東アジアスーパーリーグ(EASL)グループBの琉球ゴールデンキングスは30日、マカオにあるスタジオシティ・イベントセンターでマカオブラックベアーズと対戦し、96ー93で競り勝った。EASLが始まってから3シーズン連続で参戦している琉球にとって、海外で行われるアウェー戦で勝利するのは初めて。
通算成績は2勝0敗となり、グループBの暫定首位。次戦は12月4日にホームの沖縄アリーナで釜山KCCイージス(韓国KBL)と対戦する。
EASLは外国籍選手が2人までしかベンチ入りできず、松脇圭志も体調不良で不在だったため、9人のロスターで挑んだ琉球。身長230cm、体重140kgの巨漢サムエル・デグアラやフィジカルの強いウィリアム・アルティーノ、スキルの高いPGダミアン・チャンクィを擁し、さらに素早いトランジションも武器とするブラックベアーズと付かず離れずのシーソーゲームを演じた。
ジャック・クーリーとアレックス・カークがゴール下で体を張り、ガード、フォワード陣も絶え間なくハンドラーにプレッシャーをかけ続けた。すると72ー73の1点ビハインドで迎えた第4Q、序盤にスティールなどから脇真大とカークが立て続けに速攻でイージースコアを挙げ、モメンタムを掴む。さらにこの勝負どころで岸本隆一が左45度から3Pをねじ込み、リードを最大10点まで広げた。
その後はじわじわと追い上げられたが、ディフェンスとリバウンドで我慢を続け、最後は同点を狙った相手の3Pがリングに弾かれて琉球に軍配が上がった。リバウンド数は42本対55本で下回ったが、激しいコンタクトを貫いてデグアラを第3Q途中にファウル4つに追い込んだ。アシスト数は相手を13本も上回る29本に達し、チーム力で勝った。
価値ある1勝を掴んだブラックベアーズ戦で、久しぶりに「らしさ」を発揮した選手がいた。PG/SGの荒川颯である。午後8時10分(現地時間)のティップオフと夜遅くに組まれた試合後、インタビューに応じてくれた。
持ち味の「激しいDF」と「コーナー3P」で存在感
荒川は第1Qの中盤からコートに立つと、チャンクィらに激しいプレッシャーを掛け、ストレスを与える。これを13分29秒の出場時間の中でひたすら継続した。狙いも明確だった。
「前半はファウルを使ってでもプレッシャーをかけていましたが、後半はチームファウルがかさんでいる中で、ギャンブルではなく、嫌なシュートを打たせようと思っていました。それができればこっちに必ず流れが来ると思っていたので、とにかく相手の前に立って、嫌やシュートを打たせることを意識していました」
第2Qはオフェンスで見せた。
このクオーターの開始4分過ぎから再びコートに立つと、素早いトランジションでファストブレイクの先頭を走り、岸本から受けた矢のような縦パスを受けてレイアップを沈める。さらに2本のコーナー3Pを決め切り、一時逆転に成功するなど存在感を示した。
「前半は少しハンドラーをしてターンオーバーをしてしまった場面もあったのですが、2番ポジション(SG)でプレーさせていただいているので、シュートはとにかく自信を持って打つようにしています。思い切り良くやることで自分の良さが出ると思うので、そこは意識しています。迷わないということですね」
3Pは3本中2本を成功させて8得点、1アシスト。ディフェンス面の貢献も大きかったため、3点差の決着という大接戦の中で、その選手が出場している時間帯の得失点差を示す「+/−」は「+1」だった。
マインドセットに変化「役割を増やそう、じゃなく…」
このハードなディフェンスとコーナー3Pは、練習生から契約を勝ち取った昨シーズン、荒川がプレータイムを増やした最大の要因だった。
しかし今シーズン、琉球がこれまでに行ったBリーグの9試合で、荒川はなかなか輝きを放つことができていない。新加入PGの伊藤達哉が負傷離脱してハンドラーを任されることも増えたが、安定感に欠ける。3P成功率は13.0%に低迷しており、調子が上がってこない。
ナチュラルボジションはSGであり、ボール運びなどPGの役割は適応が難しい部分もあるはず。荒川自身も「今シーズンに入ってから自分の役割がチームの中で変わっていく中で、自分の中でも消化できていないところがすごいあって…」と本音を漏らす。
だからこそ、ブラックベアーズ戦のパフォーマンスは、より「らしさ」が際立って見えた。背景には、もがく中で辿り着いたマインドセットの変化があったという。
「昨シーズンの結果は『ディフェンスで前から当たる』『コーナー3Pを打つ』という役割に絞ったからこそ出せたものだと思います。それプラスアルファで、今度はどれだけ役割を増やしていけるかというマインドで(今シーズンに)挑んでいたのですが、なんか『そうじゃないな』って思い始めたんです」
理由はこうだ。
「『役割を増やそう』と考えている時点で良いプレーができていない。ゲームの挑み方というんですかね。役割は増やそうとするものではなく、勝手に増えていくものだから、まずは自分ができることをやり続ける。そのマインドセットが今は一番しっくりきています。それが、自分を取り戻すために必要なやり方かなと思っています」
確かに、昨シーズンの荒川はそのようなマインドセットだったはずだ。学生の頃からオフェンス力で鳴らした選手だったが、琉球でディフェンス面を評価され、ハッスルするプレーが定着。チームから求められたコーナー3Pも練習の中で少しずつ成功率を上げ、今度は牧隼利の負傷などでハンドラーを担うチャンスも巡ってきた。
自分にできることからやり続けるー。原点に立ち返り、雑念を消したことが、マカオの地でのハイパフォーマンスにつながったのかもしれない。
拓殖大時代の同級生「平良彰吾」の活躍が刺激に
マインドセットが変化するきっかけの一つに、ある選手の存在がある。拓殖大学時代のチームメートで、同級生である平良彰吾だ。
10月中旬に荒川の古巣でもあるB3横浜エクセレンスから期限付き移籍で加入し、安定したハンドリングと安定感のある3P、激しいディフェンスで存在感を発揮。合流から数試合で岸本に次ぐ2番手PGに定着し、見事に伊藤の穴を埋める活躍を見せている。
平良が加わってから、荒川は再びSGがメインになった。それを念頭に「(平良の加入が復調の)きっかけになっているとは思います。今までも一緒にプレーしたことがある選手でもありますし、これからもっともっと自分の良さを出していくために、そういうきっかけをつかみながら、考え過ぎずにプレーしていきたいです」と意気込む。
一方で、「さっき言った(できることをやり続けるという)マインドセットの話と少し矛盾してる部分もありますが…」と前置きした上で、こうも言った。
「(伊藤)達哉さんが怪我してからもらっていた(ハンドラーの)チャンスは、彰吾が来てから自分がやることが減ってきてはいます。彼に1番ポジション(PG)を任せっきりになっているというか…。同じチームではありますけど、そこは取り返すつもりでやっていかなきゃいけない。そういった意味でも、すごい刺激になっています」
学生時代から近しい存在だったからこそ、より強く意識する部分もあるのだろう。もちろん同じチームの一員として共に勝利を目指すが、それぞれ一人のプロ選手であり、限られたプレータイムを獲得する上ではライバルでもある。健全な競争環境の下、荒川のさらなる成長に期待したい。
(長嶺 真輝)