西地区5位の大阪エヴェッサは4月5日、同地区2位の琉球ゴールデンキングスのホーム・沖縄アリーナに乗り込み、89ー88で接戦を制した。bjリーグ時代から高いレベルで切磋琢磨してきた両チームだが、試合前のゲーム差は16。低迷する大阪にとって、浮上のきっかけになり得る大きな一勝となった。
絶対的エースであるディージェイ・ニュービルが両軍トップの34得点と大爆発。第4Qにインサイドの要のショーン・オマラが退場し、窮地に陥った大阪を救った。そして、攻守に勝負強さを発揮して金星を呼び込んだ立役者がもう一人。185cmのガード、「ここぞという時の木下誠」(Bリーグサイトのニックネーム)だ。
18分9秒出場し、主なスタッツは11得点、3リバウンド、3アシスト。数字だけを見れば際立った成績ではないが、いずれも重要な場面で記録し、さらに特筆すべきは「2ブロック」である。この2つが炸裂した時間帯、そしてシュートを放った琉球の選手が、その価値を増幅させる大きな要因となった。
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スティールにディープ3P オマラ退場後に“ここぞ”の活躍
第3Qを終えた時点で8分ほどの出場時間にとどまっていた木下が、急激に強い光を放ち始めたのは、第4Q残り5分41秒でオマラが退場してからだった。
相手はリバウンドランキング1位のジャック・クーリーをはじめ、重量級のインサイド陣を揃える琉球だけに、チームの雰囲気が一気に消沈しかねない場面だったが、直後のディフェンスで中へのパスを読み切ってスティールを決める。トランジションから得点にこそ繋がらなかったが、チームを鼓舞したことは間違いない。
次はオフェンス。残り約4分で5点差まで引き離されたが、自陣からボールを運んだ木下がハイピックからそのままゴールにアタックしてレイアップを沈める。続く攻撃でも右45度からディープスリーを難なく決め、80ー80に追い付いた。
中地区1位の川崎ブレイブサンダースを88ー80で破った4月2日の前節でも、スリー4本を含む16得点で勝利に大きく貢献した木下。マティアス・フィッシャーHCは「マコ(木下)が今日の試合でも絶対にホットな選手になれることは全員が信じていました」と振り返る。
“クラッチシューター”岸本隆一をシャットアウト
“ここぞ”の活躍はまだ終わらない。冒頭で触れた場面である。
ニュービルの連続得点で食らい付き、85ー85と並んだ状態で1分を切った。琉球は今村佳太がドライブを仕掛け、左コーナーでフリーで待ち構えていた屈指の“クラッチシューター”岸本隆一にキックアウト。琉球ファンにとっては、これまで何度も目にしてきた勝ちパターンのシチュエーションだ。ただ、それは木下も重々分かっていた。
「最後はやっぱり岸本さんがシュートを打ってくるだろうなっていう風に思っていました。ドライブされてもいいから、とりあえず外のシュートを打たせないようについていました」
トップの位置から急加速し、左腕を目一杯伸ばしながらジャンプ一番。岸本の左半身側をもの凄い勢いですり抜けながら見事にシュートをブロックした。
そして、もう一つ。ニュービルのドライブで勝ち越した後、琉球は今度は岸本自身がハンドラーに。マッチアップするのは、やはり木下。岸本がハイピックからコート左側をドライブし、左45度のスリーポイントライン付近で急停止してステップバックスリーを放った。それに対し、木下は右足で踏ん張り、完璧な反応でまたも左手でブロック。沖縄アリーナにため息を充満させ、勝利を大きく引き寄せた。
“自分の間合い”と卓越した感性
岸本はこれまで幾度となくクラッチタイムでビッグスリーを沈めてきた。そのクイックモーションとステップバックを駆使したシュートは、分かっていてもなかなか止められるものではない。木下は何が奏功したのか。本人の答えはこうだ。
「自分の間合いでつけたかなと思います」
これまで自身のSNSやインタビューで明かしている通り、打撃、寝技、関節技がある総合格闘技「日本拳法」の経験がある。“自分の間合い”について距離感などを追加で聞いてみると、「岸本さんのステップバックスリーに反応するためには、自分の距離でついた方が守りやすいのかなって。でも、ラッキーだったと思います」と返ってきた。
抽象的な内容ではあるが、日本拳法などで培ったであろう独自の間合いに深い自信を持っている事がうかがえた。さらに、その後の問答には卓越した感性を備えている事も垣間見えた。2ブロックの合間には、ビッグマンがひしめくゴール下で価値のあるディフェンスリバウンドも奪取していたため、なぜそこまで勝負強いプレーができるのか、を聞いた際の言葉である。
「僕は運を拾いに行ってるみたいな感じですかね。何か、そこに行けばボールが来るだろうな、という予測というか。運の良さもあるのかなとは思います」
試合終盤のヒリヒリした場面でも「特に何も考えてないです。いつも通り練習でやっていることをやろうという気持ちでいます。緊張とかはあまりないですね」と言い、ひょうひょうとビッグプレーをやってのける。側から見ると、とても「運」では形容し切れないと活躍ぶりだったが、自らの感性に従ってプレーしている木下自身にとってはその表現がしっくりくるのかもしれない。
西地区4強と残り7試合「最後まで勝ちにこだわる」
大阪の通算成績は22勝26敗で、西地区5位、ワイルドカードでは6位。現状では、大阪がCSに進出するためには西地区4位で、ワイルドカード2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズを抜く必要があるが、12試合を残して13ゲーム差となっているため、CS進出の可能性は既に消滅している。しかし、直近で川崎、琉球という強豪を立て続けに破った大阪は闘争心を失ってはいない。
最終的な勝率について「49%になったとしても、55%になったとしても、そこに対しての感情はあまりない」というフィッシャーHCは「1試合1試合、自分たちを信じる、チームを信じる、そして一緒に戦うというところに価値を置いています。選手にはそこを期待したいと思っています」と話し、チームとしての完成度の向上を見据える。
残り12試合のうち、島根2試合、琉球2試合、広島1試合、名古屋D2試合と西の4強との対戦が7試合と厳しい日程が続くが、木下も「誰が出てきても自分の仕事をみんながやろうとしているので、そこは本当に良くなっている」とチーム状態が上がってきていることを実感しているようだ。
シーズン最終盤に向け、淡々とした話し口の中に闘志も含ませた。「最後まで勝ちにこだわってプレーをしていきたいです」。“ここぞ”の男から、今後も目が離せない。
(長嶺 真輝)
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