第98回天皇杯全日本選手権のファイナルが12日、東京の有明コロシアムで行われ、千葉ジェッツが87ー76で琉球ゴールデンキングスを破って頂点に立った。3連覇を達成した2019年以来、4年ぶりの戴冠。9,315人が詰め掛けた客席は両クラブのチームカラーである「レッド&ゴールド」に染まり、会場は声出し応援が解禁されたこともあって熱気に包まれた。
千葉Jは現在、Bリーグレギュラーシーズンで21連勝しており、B1歴代記録を更新中で圧倒的な強さを誇る。決勝も帰化選手でインサイドの要であるギャビン・エドワーズが右母指中手骨骨折で不在にも関わらず、先制点を取られて以降は一度もリードを奪われることなく勝利を掴んだ。第3Q中盤にチームで生み出した”2連続スティール”に代表される連係の完成度は圧巻の一言だった。
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完璧な”インサイド封じ”とローテーション
そのビッグプレーが飛び出したのは、5点リードしていた第3Q残り約3分。
左サイドのローポスト付近でボールを持ったアレン・ダーラムに対し、クリストファー・スミスが背後からプレッシャーを掛ける。逆サイドから富樫勇樹もディフェンスに寄った瞬間にダーラムが逆サイドにボールを振ると、それを読んでいた原修太がスティール。トランジションからスミスのスリーにつなげた。
直後のディフェンス。全く同じシチュエーションで、今度は佐藤卓磨がトラップを仕掛ける。またもダーラムが逆サイドに長いパスを送ったところを富樫がスティールし、パスを受けた原が単独速攻からレイアップを沈めて差を10点に広げた。
エドワーズ不在を受け、試合前にジョン・パトリックHCが掲げた最大のテーマは「簡単なローポストの1対1をさせたらダメ」ということだった。その言葉通り、千葉は試合開始から琉球のビッグマンがローポストでボールを持ったら、すかさず逆サイドからガードやフォワード陣がもう一人寄ってプレッシャーを掛けるトラップディフェンスを徹底。
ローテーションが間に合わずスリーを決められる場面はあれど、ジャック・クーリー、ダーラム、ジョシュ・ダンカンという重量級のインサイド陣を揃える琉球に対し、ゴール下で簡単に得点される場面はほとんどなかった。2連続スティールの場面のように、後半はコート上の5人がまるで一つの”生き物”のように同じ意図を持ってローテーションする動きに、時間がたつに連れてさらに磨きが掛かっていった印象だった。全員でリバウンドやルーズボールに飛び込む意識も最後まで衰えることはなかった。
試合後、パトリックHCは「一番大事なところでダブルチームからウィークサイドでスティールし、そこで点数を伸ばせた。練習中から選手、コーチでディスカッションし、選手たちが『これでやろう』と決めたことが試合で効いたと思います」と丹念に準備を重ねてきたプレーだったことを説明。その上で「琉球は今村や岸本のスリーもあるけど、クーリーをはじめとしたインサイドが一番強いポイント。サイズのミスマッチもある中で、スピードとローテーションでお互いをカバーし、すごく良かったと思います」と選手たちのハイレベルな連係を称えた。
結果、レギュラーシーズンの平均スタッツが16.9点、12.2リバウンド(リーグトップ)であるクーリーを6得点、8リバウンドにシャットアウト。原や佐藤など個々のディフェンス強度も高く、琉球のスリーを34分の9(26.5%)の低確率に抑え込むことにも成功した。
チームでスリー15本 最多20点の原修太「嫌な流れ断ち切れた」
オフェンスでも高い徹底力を見せ付けた。
ジョン・ムーニー、スミス、ヴィック・ローのビッグマン3人を含め、ほとんどの選手がスリーを得意としてるチームの武器を生かし、ハンドラーに高い位置でスクリーンを掛けてコートを広く使う。果敢なドライブからのキックアウトやピック&ポップも使いながらズレをつくって積極的にスリーをショット。クーリーをはじめ、琉球のインサイド陣の機動力の低さも念頭にあっただろう。前半だけで9本の長距離砲を沈めた。
後半も要所でのスリーが止まらない。第4Q最終盤では琉球に3連続スリーを決められて残り3分を切って4点差まで詰められたが、富樫が左45度からスリーをヒット。さらに残り1分21秒で、今度は原が正面でダンカンが手を伸ばしているタフな状況でスリーをねじ込み、10点差に引き離して勝負を決めた。
最終的にチームで15本のスリーを沈めた千葉J。成功率は37.5%(40分の15)と際立って高い訳ではないが、追い上げられる度にスリーで引き離していたため、琉球ファンの多くは「ほとんど決められた」という感覚だったのではないだろうか。試合後、岸本隆一の「プレー的なところというよりは、踏んでいる場数が違うなと感じました」という言葉も、千葉Jの凄まじい勝負強さを象徴している。ちなみに、経験豊富な日本代表ガードの富樫はスリー4本を含む19得点、8アシスト、2スティールを記録し、この大一番でターンオーバーはゼロだった。
一方で、この試合で最も強烈な光を放ったのは、スリー4本を含め、両チームトップの20得点を挙げた原だった。ビッグマンにも付ける高いディフェンス力もそうだが、Bリーグで7シーズン目の今季は平均10.5得点で自身最多のスタッツを記録しており、オフェンスでも覚醒の感がある。自らも成長を感じているようだ。
「過去6年間は前にディフェンスがいたらボールを流すという状況判断を学んできましたが、今シーズンはHCが『打てるシュートは打て』と言ってくれているので、そのおかげでプロ入りする前まで得意だったタフショットも決められました。相手に抑えられて回ってきたパスでスリーを決められて、嫌な流れを断ち切ることができました」
ベテランコンビの”ビッグゲーム文男”と荒尾の”繋ぎ”も光る
前述の「勝負強さ」という点で忘れてはならない選手が、もう一人。36歳のベテランガード、西村文男だ。3連覇の懸かった2019年天皇杯でも準々決勝の川崎戦や決勝の栃木(現宇都宮ブレックス)戦で活躍するなど、言わずと知れた大一番に強いプレーヤーである。
今回もその能力を遺憾なく発揮した西村は、要所で淡々と3本のスリーを決めて9得点。今季のレギュラーシーズンでスリー3本を決めたのは1試合のみで、平均得点は2.5点という数字からも、いかに大舞台に強いかがうかがえる。以下は西村の言葉だ。
「大きい大会になればなるほど、選手は少し雰囲気に飲まれてしまいがちなので、こういう時こそ自分はより一層いつも通りの自分でいようと心掛けています。いつも通り、会場に来たらみんながシュートを打ってる時に自分はシュートを打たず、テーピングを巻いて、ルーティーンを貫いて。最初、お互いが殴り合いのようなバスケをしてる中、自分は客観的にバスケができたと思います。(自分の中で)大きい舞台で活躍するっている自信もあるんでしょうね」
試合中とほとんど変わらない淡々と様子で質問に応じる姿は、取材エリアにいる他の選手とは全く違うオーラをまとっていた。
エドワーズが不在の中、西村とは同級生である日本人ビッグマンの荒尾岳の”繋ぎ”も光った。198cm、105kgの体格を生かし、第1Qではクーリーに体をぶつけながらオフェンスリバウンドをもぎ取ったり、ルーズボールに飛び込んだりして存在感を発揮。5分28秒という出場時間だったが、ベテランが体を張る姿はチームに勢いを与えたはずだ
試合後、原は「荒尾選手がああやって体を張って、活躍して、優勝できたのが個人的に嬉しいです」と慕っているよう。パトリックHCも「岳がクーリーやダーラムにディフェンスして、”ビッグゲーム文男”が大事なところで3本スリーを決めた。あとギャビンがいなければ絶対にここまで来れなかったので、全員を誇りに思います」と2人の貢献に触れていた。
史上初の”3冠”へ 第一関門突破でさらなる勢い
現在Bリーグで連勝記録更新中の千葉Jはリーグ最高勝率の35勝4敗(.897)で東地区首位を走る。マジック18で、リーグで唯一地区優勝マジックも点灯している。天皇杯決勝を見ていても分かるように、攻守共にチームの完成度が極めて高く、さらに大舞台での戦い方も熟知していることから、現状では間違いなくBリーグ年間チャンピオンの最右翼だろう。
2014年に同じ有明コロシアムであったbjリーグファイナルで琉球に敗れ、悔しさを味わった富樫(当時は秋田ノーザンハピネッツ所属)は「10年前と同じ場所でまた琉球と対戦することにすごく縁を感じましたし、結果として優勝という形で終われて良かったです」と喜ぶ一方で、「今シーズンは天皇杯、地区優勝、Bリーグ優勝という3冠を目標にしているので、満足せずにやっていきたいです」と話し、既に視線を”次”に向けていた。
Bリーグの開幕後、これまでの6シーズンで天皇杯とBリーグを同シーズンに制したチームはいない。3冠ともなれば、当然史上初の快挙となる。未踏の域に向け第一関門を突破した千葉Jが、勢いそのままにチャンピオントロフィーを独占するのか。それとも「打倒千葉J」を掲げる他チームが待ったを掛けるのか。これからレギュラーシーズン最終盤、そしてチャンピオンシップに突入していくBリーグの優勝争いは、さらに熱を帯びていきそうだ。
(長嶺 真輝)