琉球ゴールデンキングスで遂にBリーグデビュー東京五輪日本代表の渡邉飛勇の未来に「ヒカリアレ」
Bリーグデビューを果たした琉球ゴールデンキングスの渡邉飛勇©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 2月5日午後、沖縄アリーナ。琉球ゴールデンキングス対富山グラウジーズのティップオフ前、会場には恒例となっているホーム琉球の選手が選ぶ「favorite song(好きな曲)」が流れていた。チョイスは、バレーボール漫画「ハイキュー!!」のTVアニメ版オープニング曲である「ヒカリアレ」。選んだのは、3度の手術と過酷なリハビリを乗り越え、この日遂にBリーグデビューを果たした東京五輪日本代表の渡邉飛勇だ。

3度の手術と過酷なリハビリ乗り越え

 ヒカリアレの歌詞の一部にはこうある。

光あれ
一寸先の絶望へ
二寸先の栄光を信じて
光あれ
大地を蹴る理由は唯一つ
もっと眩く俺は飛べる

 米国ハワイ州出身。身長207cm、体重106kgのパワーフォワード。ポートランド大学、カリフォルニア大学デービス校大学院を経て、プロデビューの地に選んだのは母の母国である日本のBリーグだったが、琉球に入団した2021年の9月4日に沖縄アリーナであった秋田ノーザンハピネッツとの開幕前練習試合で右肘の橈骨頭(とうこつとう)を骨折。当初は全治4〜5カ月の見込みと診断されたものの、その後に骨片の転移が確認されるなどして手術を繰り返した。

 復帰までに費やした時間は約1年5カ月。現在24歳で、伸び盛りの大事な時期だっただけに日々歯痒さを感じていたに違いない。「コートに戻る」という一心でもがき続けたリハビリ期間中の思い、そして人生の新たな一歩を踏み出すに当たっての強い決意を自らの選曲に込めているようだった。

”素早く高く飛べるビッグマン”リーグ日本人最高の207㎝

 「NO.9 ヒュー・ワタナベ!」

 選手入場で名前が呼ばれると、満面の笑みを浮かべた背番号9がスポットライトの下へ勢い良く飛び出してきた。先に入場していたコー・フリッピンとアレン・ダーラムに加え、待ちわびた琉球ブースターも盛大な拍手で迎える。「試合前はとても緊張した」と言うが、その表情にはやっとプロの公式戦でプレーできるという喜びに満ち満ちていた。

 初めての出番は第1Q残り3分11秒。ジャック・クーリーとの交代でコートに入ると、1分もたたない内にいきなり見せ場をつくる。右サイドからゴールアタックしたフリッピンがレイアップを外すと、すかさずオフェンスリバウンドに飛び込んでボールを奪取。すぐに放ったシュートは外したが、相手選手が4人ひしめくゴール下で再びリバウンドを掴み、Bリーグ初得点をねじ込んだ。

7得点1ブロックを記録©Basketball News 2for1

 続けて2本のフリースロー、ボードを使ってのミドルシュートを決めて連続6得点を挙げたが、ディフェンスでも存在感が際立った。印象的だったのは、定評のあるブロックだ。

 相手のスリーを実際に一本ブロックしたが、それ以外にも富山の得点源であるノヴァー・ガドソンがダーラムを交わしてゴール下を放った場面で渡邉が背後から素早く飛んできてボードに手がぶつかる程の高さのあるブロックを披露。ボールには直接触れられなかったが、プレッシャーを掛けてシュートを落とさせた。後半にも出番を得て、この試合は12分16秒のプレータイムで7得点、6リバウンド、1ブロックという上々のスタッツを残した。

 207㎝という身長は、現在Bリーグの日本人選手(帰化選手を除く)では竹内譲次(大阪エヴェッサ)と並んで最も高い。これまでの日本人ビッグマンは俊敏性やジャンプ力の面で海外選手に劣っている印象だったが、渡邉は高校2年までバレーボールがメインだった事もあり、”素早く高く飛べるビッグマン”だ。身体能力が高く、トランジションで相手ゴールへ向かうリムランも速い。

 東京五輪では出番がなかったため、日本国内の公式戦でプレーしたのはこの日が初めてだった。短い出場時間ではあったが、ファンや他チームに与えたインパクトは極めて大きかっただろう。

©Basketball News 2for1

「コートに戻ることだけを考えていた」

 試合結果は89-65。西地区3位の琉球がジュシュア・スミス、ブライス・ジョンソンの主力ビッグマン2人を負傷で欠く中地区7位の富山をリバウンドで圧倒し、危なげなく勝利した。

 試合中、心からゲームを楽しんでいるように大きな笑みを何度も浮かべながらも、久しぶりの公式戦で度々膝に手を付いてキツそうな表情も見せていた渡邉。日本語と英語を交えて質問に答えた試合後の記者会見では、こう語った。

 「あー、疲れた(笑)。試合の前にすごく緊張したけど、コーチやチームメートのおかげでリラックスして試合に挑むことができました。初めてBリーグ公式戦のコートに立つことができ、良いスタートを切る事ができたと思います。疲れてるけど、めっちゃ楽しかった。今後もリバウンド、ブロックショット、ディフェンスでチームに貢献したいです」

試合後インタビューで語る渡邉©Basketball News 2for1

 離脱中の心境については「まずはコートに戻らなくちゃいけない。それ以外は考えなかった。けがはすごいやばかったから」と率直に振り返る。今季の目標について問われた際も「ちょっと考えなかったですね。本当にけががやばかったから。僕の目標はコートに戻ることで、それ以外は考えませんでした。今、その答えはないです」ときっぱりと語り、1年以上に渡っていかにリハビリだけに集中してきたかということをうかがわせた。

外国籍3人の負担を軽減 天皇杯、EASL見据え

 高さのある渡邉の復帰は、他チームではビッグマンであることが多い帰化選手がいない琉球にとって重要なピースになることは間違いない。現状でさえ個人リバウンドランキング2位(平均12.1本)のジャック・クーリーをはじめ、ダーラム、ジョシュ・ダンカンという強烈なインサイド陣を柱にチームのリバウンド数は平均42.4本でリーグトップであり、さらに渡邉が加わったことは他チームにとって脅威以外の何ものでもないだろう。

 桶谷大HCも「飛勇がプレータイムをもらうことで3人の外国人選手の負担がだいぶ軽減されると思う」と期待感を示す。特に琉球はレギュラーシーズンの合間の2月15日に横浜ビー・コルセアーズと沖縄アリーナで天皇杯準決勝を戦い、勝てば東京で3月12日に決勝もある。さらに3月1〜5日に短期間で集中開催される東アジアスーパーリーグ(EASL)も控えていて、他チームに比べて極めてハードなスケジュールとなっているため、プレータイムのシェアによる選手たちのコンディション管理はリーグ優勝に向けて避けては通れない課題だ。

 チームの大黒柱であるクーリーも「今日の試合だけ見ても、彼の存在は非常に助けになりました。長い目で見ても、今季は非常にタフなスケジュールが続くので、そういった時に彼が出場する時間が自分の負担を非常に下げてくれると思います」と歓迎する。実際、この日は危なげない試合展開で快勝したこともあるが、インサイド陣の出場時間はクーリーが24分3秒、ダーラムが24分9秒、ダンカンが17分48秒とかなり短く抑えられていた。

タイプの異なる渡邉とタマヨの起用法に注目

 また、今後は渡邉が外国籍選手2人と共にコートに立つ「3BIG」のオプションも加わるため、川崎ブレイブサンダースなどサイズのあるチームとの対戦では有効に働きそうだ。渡邉自身も「昨シーズン在籍していた小寺選手(小寺ハミルトンゲイリー=現仙台89ERS)のように、他の外国人選手とコートに立った時に力を発揮できるように練習したい」と意気込む。

 さらに今後はアジア枠選手として、渡邉と同じく身長202cmでサイズのある若手フィリピン代表のカール・タマヨも合流する琉球。選手起用の見通しについて桶谷HCに聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「(渡邉とタマヨは)タイプが違います。飛勇はショットブロッカーとしてプレーができて、オフェンスではハードダイブがすごくて、リムランも速い。何より上にボールを放り投げても取ってくれるところが強みです。タマヨはアウトサイドのシュートと体の強さがある4番タイプで、将来的には3番にポジションを上げていくことも大事になると思っています。そうなれば、3BIGも使えるんじゃないかと。タマヨは来てからの楽しみですが、チームがいろんなオプションを持って戦えるようになっていくのかなと思います」

 選手層の厚さをしっかりと戦力に昇華するというプレッシャーはあるだろうが、将来性のある選手たちを起用することに、指揮官もある種のワクワク感を感じているようだった。

 悲願の初優勝を目指す琉球にとって、渡邉のカムバックは極めて大きい出来事だ。ただ、まだバスケ経験も浅い中で日本代表に選ばれるほどの潜在能力を秘める24歳の復帰は、日本バスケ界全体にとっても明るいニュースだろう。若手ホープの1人のプロキャリアはまだ緒に就いたばかり。日々の努力を積み重ねて苦難を乗り越え、遂にスポットライトの下に降り立った渡邉の未来に、ヒカリアレ。

(長嶺 真輝)

©Basketball News 2for1

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