第98回天皇杯全日本選手権準決勝の琉球ゴールデンキングス対横浜ビー・コルセアーズが2月15日、沖縄アリーナで行われ、ホームの琉球が両チーム合わせて26本のスリーが乱れ飛ぶ”空中戦”を制して96-91で勝利した。琉球の決勝進出は初めて。横浜BCは河村勇輝がキャリアハイの45得点と大爆発したが、あと一歩届かなかった。
琉球にとっては球団として新たな歴史の扉を開くための大事な一戦だっただけに注目度は高く、観戦チケットは完売。沖縄アリーナで行われたホーム戦としては過去最多の8,503人が会場に詰め掛け、選手たちの背中を押した。琉球は3月12日、bjリーグ時代の決勝の舞台である”聖地”東京・有明コロシアムで行われる決勝で、千葉ジェッツと対戦する。
目次
チャールズ・ジャクソンが早々に2ファウル 琉球がインサイド制す
第1Q開始早々に、この試合を象徴する2つの場面が訪れる。
初めにボールをつかんだのは河村。自身より22cm身長が高い今村佳太にマッチアップされるが、チャールズ・ジャクソンのスクリーンを使って正面でフリーになると、プルアップで軽々と先制のスリーを沈める。負けじと琉球は牧隼利、岸本隆一、ジョシュ・ダンカンが3本続けてスリーをヒット。空中戦の幕が上がった。
もう一つは第1Q残り6分43秒の場面だ。ジャクソンがジャック・クーリーのゴール下に対してファウルを吹かれ、この試合早くも2つ目に。現在、Bリーグでチームのリバウンドランキングがトップの琉球の強力なインサイド陣に対し、横浜BCはビッグマンの一角が早くもプレータイムの制限を強いられる形となった。試合後、琉球の桶谷大HCが「最初にジャクソン選手がファウルトラブルになったところはこのゲームの肝かなと思います」と語ったように、最終的にリバウンドの本数で琉球が16本も上回り、試合結果を左右する一つの要素となった事は間違いない。
案の定、前半はクーリーを中心にインサイドで優位に立ったことで、琉球が度々オフェンスリバウンドからのセカンドチャンスで加点。さらに横浜の意識がリバウンドに向かい、インサイドへの寄せが早くなったことで琉球は内外を使ったボール回しから好シチュエーションのスリーを高確率で決め、前半だけで56点を奪って12点リードで折り返した。
後半は”河村タイム”に 両チームの選手、HCが激賞
第3Qからは”河村タイム”に突入する。時間が前後してしまうが、先に試合後の会見に来たヘッドコーチ、選手たちの河村評を記す。
青木勇人HC「圧巻の一言だと思います。試合を重ねるごとに成長し、それと共にチームも成長しています。本当に見ていてワクワクする選手です」
桶谷HC「今村や牧というサイズのある選手をつけたり、出ている選手の中で一番いい選手をつけてたんですけど、もう簡単には守れなかったのが正直なところです。本当にあっぱれというか。素晴らしい選手だなと思います」
岸本「本当に河村君の印象しか残ってなくて、それくらい彼がチームを牽引していたし、ものすごいプレーだったと思います。なんか『バスケ楽しいだろうな』と思いながら見ていたし、本当にいい刺激になりました」
今村「河村君は初めてまともにマッチアップしましたが、本当に速かったし、それが彼の最高の武器だと思いました。本当に素晴らしい選手だと感じました」
全員が激賞した通り、琉球の激しい守備をかい潜って河村がことごとくスリーを沈めたり、スティールからファーストブレイクを出したりして勢いに乗る。前半は最大18点差まで開いたが、第3Q残り約4分の場面でも自らスリーを決め、2点差まで詰め寄った。
集中力保ち動じない琉球 4度突き放す
しかし琉球は動じない。岸本のスリーとクーリーの3点プレーで再び突き放す。第4Q中盤にも河村からアシストを受けたジャクソンのダンクで1点差とされるが、今度は松脇圭志が力強いドライブと左コーナーからのスリーで連続得点を挙げて差を広げた。試合時間残り14秒で河村がまたもスリーを射抜いて2点差となったが、最後はアレン・ダーラムがフリースローで着実に加点して勝敗が決した。
後半だけで4度に渡り1〜2点差に迫られたが、その度にことごとく突き放した琉球。その強固なメンタリティーを保ち続けられた要因を岸本はこう分析する。
「焦りがなかったわけではないですけど、河村君のところではあれ以上のディフェンスはないと思っていました。それを彼が超えてきたので、いい意味で諦めがついたし、そこまで引きずることはなかったです。逆に高い集中力でいいシュートにつながりました。次のプレーに対してどれだけ集中力を高く臨めるかというのはHCも言っていますし、それぞれが持っている共通認識なので、チームの文化としてあると思います」
集中力の高さは日本人選手のスリー成功率の高さに如実に現れた。牧は4分の4、今村は6分の4、松脇は3分の2、岸本は4分の2をヒット。横浜BCは河村が1人で17分の9を決めたのに対し、琉球はこの4人で同じ17本を放って12本を沈め、成功率は7割超え。相手が勢いに乗り掛ける場面で高確率で長距離砲を決め続け、勝利を呼び寄せた。
CSでリベンジ誓う河村 MVP級活躍も厳しい言葉
ただ、この試合のMVPは間違いなく河村だった。チーム最長の35分3秒出場して45得点、7アシスト、4リバウンド、2スティールを記録。国内でも屈指の集客力と熱気を誇る沖縄アリーナにアウェーチームとして乗り込み、天皇杯準決勝という大舞台でこれだけのパフォーマンスを発揮した21歳の活躍は見事と言う他にない。河村がゴールを射抜く度、会場には落胆と感嘆の声が入り混じったようなざわめきが起きていた。しかし、試合後の会見では自らに対して厳しい言葉が口を突いた。
「こういう点数が取れたことはうれしいことですけど、やはり勝たないと意味がないですし、負けは負け。一発勝負で負けたら意味がない。チームを勝たせきれなかったのにはいろいろな要素があります。1ポゼッションごとで『ああしておけば良かった』と思うことはもちろんあります。ターンオーバーだったり、1Qでゲームをコントロールしきれなかったりしたことは課題です」
敗因については、出だしを挙げた。「琉球さんは1Qからすごく高い強度で試合に入りましたが、自分たちがその強度に合わせることができずに、1Qが18-29。この得点差が最後の結果につながってしまいました」。悔しい負けとなったが、Bリーグでは現在中地区2位でチャンピオンシップ(CS)進出圏内に付ける。それを念頭に「天皇杯ではもうやり返せないですが、CSにこの悔しさを取っておこうかと思います」と語り、次なる大舞台でのリベンジを誓った。
縁の深い2人のHC「感慨深いな」
大一番の一戦は選手同士以外にも、縁の深い2人の指揮官の対決も見どころだった。桶谷HCと青木HCは2008年、共に大分ヒートデビルズから当時bjリーグに所属していた琉球に移籍。この08-09シーズン、桶谷HCは指揮官として、桶谷HCよりも4歳年上の青木HCはベテラン選手として、琉球のbj初優勝という偉業を一緒に成し遂げた。球団創設2年目のチームがリーグ4連覇を狙う大阪エヴェッサをファイナルで破るという大番狂わせだった。
指笛が響く決勝の舞台の有明コロシアムで、青木HCが発した「有明の天井に沖縄の青い空が見えた」という言葉は、キングス史に残る名言として語り継がれる。
今となってはチーム力、経営面共にBリーグトップクラスの球団となった琉球の草創期を支えた2人。沖縄の地で相まみえ、試合前から「すごいね」「感慨深いね」と話していたという。以下は桶谷HCの言葉だ。
「同じタイミングで大分から沖縄に来て、その年のシーズンにbjで日本一になった。やっぱり沖縄に対しての思いはどちらもあります。その沖縄で、こうやって満員の沖縄アリーナで天皇杯準決勝の試合ができることは、2人で試合前から『すごいな』という話をしていました。相手が勇人さんで良かったと心から思いますね」
続いて、青木HC。
「琉球の皆さんには本当に決勝進出おめでとうという気持ちがあります。bj時代は天皇杯に出られない時期もあった。bj出身の琉球と横浜BCというチームが準決勝を戦い、琉球が有明コロシアムに進んだ。bj時代に戦っていたあの有明コロシアムでまた琉球の皆さんが活躍するところを本当に期待しています」
千葉Jと決勝 生え抜き11年目の岸本 ”聖地”有明に「ホーム感」
青木HCの言葉に度々出てきたように、有明コロシアムはbjリーグが毎年決勝を行い、数々の名場面をつくった日本バスケ界の”聖地”の一つだ。琉球はbjで4度チャンピオントロフィーを掲げ、ブースターにとっても馴染み深い場所でもある。
そんな有明に対し、生え抜き11年目の岸本は「ホームだと思っている」と言う。それもそのはず。自身のルーキーイヤーで新人賞を獲得した13-14シーズン、ファイナルで富樫勇樹率いる秋田ノーザンハピネッツと対戦し、両チームトップの34得点を挙げてファイナルMVPを獲得。琉球にとって3度目のbj制覇に貢献した。さらにbj最後のシーズンとなった15-16シーズンも富山グラウジーズを破って4度目の頂点に立ち、「僕のキャリアでは勝率100%なので、自分に運が向いている場所かなと思う」といいイメージを持っているようだ。
決勝の相手は現在Bリーグ東地区1位の千葉となり、お互いベテラン選手となった富樫と再び有明で相まみえることとなった。ヴィック・ローや帰化選手のギャビン・エドワーズなどインサイド陣も強力で、千葉は現在、昨シーズン琉球が記録したB1の最多連勝記録の20連勝に並んでおり、隙がない。
富樫とのマッチアップについては「大変ですよ(笑)。特別な能力を持った選手の1人だと思うので。お互いにいいパフォーマンスを出せればいいなと思います」と静かに闘志を燃やす岸本。千葉のキーマンにはエドワーズを挙げ、「彼が帰化選手としているので、サイズは圧倒的に千葉が高い。そのため、エドワーズ以外の選手にアドバンテージが生まれる状況が出てくると思うので、しっかりケアしていかないといけないと思っています」と見通した。
創設7年目に入ったBリーグでは、まだタイトルのない琉球。エース級の活躍を続ける今村は「キングスは歴史のあるチームですが、まだBリーグになってから(どのタイトルでも)優勝はない。ここでタイトルを一つ獲ることで、次のステップに上がれる大きなきっかけになると思います」とチャンピオンリングへの強いこだわりを見せる。
当然、ファンも同じ思いだろう。また、あの有明で選手、スタッフと共に興奮を味わい、共に”ゴールド”に輝くチャンピオントロフィーを掲げたいはずだ。青木HCの言葉を借りて、琉球ブースターの思いを代弁する。
「有明コロシアムの天井に、また沖縄の青い空を見せてほしい」
(長嶺 真輝)
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