河村勇輝「相手が嫌がる選手に」 横浜ビー・コルセアーズを導くエースの進化が止まらないワケ
進化が止まらない横浜ビー・コルセアーズの河村勇輝©Basketball News 2for1
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 数多くあるBリーグの試合の中でも、毎週、必ずスタッツ等を確認しておきたい選手がいるとすれば、今のそれは河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)であろう。

 とりわけここ数試合のパフォーマンスは圧巻で、俊英がまた一段高みに達したことを示している。

 12月3日からの宇都宮ブレックスとの2連戦では、初戦で32得点、13アシストを挙げた。翌日の試合では試合終了間際に逆転の3ポイントショットを沈め34得点し、アウェイの戦いながらチームを連勝に導いた。

 勢いは止まらない。同7日の天皇杯第4次ラウンドの三遠ネオフェニックス戦でも、21歳のポイントガードは3Pを15本中8本決めて36得点し、準々決勝進出の原動力となった。

リーグ1位の9.7アシストに加え17.7得点と得点力に磨き

 これまで河村の武器といえば広い視野からの鋭いアシストパスだった。今シーズンもそこは変わらない(現在平均9.7本はB1で1位)が、得点力の向上が如実だ。平均17.7点はチームトップ。さらにはB1全体でも14位で、日本人(帰化選手を除く)選手の中では同じく最上位だ。

 昨シーズンの平均は10得点。その前年は彼のBリーグキャリアで最も苦しんだ年となり、同6点だったから、ここまで劇的に変化したことに驚きを隠せない。

 成長のきっかけの一端が、日本代表での活動にあったことは明白だ。

 河村は今シーズン、初めてA代表に選出され、オフェンスで“ファイブアウト”の戦術を用いながらフロアをより広く使いながら攻撃的に戦うトム・ホーバスヘッドコーチのチームで、自身の得点への意識を高めた。

元々、自身を「パスファーストの選手」と表現していた河村だが、今、その得点への意識は変化の途上にある。

 「今は結構、(得点とパスへの意識のバランスは)フィフティ・フィフティまで来ているかなとは感じています。チーム全員でバスケットを作っていくというのは根底にあるんですけど、パスを生かすために必要なことがスコアすることなので」

 先週末の三遠ネオフェニックス戦。横浜BCは連勝を収め、今シーズン、自軍最長の4連勝。直近8試合でも7勝1敗と調子を上げ、通算10勝8敗とし中地区2位に浮上した。上のコメントは、三遠に連勝した12月11日の試合後の河村のものだ。

12月11日の三遠戦では21得点10アシストを記録©Basketball News 2for1

「幅の広いプレーヤーに」得意のドライブとアシストに長距離砲も

 河村の得点力向上はもはやブラフではなくなっているが、彼の突出したスピードからのドライブとレベルアップした3P(11月以降は成功率43.1%)を封じるのは容易ではない。そのため、近々で当たった宇都宮ブレックスや三遠は、むしろ河村に得点をさせるのは「是」としつつ、代わりに他の選手に得点させないようなディフェンスを敷いている。

 それが一定程度機能しているところは確かにあるが、しかし、横浜BCも河村も当然、対応してくるし、今後もそうしたやり口がうまくいくかの保証はない。

 上述の11日の試合は、ある意味それが出た。前半、速攻が出せずパスも回らなかったが、後半は、河村が見違えるようなプレー。ペイントアタックからのレイアップやアシストパス、また2本放った3Pの両方を沈めるなどで、後半だけで16得点、7アシスト(試合全体では21得点、10アシスト)を挙げた。河村の「爆発」で横浜BCは10点差を挽回し、後半、怒涛の51得点(三遠は同28得点)で快勝を収めた。

 アシストだけではなく、得点もある。ドライブインもあれば、3Pもある。河村は今、相手からすれば間違いなく守るのに的を絞りにくい、この上なくやっかいな男になりつつある。

 河村自身も「相手が嫌がる」選手になっていきたいと、理想を語る。

 「三遠さんみたいに自分のアシスト、得意なところを消してスコアされてもいいというディフェンスは今後もあると思います。そうなったらもちろんスコアをしにいって相手が嫌がるように、(相手がこれくらいは決められてもいいという)期待値の上を行けるようにできれば。相手がどんなディフェンスをしてきても(対応出来るような)選択が出せるように、幅の広いプレーヤーになりたいなと思っています」

三遠戦後、記者の質問に答える河村©Basketball News 2for1

 3Pの付加価値を加味した「実質のFG%」とも言えるeFG%は、得点効率の良さを示す指標の一つだが、今シーズンの河村のそれはここまで51.3%と、これまでのBリーグキャリアで1度も超えたことのない50%を上回っている(昨シーズンは47.5%)。この数字が良ければ、河村の口にする相手の「期待値の上」を行くことになると言えるかもしれない。

 相手にとって嫌な選手ということは、転じて、味方にとっては頼りになる選手となる。とりわけ11日の試合の後半の河村のパフォーマンスは、痛快なまでによく機能した。

 得点力を備え始めた河村のプレーぶりに、横浜BCの青木勇人HCも信頼を寄せているようで、このように話している。

 「1個、1個、セットプレーをやろうとか、ここはパス回していけとかいうのではなくて、(河村)の発想力をチームとして生かしていますし、彼自身も生かしている結果だと思います」

 青木HCはまた、河村という逸材の活躍をこうも表現した。

 「見ていてワクワクしますし、みんな(チームオフェンス)が生き物のようにプレーしている姿。今日(11日)の特に第3Qなどは、僕も興奮するようなバスケットをしていましたし、そういうバスケットを表現できるというのは河村選手の良さでもありますし、一緒にプレーしている周りの選手たちの良さでもあると思います

オールスター最多得票も冷静「人気だけではなく実力でリーグの顔に」

 今シーズン、横浜BCで初年度を戦い、過去には他チームで河村を対戦として見てきたチャールズ・ジャクソンは、彼が全体練習以外でもシュートを打ち続けるなど陰の努力を見てきた。

 「今はその成果をコートで発揮しているというところだよね。それに伴って、毎週、自信を得ているようだし、彼が慢心せずにハードに練習しつづけていけば、今後も30得点するような試合を披露すると思うよ」(ジャクソン)

 慢心という点で、河村にその心配はないといえる。

 「完璧な試合など1つもない」

 「僕たちビーコルはまだ何も成し遂げていない」

 どれだけ活躍しても、浮かれる様子がまったくないからだ。それは今シーズン、彼が発した上のような言葉から感じられる。勝っても負けても、試合後に出てくる言葉は反省のそれが多い。

©Basketball News 2for1

 先週は、1月に茨城県水戸市開催のBリーグ・オールスターのファン投票で過去最多得票を集め、先発出場することが発表された。だが、河村はその「現象」をあたかも第三者を語るかのような口ぶりで、こう話した。

 「若いというところでいろんな方に人気として票を入れてもらっていて、(今後の)期待も込めてもらっているとも思います。実力的なところで入れてもらっているというよりは、期待値や若さ(に対して)入れてもらっていて、実力が追いついていない。人気だけではなくて、実力でもそこに追いついてちゃんとしたリーグの顏になれるようにしていきたいです」

 日本代表や横浜BCのパフォーマンスは、我々にすれば「大活躍」あるいは「大躍進」と呼べるレベルのものだ。しかし、河村当人にとってはそうではない。

 さらに上を、高みを。河村勇輝という選手がここからどこまで階段をかけ上がっていくのか、想像がつかない。

(永塚 和志)

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