ホーキンソンに金近廉、渡邉飛勇らニューピースも躍動 W杯1勝へ“文化醸成”進んだ日本代表
日本代表の河村勇輝©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 「いまはもう、われわれの中核メンバーはチームメートがなにをするのか、寝ていてもわかりますよ。100%いいチームになっています」

 2月26日のバーレーン戦で95-72と2戦続けての快勝を収めたあと、日本男子代表のトム・ホーバスヘッドコーチは力強く、そう答えた。

 日本は、2月23日のイラン戦、同26日のバーレーン戦をもって、FIBAワールドカップ・アジア地区予選の最終ウインドウ(window6)を終えた。共同開催国枠ですでに今夏のワールドカップ本戦への出場権は得ていたものの、同ウインドウでの連勝で今予選の成績を通算7勝5敗(グループF 3位)とし、自力出場が必要だったとしても本大会出場を決めていた形とした。

グループ3位でアジア地区予選を終えたホーバスJAPAN©Basketball News 2for1

W杯アジア地区予選5連勝で7勝5敗と勝ち越し

 日本女子代表を東京オリンピックで銀メダルに導いたホーバス氏が指揮官に就任してから1年半。コート上に立つ全員がアウトサイドに位置取り3Pを中心としたオフェンスを展開する「ファイブアウト」など、同氏の打ち出すスタイルに選手たちが慣れることができず、当初は苦戦したが、このウインドウでは攻守で見違えるほどに連動した姿を披露してみせた。

 23日のイラン戦は、リバウンドで48−33(オフェンスリバウンドで11-6)と上回り、3Pを17本沈め成功率も45.9%と精度高く決め、96−61の大勝となった。昨夏のアジアカップやウインドウ4で敗れている相手だったが、ホーバス氏の体制下ではもっともできのいい試合になったように思われた。

 そして上述のバーレーン戦でもドライブインからのキックアウトパスなどでワイドオープンを作り出して3Pを16本(成功率は39%)成功させるなどで、再び大差をつけての勝利となった。

 1勝4敗でこの予選をスタートした日本だったが、最後は5連勝で締めくくり、ホーバスHCも「ワールドカップへむけて勝って勢いをつけたいと思っていましたが5連勝という形でそれができたと思います。(このウインドウで)96、95もの得点を挙げディフェンスもよく、リバウンドでも勝っていたということは、われわれのやっていることは正しいのだということです」と破顔した。

東海大在学中19歳の金近はイラン戦で最多20得点

 その勢いを作り出すのに寄与した要因の一つは、同HC体制下で初めての代表招集ながら期待どおりの仕事をやってのけたジョシュ・ホーキンソン(信州ブレイブウォリアーズ)、東京オリンピック代表・渡邉飛勇(琉球ゴールデンキングス)金近廉(東海大)の3名だった。19歳のスモールフォーワードでホーバスHCからシューターの役割を与えられた金近は、イラン戦で6本の3Pを決めゲームハイの20得点で見るものを驚かせた。

イラン戦では3P6本を含む20得点を挙げた金近廉©Basketball News 2for1

 右ひじの故障から3度の手術を長いリハビリを得て今月上旬に琉球で復帰したばかりの渡邉も、イラン戦の前半だけで4本のオフェンスリバウンドを奪うなど、リハビリ期間中に強化しさらによくなった跳躍力を生かし、ワールドカップ本戦の代表入りへ名乗りをあげた(リバウンドの強い彼という選択肢を持つことでなにができるか考えていると、ホーバスHCも語っているだけに本戦メンバー入りの可能性は十分にあるのではないか)。

インサイドで存在感を示した渡邉飛勇(手前)©Basketball News 2for1

 そして、なによりもホーキンソンだ。2試合とも先発出場した新帰化選手は、このウインドウで平均19.5点の得点力と同10.5本のリバウンドだけでなく、味方を生かすアシストパス(同平均4本)でも際立った活躍を見せている。208cmのセンターながら、機動力があり、全体の動きを見ながら瞬時に自身が位置を取るべき場所に移る賢さは試合を見ていると感じられ、そういった数字以上にホーバスHCのスタイルに合っていると証明した。

 「そこが相手にとって一番やっかいなところじゃないか」。イラン戦後、ホーバスHCはそのようにホーキンソンのよさについて語っている。「そこ」とは彼のパサーとしての力量だ。機動力と長距離シュートもあるホーキンソは高い位置でボールをもらってからの展開ができるが、自身によるアタックだけでなく、周りを冷静にみながらパスをさばくこともできるのだ。

 「たとえば彼が河村(勇輝、横浜ビー・コルセア―ズ)との2マンゲームでは河村からパスを受けることもできるし、自身でシュート機会を作りだすこともできます。あるいは逆サイドにいる須田(侑太郎、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)や比江島(慎、宇都宮ブレックス)、金近などもよく見えていますからね」(ホーバスHC)

オールラウンドな活躍で日本をけん引したジョシュ・ホーキンソン(中央)©Basketball News 2for1

ホーバスHCのシステム浸透 3P%やアシスト数向上

 そのパスというところで、数字を見ていても、ホーバスJAPANのシステムが以前よりもよく機能し始めていることがウインドウ6の出来からもわかる。アジア予選での日本の平均アシスト数は全15か国中、6位の18.7(ウインドウ1~5までのそれは17.3)だが、ウインドウ6の2試合だけで見ると25.5へとはねあがっている。

 ホーバスHCは「アナレティック・バスケットボール」を標榜し、3Pでの得点を高めて得点効率を良くすることで勝利を目指しているが、それを示す指標のひとつeFG%(3Pが2Pの1.5倍の価値があることを考慮にいれたフィールドゴール成功率)は、イラン戦で61.5%、バーレーン戦で60.6%という高い数値をマークしている。

 ホーバス体制開始時にはなかった連動性やスペーシング、個々の選手の判断力がウインドウやアジアカップ、合宿を通して向上し、いまや同HCが言うように味方の動きが「寝ていてもわかる」ようなレベルにまで達するようになったのだ。それは、ウインドウ6で金近や須田といった選手たちがかなりのワイドオープンから3Pを放っていることからもわかる。

 日本代表屈指のドライブインの力量を持つ比江島は、彼をふくめてドライブインができる選手には全員、リングへアタックすることとシュートにいけない場合はそこからキックアウトすることを口酸っぱく求められてきたと話したが、いまは手応えを感じているようだ。

 「(チーム内の)選手全員の特徴もつかんできていると思いますし、役割もはっきりとしているので、共通理解をもってやれていると感じています」(比江島)

比江島慎はホーバスJAPANでの手ごたえを口にする©Basketball News 2for1

河村勇輝・富樫勇樹・テーブス海 PG陣の個性光る

 昨夏の代表活動を経て得点への意識を大きく変えた河村が、パサーとしてだけでなくスコアラーとして周囲の期待以上の成長を見せ、より代表の中心選手の一人となってチームにさらなるオプションを与えられるようになったことも、このウインドウで感じさせた。

 ちなみに、先発の富樫勇樹(千葉ジェッツ)は得点面だけではなくファシリテーターとしても安定した司令塔ぶりを見せていた。またテーブス海(滋賀レイクス)も、ドリブルがやや多すぎるという課題をホーバスHCから挙げられてはいたものの、188cmの体躯を生かしたドライブイン、3P、ディフェンスで第3の男の位置を固めたように見受けられた。W杯本戦で3名のPGは以上の面々が収まりそうだ。

河村(右)らポイントガード陣の活躍も光った©Basketball News 2for1

For the Teamの精神「選手たちに非常に満足している」

 異なるチームから集まって構成される代表だが、チームの「カルチャー」という点ではほぼ完全にできあがりつつあるというところも、今回のウインドウでわかった。ホーバスHCは女子代表を指揮していた際、選手たちに自分たちのスタイルと力量を心から信じることことこそが肝要だと繰り返してきた。その後、1年半をかけて男子代表でもどうようの「文化」醸成を目指してきたが、それはいま選手たちの間で共通の意識として浸透していると感じる。

 「われわれはカルチャーを変えて、ハングリーで、自分たちがやっていることを信じられる選手を求めてきました。それをいま、できていると思っています。その点について、もはや何の心配もしていません」(ホーバスHC)

 ウインドウ6の2試合を見ていても、カルチャーの深い浸透度合いが垣間見えた。たとえば、昨年から継続的にホーバスJAPANに選出されている須田が、ベンチで金近に助言を与えているような場面があった。そういった場面は、それ以外でも何度もあった。ホーバスHCが前からいる選手たちに特別、そういう具合にしてほしいと言ったわけではない。彼らが自発的にそう動いたのだ。

河村(右)、金近(中央)らに助言をする須田侑太郎 ©Basketball News 2for1

 ホーバスHCが、このようなエピソードを明かした。バーレーン戦ではそれまで特別重点強化選手として合宿にはつねづね招集されていたビッグマン、川真田紘也(滋賀)が、イラン戦に出場した永吉佑也(ライジングゼファー福岡)と交代する形で登録され、デビューを果たしたが、永吉にその旨を伝えると彼は不平を表すことなく若い川真田に積極的なサポートを施してくれたのだという。

 「われわれが抱える選手たちには非常に満足しています。ハングリーで、チームのためなら何でもするカルチャーを体現してくれているのです」(ホーバスHC)

今夏W杯本戦 富樫「誰もここで満足していない」

 渡邉や金近ら新戦力が活躍したこともある。もちろん、八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)渡邊雄太(ブルックリン・ネッツ)ら“海外組”が加わってもくる。W杯本戦メンバー選手への競争はさらに激しくなると予感させるウインドウにもなった。アジアでは勝てても世界を相手にすると別の話になってしまうというのは、4年前のワールドカップと一昨年の東京オリンピックで全敗していることで、われわれは知っている。

 「正直、やっぱりアジアと世界のレベルはまったく違うというのは全員が理解しているので、誰もここで満足はしていません」

 東京オリンピックに出場し、現在、日本代表のキャプテンを務める富樫はそう気を引き締める。

ワールドカップ本戦へ富樫(中央)は気を引き締める©Basketball News 2for1

 一方で、八村やニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)といった限られた主力が牽引していた前回のワールドカップアジア予選とは違い、今回はウインドウごとに活躍する選手が変わったという点でいまのチームの状況は異なっていると、富樫は言う。

 「沖縄で開催されるワールドカップへ向けて、楽しみですし、しっかりと期間もあるので、しっかり準備したいなと思っています」

 本大会開幕まで半年。ウインドウ6で見せたような試合を、ワールドカップで世界を相手にどれだけできるか。それができれば、世界を驚かすことになる。

(永塚 和志)

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