52勝8敗を破るか 20連勝中・千葉ジェッツの“支配的な強さ”を構築する3つの要因
笑顔を見せる千葉ジェッツ・富樫勇樹©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 憎らしいほどまでに、強い。いまの千葉ジェッツは、他のチームのファンにそう思わせているのではないかと思うほどの快進撃を続けている。

 2月12日のホームでの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦に94−76で快勝し、千葉Jが連勝をBリーグ1部(B1)記録タイとなる20にまで伸ばした。同15日の天皇杯(全日本バスケットボール選手権)準決勝でも宇都宮ブレックスを破り、2年連続の決勝に進出している。

 千葉Jは今シーズンからジョン・パトリック氏を新指揮官に迎えたこともあって、開幕からの5試合で3勝2敗と新体制下ではよくあるそれなりの苦戦ぶりを見せてはいた。が、その後は「圧巻」という言葉を使っても大仰ではないほどの戦いぶりだ。

 現在、34勝4敗(.895)と圧倒的な勝率でB1トップを走る千葉J。PG富樫勇樹が絶対的な存在としてそのスピードを生かしつつ、タレントの多いチームを司令塔として牽引しているのは強さの大前提としてある。

 ただ、有能な者が多ければそれだけで勝てるかといえばそう甘くはない。少なくとも「20連勝」は実力に秀でていたとしても、なかなかできるものではない。

 今年の千葉Jの強さの淵源はどこにあるのか。ここまでの戦いぶりを振り返りながら、紐解いてみた。

Bリーグ首位の34勝4敗という成績を残している千葉J©Basketball News 2for1

セカンドチャンスからの得点で流れをつかむ

 今シーズンの千葉の強さを見るなかでもっとも際立つ要因のひとつが、セカンドチャンスからの得点が多いことだ。

 セカンドチャンスは多くがオフェンスリバウンドから生まれると言える。2021−22シーズンの千葉Jの総オフェンスリバウンド数はB1で18位の522本(平均11.6本)だったが、今シーズンの総オフェンスリバウンド数は、昨シーズンが新型コロナウイルスによる中止等のために45試合のみの消化となった事情もあって、現時点でそれを超える531本(平均14.0本)なのだ。

 試合を見ていても味方がシュートを打つときに周りがリングへ向かってダイブしてくる場面が多く、そこが徹底されていることがうかがえる。やはり大きいのが帰化選手のギャビン・エドワーズを含めた4人のアメリカ出身選手の存在で、エドワーズ(平均オフェンスリバウンド数は1.9から2.5に)、ジョン・ムーニー(同3.2から4.2)、クリストファー・スミス(同0.9から1.4)と軒並み数字を上げている。今シーズン新加入のヴィック・ローのそれも1.8と高い。

 直近の名古屋Dとのホーム2連戦(2月11-12日)では、セカンドチャンスからそれぞれ19点、21点をもぎ取り、双方で快勝につなげている。

オフェンスリバウンドも強力だ©Basketball News 2for1

 また、自分たちのシュートがあまり入らず相手に流れが行くときでも、オフェンスリバウンドやルーズボールからのセカンドチャンスによる得点でそれを断ち切る、被害を最小限にとどめることができる。

 2月5日の横浜ビー・コルセアーズ戦。12点のリードを築いて前半を終えた千葉Jは、第3クォーターに河村勇輝を中心とした横浜BCの怒涛の反撃を許し逆転を許してしまうが、よりフィジカルなプレーをすることで攻守のリバウンドで上回ってリズムを引き戻した。オフェンスリバウンドはこのQだけで9本奪い、そこでフリースローをもらうことで得点を重ねたのだ。

 「今日も僅差で前半を終えましたけど、そのなかで良くないところがいくつかあったので、チームのなかで話し合いました。やっぱりいま、自分たちのすべきことを40分間すれば負けないという自信はあるのかなと思います」

 11日に名古屋Dを下して19連勝目を挙げた試合後、千葉Jの「顏」であり共同キャプテンを務める富樫はそう話し、こう続けている。

 「今日もハーフタイムに選手たちで話し合ったりしましたし、そういう試合中の修正力というか、コーチに指示されなくても自分たちでしっかり解決できるようになってきたんじゃないかなと思います」

 現在、千葉Jの平均得点はB1 トップの88.0点を記録しているが、セカンドチャンスによる得点がそこに寄与しているのは間違いない。

"ディファレンスメーカー”ローと"ベストディフェンダー”原修太のいやらしさ

 屈指の人気球団となった千葉Jはリーグトップクラスの収益を誇り、それを有能な選手の獲得に回せるという強みがあるが、チームに必要なピースを集めるマネジメントの力量も特筆されるべき点だ。

 そのなかで、今シーズンの進撃を支えるのがローと原だ。この2人はディフェンス力が高く献身性もあり、パトリックHCの評価がとりわけ高い。

 原については、昨シーズンまでもファンの間ではすでに彼が卓越したディフェンダーだということは知られていたが、ディフェンスからオフェンスの流れを作るのを重視するパトリックHCにもとりわけ重宝される存在となっている。

 「いまリーグを見渡しても原はリーグでダントツ、一番いいディフェンダー。つくのが外国人でも日本人でも、PGでも4番(PF)でも、原が相手だとイージーなシュートにならないというのは確実です。だからポジションに関係なく…5番(C)にはつけられないかもしれないけど、1番から4番まではつけられると思います」

外国籍にもマッチアップできる原(中央)の存在は大きい©Basketball News 2for1

 原に加えてローというやっかいなディフェンダーの存在も、千葉Jの守備にバラエティを与えている。

 印象的だったのが、上述の横浜BC戦だ。この2連戦の多くの時間帯でパトリックHCは、直近の5試合で25得点以上を4度マークし平均で29点、3Pの成功率が40.1%だった河村に対してSF/PFであるローに守らせた。身長201cmながらスピードもあるローは、長い手足を駆使しながら、172cmの河村が起点となる横浜BCのオフェンスを十全に機能させず、連勝に寄与している。

横浜BC戦、河村勇輝を守るヴィック・ロー(手前)©Basketball News 2for1

 「僕はマッチアップの相手が誰であろうと気にしないというか、自分が守れる相手がいてチームが僕にその選手を守れというなら、その週、自分はそこに注力するだけ。チームがポジションレスなバスケットボールをしているなかで、自分がすべてのポジションで守れるということで貢献ができるのであれば、そこはすごく誇りに思うよ。

 だからリーグで一番小さなガードの1人を守るときでも、(名古屋Dのビッグマンであるスコット・)エサトンやコティ・クラーク、レイ・パークス(ジュニア)を守るときでも、自分にとっては同じこと。自分としてはマッチアップする相手を全力で守るだけなんだ」

 原にしてもローにしても、相手からすればオフェンス面でも面倒な選手でもある。チームの中心は富樫だが、パトリックは「使い勝手の良い」2人を重用しているのがわかる。

 今シーズン、原の平均出場時間は前年から5分以上長い27分22秒で、それにともなって同得点も6.4から10.4へと上がっている。3Pの試投数も平均2.1から4.4本へと増え、大事な場面で決めることもある。

 新参のローは、開幕当初は数字こそ挙げてはいたがチームにフィットしきれていなかった部分があった。が、いまの彼の活躍ぶりは完全に核たる選手のそれとなっている。

 上述の通り横浜BC戦で河村をガードするディフェンシブストッパーぶりを発揮すれば、同じく上で触れた名古屋D戦では“ポイントフォワード”としてボール運びを担う時間帯も多かった。クロスオーバードリブルなどの技術にも優れ、1対1からのドライブインで相手ディフェンスを崩す場面があれば、3Pも高確率(現在36.9%)で沈める。

会見で記者の質問に答えるロー©Basketball News 2for1

 「とても心地よくプレーできている。調子はいいし、自分のリズムでプレーできている。われわれにはクリス・スミスや勇樹、原、ジョン、ギャビン、その他、名前を挙げたらきりがないほどの有能な選手たちが揃っているから、どの選手もチームの成功の鍵になりえる。開幕の頃にも言ったんだけど、僕もその輪のなかに入っていけていることがとてもうれしいよ」

 さまざまなポジションで重宝される現在の起用法について問うと、ローはそのように答えている。

 千葉Jの大半の選手がそうであるように、ローには自身の能力に頼りすぎる、独りよがりなところがない。スコアラーにもプレーメーカーにもなれる彼の存在は、有能な選手の揃うこのチームにおいても「ディファレンスメーカー」と呼べるものだ。

パトリックHC式「フィジカルなディフェンスから走る」の徹底

 原とローに言及したが、今シーズンの千葉Jは、チーム全体が昨シーズンまで長年ドイツで指揮を執っていたパトリックHCから欧州式の激しい、フィジカルなディフェンスを徹底されている。

 2021−22シーズンまでの大野篤史氏(現・三遠ネオフェニックスHC)体制下においてもディフェンスから走るところは選手たちが常に強調されていたところだが、今シーズンはそこに拍車がかかっている。平均失点は昨シーズンの76.8点から74.2点へと向上している。

 身体能力と守備意識の高い選手が揃っていることもあって、ディフェンス時に完全にダブルチームするわけではないにせよ、2人で1人を守るような状況を作り出していることが多い。それによって相手からターンオーバーを誘発してトランジションにつなげるというのが、チームの求めるところだ。

今季から指揮を執るジョン・パトリックHC©Basketball News 2for1

 勝つチームはハーフタイム明けの第3Qにディフェンスのギアを上げてペースを握ることができるが、千葉Jもそうだ。上述の2月11日からの名古屋との2連戦で、千葉は後半のターンオーバー誘引からの得点で差を広げることに成功している。

 「そこが彼らを良いチームにしているところ」と、名古屋Dのショーン・デニスHCは振り返っている。

 「彼らは相手にプレッシャーをかけてカオス状態を作り出し、ミスを誘います。そこからは波が大きくなって海岸を襲い、ダメージを与えるのです」

 ベンチからの指示がなくともコート上の選手たちだけで修正ができるようになっている、との富樫の言葉を紹介したが、それもあって試合後半の「勝ち切る」強さが際立つ(今シーズン、試合後半の千葉Jの平均得点は45.2点で対戦相手のそれは38.6点)。

「もう破られないんじゃないか」は破れられるか

 日本代表の活動期間に入り、B1の再開は3月8日となっている。千葉Jはこの日、ホームに宇都宮を迎えてB1新記録となる21連勝目を狙う。

 チームはPG/SG大倉颯太とSG二上耀とともにヒザの前十字靭帯の負傷という大けがで失っている(一方で特別指定で加入のSG/SF米山ジャバ偉生が予想外の活躍をしている)にも関わらず、この強さだ。

 止まない雨はない。つまり連勝もいつかは止まるだろうが、千葉Jはどこまで勝ち続けるか。

 「あの52勝8敗を超えるのは無理なんじゃないかというくらいの記録だと思っています」

 数年前の筆者のインタビュー。富樫はそういった趣旨のコメントを発している。52勝8敗(.867)とは2018−19シーズンに千葉が記録したB1の最高勝率だ。

 ここまでの千葉Jはその「無理なんじゃないか」という勝率を上回る。気は早いが、ファンからすればそこへの期待感も少しずつ出てくるかもしれない。

(永塚 和志)

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