜ビー・コルセア―ズ、東海大)の例があるが、金近の場合は特別指定選手としての活動を経ずしてのプロ転向となる。

 同じ東海大に通っていた河村も、ワールドカップとその先にあるパリオリンピックへの出場を見据えて2022年の3月で同大を退学し、2022-23シーズンから正式にプロとしてプレーしている。その間、A代表デビューをし、ホーバスHCの指導もあって得点力をはじめあらゆる部分で大きな成長を見せているが、金近も1学年上の先輩と同様の道をたどる。

 もっとも、河村のことが彼の決断に影響したということはないと金近は言う。

 「勇輝さんのことは別に自分としては、あんまり関係はなくて、本当に自分の気持ち的にプロでやりたいというふうに気持ちが変わったっていうのが1番でした」(金近)

 千葉J入団を決めた理由として金近は「世界の、ワールドカップやオリンピックを目指す上で外国籍の選手たちと普段の練習からマッチアップできるのはすごくいい勉強になる」と口にした。

 また、千葉Jという屈指のタレントが揃い、かつ経験豊富なコーチ陣やストレングスコーチングを施す充実のスタッフ陣、またロックアイスベースという専用の練習施設があるなど、Bリーグトップクラスの環境が整備されていることも、加入の理由の一つだった。

 「(今シーズンは)試合に出られないというなかで普段の練習やトレーニングの環境がいいところでなければ自分としては(ワールドカップまでの)この半年がもったいないというか、無駄になってしまう可能性もあります」

 金近はこう述べ、言葉を続けた。

 「千葉ジェッツはロックアイスベースもありますし、本当にいつでもバスケットができる、トレーニングができる環境で、ストレングスコーチやスキルコーチなどスタッフも充実しているので、自分の目標に対しての手助けをしてくれるチーム。そういう部分でこういうチームに行きたいと思ったというのもあります」

©Basketball News 2for1

池内勇太GM「一番欲しい選手でなかなか替えが効かない」

 千葉Jにとって、というよりも同チームの池内勇太ゼネラルマネージャーにとっては、金近という「本当のオールラウンダー」「日本の宝」(同GM)を迎え入れられたことは、数年来の願いが叶った形となった。

 金近は関西大学北陽高校在学時からウィンターカップなどの全国の場でその力量を知られる存在だったが、池内GMは彼が2年生の頃からその特別な才能に惚れ、高校卒業時のオファーすら考えたことがあったと振り返った。金近が東海大進学を決めてからも特別指定選手としてのオファーを出してきたが「タイミングが合わず」(同GM)加入はならなかったという。

 「この日を迎えられたことは、僕にとっても念願が叶ってというところはあって、結構思いも強く持っていました」(池内GM)

 選手たちが複数のポジションでプレーできることが求められる、いわゆるポジションレスかつアップテンポなバスケットボールを展開する千葉Jにおいて金近のようなインサイドでもアウトサイドでもプレーできるオールラウンダーは「一番我々としては欲しい選手でなかなか替えが効かない」存在だと池内GMは評した。

 リーグ戦やインカレでの金近のプレーは何度か見たことがあったという千葉Jのジョン・パトリックHCは、実際に生で彼の練習ぶりを見て「すごい将来性があって楽しみな選手」と述べている。

会見中、笑顔を見せる金近(左)と池内GM ©Basketball News 2for1

 上述のインカレで金近は平均12.5得点、4.5リバウンドを記録し、大会の優秀選手賞を受賞している。上述のU19ワールドカップでは平均7.7得点をマークしている。

 2月の代表戦の20得点を「できすぎた部分はあった」とする一方で「多少は通用する、自分でもできる感触はあった」と語る金近だが、合宿などを通してトップの選手たちと練習するなかで「強度やプレーの質の部分はまだまだで、他の選手たちと同じレベルでプレーできていないという体感があった」とし、20得点から3日後のバーレーン戦では0点に終わり「全然だめだった」と、冷静に自身の現在地を俯瞰する。

 関大北陽時代から高校生らしからぬ大人っぽさを醸し出していた金近だが、20歳となった今も、その年齢にそぐわないほどの人間的な成熟度を感じさせる。

 河村の急成長の最大の淵源は彼の、絶え間なく上を目指し続ける「意識の高さ」にあると思うが、金近にも同じ匂いがある。

 俊英・金近が今後、日本代表やBリーグでどれだけ暴れられるか、注目だ。

(永塚 和志)

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