琉球ゴールデンキングスにとって大一番の試合が続く”決戦の3月”が近い。
3月1〜5日に日環アリーナ栃木と沖縄アリーナで初開催される東アジアスーパーリーグ(EASL)に出場し、3月12日には東京の有明コロシアムで天皇杯全日本選手権の頂点を懸けて千葉ジェッツと対戦する。共にEASLに出場する宇都宮ブレックスが天皇杯準決勝で姿を消したため、琉球はBリーグを含めた”3冠”獲得の可能性を持つ唯一のチームとなっている。
東アジア各国のトップが激突 優勝賞金3千万円超
Bリーグが開幕して今季で7シーズン目を迎えるが、これまで同じシーズンにBリーグと天皇杯の2冠を達成したチームはいない。それをさらに上回る3冠となれば、当然のことながら初の快挙となる。そもそもEASLはBリーグ前シーズンの優勝、準優勝の2チームしか出場することができないため、3冠を獲得するチャンスがあること自体が稀な状況と言える。
「第一関門」となるEASLは日環アリーナ栃木と沖縄アリーナを舞台に、3月1〜5日に行われる。当初はホーム&アウェー方式の予定だったが、今回はコロナ禍の影響で日本での集中開催となった。Bリーグ、韓国のKBL(1位「ソウル SK ナイツ」、2位「安養 KGC」)、フィリピンのPBA(1位「サンミゲルビアメン」、2位「TNT トロパンギガ」)からそれぞれ前シーズンの優勝、準優勝チームが参加し、さらにチャイニーズ・タイペイの「P.LEAGUE +」の優勝チーム(台北富邦ブレーブス)、新たに結成された中華圏を代表するベイエリアドラゴンズの計8チームが初代王者を懸けて競い合う。
3月1〜4日にAとBの2グループに分かれてリーグ戦を行い、最終日の3月5日に各グループの1位同士が決勝、2位同士が3位決定戦をそれぞれ沖縄アリーナで行う。優勝チームには米ドルで25万ドル、準優勝チームには10万ドル、3位チームには5万ドルが贈られる。約8カ月をかけて実施されるBリーグの優勝賞金が5千万円なのに対し、EASLの優勝賞金は日本円にして3千万円超(2月25日時点の為替で計算)。5日間で計10試合という規模の大会にしては賞金はかなり大きいと言っていいだろう。
ちなみに、ホーム&アウェー方式により数カ月をかけて行う予定だった当初の優勝賞金設定は100万ドルで、日本円にするとBリーグを優に超える1億3千万円超(同)だった。
”教科書”はドンチッチ タマヨ「学び」を重視
そんな大一番を前に、琉球は2月16日、球団2人目のアジア枠選手となったカール・タマヨの入団記者会見を沖縄アリーナで開いた。会見場となったアリーナのコート中央に姿を現したタマヨは、202cm、92kgの体格でがっしりとした印象。それでも今月13日で22歳になったばかりの若者は、まだ初々しさも残したおっとりとした口調で挨拶を述べた。
「この素晴らしい球団に入れたことをうれしく思います。勝利のためにできることを全て尽くしていきます。近々あるEASL、Bリーグと、キングスのためにプレーするのが楽しみです」
この日の前日には、沖縄アリーナであった天皇杯準決勝の横浜ビー・コルセアーズとの死闘を観戦していたタマヨ。琉球というチームの印象について「我慢をしながら、素晴らしいディフェンスをして勝利までいっていた。この中で自分がどういうゲームをできるか、学びながら体現したいです」と語った。印象に残った選手には岸本隆一とアレン・ダーラムを挙げ、「岸本選手はとても熟練されているプレーヤーです。ダーラム選手などいろいろな経験をしている先輩から学び、自分のプレーの幅を広げたいです」と展望した。
自身の強みについてはこう語った。
「アウトサイドのシュートでスペースを広げることができ、インサイドでのポストプレーもできると思っています。一番の強みはチームの中でプレーできることです。NBA選手ではルカ・ドンチッチを良い教科書にして学んでいます。素晴らしい球団の中で学ぶことが多いと思うので、いろいろ吸収したいです」
会見の中で「学び」や「チームのために」という言葉を何度も使ったタマヨ。その献身的なメンタリティーは、個に頼り過ぎず、ボールシェアによるチームオフェンスを武器とする琉球にフィットしそうだ。
タイトル奪取に向けた「最後のピース」
会見には桶谷大HCも出席し、タマヨへの期待感を語った。
「将来フィリピン代表を担うような才能溢れる選手を迎えることができてうれしく思います。Bリーグでは帰化選手やアジア枠選手が多く活躍していますが、今季のキングスはそこが足りていない部分でした。フィジカルの部分で外国人選手としっかりと渡り合えるし、アウトサイドシュートでスペースを広げて他の選手がプレーしやすくすることもできる。チームバランスが良くなることを期待してます」
今季は松脇圭志とジョシュ・ダンカンを新たに獲得し、シーズン中に田代直希主将、牧隼利、渡邉飛勇が怪我から復帰した琉球。指揮官はタマヨを3つのタイトル奪取に向けた「最後のピース」と表現し、さらに続けた。
「EASLでは外国人選手が2人しか登録できない中で、4番や5番が彼の主な持ち場になると思います。そこでもフィジカルやアウトサイドシュートでチームに貢献してほしい。3つのタイトルを獲れるように、一緒に戦っていきたいです」
桶谷HCが指摘したように、EASLに限って言えばジャック・クーリー、ダーラム、ダンカンの3外国籍選手のうち2人しか試合には登録ができない。ただ、キングスには今月23、26の両日にあった日本代表戦にも招集された207cmの渡邉もビッグマンとして控えている。指揮官が「小さい選手に付かれたらミスマッチがつけるし、大きい選手に付かれたら逆にスピードのミスマッチをついたりアウトサイドから打ったりすることもできる。ビッグマンを休ませるという効果もあるかもしれないけど、できる限り彼のいいところを引き出すコーチングをしていきたい」と語るように、タマヨが3番ポジションも含めて持ち味を発揮できる環境は十分にありそうだ。
一方で、直近のEASLに向けての懸念材料はやはり練習期間が少ないことだろう。チームに合流してから半月ほどで本番を迎えるが、グループリーグで1試合でも負けると決勝に駒を進めることが難しい、ほぼ”一発勝負”の大会となるため、緊迫感のある試合展開となった場合にどこまで出場機会を得られるかは未知数だ。短期間で完璧にチームに溶け込むことは当然難しいが、持ち味であるプレーの幅の広さを生かし、できる限り琉球のバスケにフィットしておきたい。
大一番への帯同を成長の糧に 平良
琉球は2月23日には、特別指定選手として入団した開志国際高校1年の平良宗龍の入団記者会見も開いた。EASL、天皇杯決勝、Bリーグのレギュラーシーズンの各試合日程がある3月15日まで帯同し、一度高校に戻ってから、その後4月9日までチームと行動を共にするという。平良は琉球のU15、U18でプレーした後、開志国際に入学。昨年末のウインターカップ決勝ではまだ1年生ながら4連続でスリーを沈めるなどし、チーム悲願の初優勝に大きく貢献して全国から注目を集めた。
将来プロ選手としての活躍を目指す平良は「特別指定として入ることで、自分の今のレベルを確認したい。出場機会をもらえたら、しっかり持ち味のスリーポイントやドライブを表現できたらと思います」と決意を語った。
中学生の頃まではチームのエースとしてハンドラーや点取り屋としてプレーしていたが、高校では主にスリーを沈める2番ポジションを担っている。それを念頭に、「高校で一番成長したのはスリーポイントです。もともとキャッチ&シュートでスリーを打つ事が本当に少ないタイプだったので、そこは一気に伸びたと思います」と話す。開志国際の富樫英樹総監督からは「迷わず打て」と助言されてきたと言い、「その言葉のおかげで決勝でも打ち続けることができた」と振り返った。
キングスで一緒にプレーしてみたい選手に挙げたのは岸本。「子どもの頃から見てきて、憧れの選手だった」という。今後に向けて「岸本選手や富樫勇樹選手の方に、日本を代表するガードを目指しています。身長が低い中でも点数を取れる素晴らしい選手たちなので、しっかり見習いたいです」と話した。
大一番の試合が続き、選手層の厚い琉球にあってプレータイムを獲得するのが難しいが、トップチームと練習を共にしたり、試合に臨む選手たちの熱量を間近で見たりするだけでも、平良の将来にとってはいい経験になることは間違いない。
(長嶺 真輝)
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