桶谷大HCの”信念”が築いたセカンドユニットの強さ 琉球ゴールデンキングスが初優勝までに辿った「茨の道」
コー・フリッピン(左)と抱き合う琉球ゴールデンキングスの桶谷大HC
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 2023年、元旦。

 前日の大晦日ゲームでアルバルク東京に敗れた後、年をまたいですぐに一勝を奪い返した琉球ゴールデンキングスの桶谷大HCが、試合後にコート中央でマイクを握り、引き締まった表情でブースターに宣言した。

 「上位のチームに勝つ事もあれば、下位のチームに負けることもあります。僕たちはまだまだ強いチームではないです。今シーズン優勝するためには、この『茨の道』を通りながら進んでいきたいと思います」

 それから半年後、シーズンの経過と共に着実に成長を遂げていった琉球は、2年連続でたどり着いたファイナルの舞台で、3月の天皇杯決勝で敗れた千葉ジェッツを2連勝でスウィープし、悲願の初優勝を飾った。シリーズを通して千葉Jの武器である3Pを20%台の低確率に封じ込み、1戦目はダブルオーバータイムにもつれる死闘を96ー93で勝利。2戦目を88ー73で快勝した。

(写真=B.LEAGUE)

初優勝を果たし優勝トロフィーを掲げる琉球ゴールデンキングス

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第2戦4Qが「層の厚さ」を象徴 ベンチメンバー4人

 最大の勝因は、強力なセカンドユニットの存在がもたらす層の厚さだ。千葉Jで得点した選手は2試合とも6人にとどまったのに対し、琉球は第1戦が10人、第2戦が8人。ベンチポイントも第1戦から順に45対4、45対17と圧倒した。

 その「強み」を最も象徴したのが、第2戦の最終第4Qである。優勝が懸かる最も大事な時間帯となるクロージングのコート上に、シーズンを通して安定した活躍でチームを引っ張ってきた岸本隆一、今村佳太の姿はほとんどなかった。第3Qの終盤に続き、コー・フリッピン、松脇圭志、牧隼利、アレン・ダーラムのベンチスタートの4人が主に出場し、このクォーターだけで13得点を挙げたフリッピンを中心に盤石の戦いぶりを発揮。千葉Jの追い上げを許さず、そのまま歓喜の瞬間を迎えた。

4Q終盤、セカンドユニットの活躍に喜ぶ今村佳太(手前)ら

 「見てください。今日のセカンドユニット最高ですよ!」

 試合後、コート上で行われたインタビューで、破顔した桶谷HCが誇らしげに言った。記者会見では第4Qの采配の狙いを問われ、こう答えた。

 「コーがディフェンスで富樫(勇樹)について、松脇が(クリストファー)スミスについて、その相性が良く、オフェンスでも点が取れていました。隆一、今村には『何かあったら出すから準備はしといて』と伝えていましたが、流れが良かったので、そのまま使い続けました」

 個に頼らず、選手たちが高いレベルで融合した圧巻のチーム力は、どのようにして築かれたのか。bjリーグで最多4度の優勝を誇るキングスを、真の”キング“へと昇華させた「茨の道」とはー。

層の厚さを見せつけた

掲げた「ポジションレス」エゴぶつかる

 ハンドリング能力に長けた並里成、昨季ベスト5に選ばれたドウェイン・エバンス、帰化選手の小寺ハミルトンゲイリーが退団し、松脇圭志、ジョシュ・ダンカン、球団初のアジア枠選手となったジェイ・ワシントン(昨年12月に退団)を加えて今シーズンをスタートさせた琉球。桶谷HCが振り返る。

 「成というポイントガードがいなくなり、新しいピースがある中で、このメンバーでどういうバスケをするか。去年とは違うバスケを目指さないといけなかった」

 昨シーズンは劣勢に陥った時、エバンスやダーラムの個人技、そこに小寺を含めた「3BIG」で打開する場面も多かった。しかし田代直希、牧、渡邉飛勇と負傷者が相次ぐ中、ファイナルでは並里もコンディション不良で欠き、頼みの3BIGにも対応されて宇都宮ブレックスに2連敗。その反省から、手札を増やし、チーム力を底上げするために指揮官が掲げたテーマは「ポジションレス」だった。

 ポイントガードの岸本隆一やコー・フリッピンだけでなく、牧や今村、ダーラムにもオフェンスをクリエイトするハンドラーの役割を求め、それぞれのプレーの幅を拡大。ボールシェアによる厚みのあるオフェンスを目指した。しかし今村や岸本という万能型の選手がいるスターティング5とは異なり、ドライブ力に長けたフリッピンや3P能力の高い松脇など、一芸に秀でた選手が揃うセカンドユニットをまとめるのは容易ではない。「最初はみんなのエゴ、思いがあってなかなか一つにまとまらなかった」(桶谷HC)。

“バランサー”牧の復帰、控えに回ったダーラムが成熟を加速

 それでも視野の広さと声によるリーダーシップを持ち味とし、チームの”バランサー“とも言える牧が9カ月間の長期離脱から復帰すると、本人の状態が上がってくるのに比例して徐々にセカンドユニットが安定し始める。

 さらにシーズンの約4分の1を終えた昨年12月中旬からはダーラムもベンチスタートに転向。ゴール下で2、3人に囲まれても自らシュートを決め切れてしまう圧倒的な個の突破力に加え、相手のディフェンスを引き付けて外にパスを捌くシーンも増えたことで、ボールムーブメントの完成度が成熟していった。ダーラムは平均アシスト数を昨シーズンの2.6から3.6に伸ばし、ボールシェアの意識が数字にも現れた。

シックスマンとしてチームを支えたアレン・ダーラム(左)

 すると「チームメートをリスペクトして、今は僕が攻める、今は彼に攻めさせようという波長がどんどん合ってきた」(桶谷HC)。各選手の状況判断が改善したことでフリッピンのドライブや松脇の3Pにも迷いがなくなり、精度が向上。それぞれが多様な役割をこなす「ポジションレス」を通して互いの長所に対する理解が深まり、逆にそれぞれの役割が明確化されていった印象だ。

 優勝を決めた直後、松脇に「いつ頃からセカンドユニットに手応えを感じ始めたのか」を聞いてみた。

 「前半戦は探り探りやっていて、僕もアジャストできている部分とできていない部分がありました。でも後半戦からチームで『こうやっていこう』というマインドセットができていったと思います。HCからも僕が出たらディフェンスと3Pを打つことが仕事と言われていたので、やるべき事が絞れてシュートが打ちやすくなりました」

松脇圭志

 松脇の感覚通り、前半戦の成績が22勝8敗だったチームは、後半戦で26勝4敗という強さを発揮。一時は激戦の西地区で4位まで落ちたが、レギュラーシーズン残り4試合という土壇場で島根スサノオマジックをまくり、地区6連覇を飾った。CSでMVPに輝いたダーラムが振り返る。

 「自分のポジションでは、自分はスピードが速いわけでも、背が高いわけでも、より高く飛べるわけでもないけど、バスケIQを使うことを心掛けてきました。チームは浮き沈みが激しいシーズンでしたが、常にハングリー精神を持ちつつ、我慢を続け、一体で取り組んできました。チームメート、コーチ、スタッフを誇りに思います」

リーダー「不在」から「全員」に きっかけは…

 シーズンを通しての大きな変化が、もう一つ。「リーダー」の在り方である。シーズン序盤戦の昨年12月14日に沖縄アリーナであった京都ハンナリーズ戦後、桶谷HCは勝利した一方で、チームに対してある苦言を呈した。

 「今年はみんなが他の選手に任せていて、リーダーシップを持ってやれる選手がいない。共通認識を持ってバスケットができるように、そろそろリーダーシップを発揮できる選手が出てきてほしいと感じます」

 リーダーの不在。レギュラーシーズンの終盤戦やCSではコート上で頻繁にハドルを組み、選手たちが積極的に声を出して意思統一を図っていたチームの姿からは想像できない人も多いだろう。いつから変化が生まれてきたのか。キャプテン就任4シーズン目となった生え抜きの田代に「自らのキャプテンシーの評価はどうだったか」と聞いた際の話に、その答えがある。

 「自分はあんまり発揮してないですね。特に僕が何かをするわけではなく、みんながリーダーシップを発揮したと感じます。天皇杯で負けてしまったりという経験もして、最後CSに向けて明確に目標を立てられたので、そこに向かって集中していけた。シーズンが進むごとに、みんながリーダーシップを発揮できるようになっていったと僕は思っています」

 今年3月、球団として初めて挑んだ天皇杯決勝で千葉Jに76ー87で敗れ、「千葉さんを倒すことを頭に入れて今後やっていきたい」(岸本、試合後会見)という共通認識を深めた琉球。同じ方向を向いた結果、自然と「全員がリーダー」という形が構築されていった。

全員がリーダーシップを発揮した

「バスケ以上のもの」を体現 

 シーズン中、桶谷HCはよくこんな言葉を口にしていた。以下は、今年1月11日にホームで行われ、1点差で惜敗した島根戦後の発言である。

 「誰か一人が成長するだけでは、やっぱりチームは強くならない。もちろん(能力の高い)特定のプレーヤーにボールを集めればいい成績が残ることもあるとは思いますが、チームみんなが成長する方が、僕は間違いなくチームが一番成長できると思う。シーズンの最後に『キングスが強かった』『強く成長したね』って思ってもらえるようにやっていきたいです」

 シーズンを通して個々、チームが成長を続け、指揮官の”信念“、そして球団が掲げる「団結の力」を見事に体現した選手たち。1年の間に2度も日本一の壁に阻まれた経験を「セカンドユニットの強さ」「層の厚さ」という力に変えた。生え抜き11年目で、優勝決定と同時に涙を流した岸本の表情にも充実感がにじんだ。

優勝後、桶谷HC(右)と抱き合う岸本隆一

 「キングスが歩んできた道を振り返ると、何度も壁に当たり、それを乗り越えて今日という日を迎えました。自分もBリーグが発足してから、目標に届かないという思いをずっとしてきましたが、自分たちの信じるスタイルを信じ続けた結果、そこに手が届くということを、他のチームに対しても証明できたと思います」

 岸本はよく、こんな言葉を口にする。「見ている人にとって、バスケ以上のものを感じてもらえるようにプレーしたい」。悔しい経験を糧に新しいスタイルを追い求め、トライ&エラーを繰り返す中で徐々にメンバーが同じ方向を向き、相乗効果で生み出した力で掲げた目標を達成する。それはスポーツチームに限らず、どんな業界においても求められる組織づくりのあり方だろう。

 今シーズンの琉球は、桶谷HCと岸本の”信念“をBリーグ初制覇という最高の形で表現した。

(長嶺 真輝)

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