千葉ジェッツが駆け抜けた「マジックシーズン」 ファイナル敗退も色褪せない“史上最強”
千葉ジェッツの富樫勇樹(右)と原修太
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019年ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 “マジックシーズン”を送った2022-23の千葉ジェッツだったが、最後に王座に腰を下ろすことはできなかった。

 Bリーグ1部のレギュラーシーズンでは53勝7敗でBリーグ史上最高の勝率(8割8分3厘)を挙げて地区優勝を果たし、天皇杯も制した千葉。3冠を狙って臨んだチャンピオンシップファイナルではしかし、琉球ゴールデンキングスに0勝2敗で敗れ、リーグ史上初の偉業はならなかった。

(写真=B.LEAGUE)

ファイナル第2戦後、琉球ゴールデンキングスの今村佳太(左)と抱き合う富樫

53勝7敗 史上最高勝率も琉球に敗れ3冠ならず

 富樫勇樹に次ぐ得点源で3Pが怖い原修太やクリストファー・スミスといった選手の力を削ぐといった琉球の戦術が見事にはまった。富樫は平均27.5得点と活躍した一方で、相手のディナイ――琉球の桶谷大ヘッドコーチに言わせれば「富樫くんを“いじめる”ゲームプラン」――によって削られた。また千葉Jは、初戦で劣勢から追い上げて2度の延長に持ちこみはしたものの、琉球のほうがより多くの選手を起用しながら戦ったことで、2戦目において前者のほうにより疲労が影響したようにも見えた。いずれにしても、千葉Jという牙城がこれほどまでに瓦解してしまうとはほとんど誰も想像ができなかったのではないか。

 千葉のジョン・パトリックHCはファイナル終了後、琉球がフィジカルで圧倒することやオープンからの3Pを打たせてもらえなかったことを敗因として挙げながら「結局、それが効いていましたし、うちは簡単な得点が少なかった」と振り返った。

 ファイナル閉幕直後。コートからバックステージに戻ってきた千葉Jの面々の多くが落胆の表情を浮かべる中、富樫は頭を垂れた様子を見せなかった。それは何も強がってそうしていたというわけではなさそうだった。

 「なんか、複雑な心境ですね。前回、ファイナルで東京に負けたシーズン(千葉は2017-18から2年連続でアルバルク東京に敗退)の悔しさとはまたちょっと違う気持ちはあります。それは歳なのかどうかわからないですけど。もちろん悔しい気持ちはありますけどね。なんかやりきったっていうか、本当に琉球のディフェンスや準備に対してシンプルにやられたなという印象なので。かといって、自分たちがやってきたことが間違っていたと思うとか、そういうのはないです」

記者の質問に答える富樫

ジョン・パトリックHCが築いた守備と速攻

 千葉にとっては最後のファイナルで残酷な結果が待ち受けていたとはいえ、2022-23シーズンを通して彼らが最強だったという事実は動かない。指揮官が大野篤史氏(現三遠ネオフェニックスHC)からパトリック氏へと代わり、システムを含めた多くの部分で変化があり、序盤の戦いぶりにはぎこちなさがあったものの、試合をこなしていく中で徐々に調子を上げていった。

 パトリックHCは常々、まずはディフェンスが重要であると説き、守備から速い展開のオフェンスにつなげ、より効率良く得点することで相手を凌駕してきた。とりわけ原修太と新外国籍のヴィック・ローは複数のポジションで守れるリーグきっての選手ということで、ディフェンス面のカードとして相手のエース級選手を封じてきた。こうしたパズルのピースが噛み合っていった千葉Jは、3月の天皇杯決勝では琉球を相手に完勝に近い内容で制し、直後にはリーグ新記録となる24連勝を達成した。

 千葉Jは、平均得点(87.9)、3Pによる得点(36.1)で1位。もう少し詳細なところでは、オフェンシブレーティング(100ポゼッションあたりの平均得点、121.5点で1位)、ディフェンシブレーティング(103.3点で3位)、ネットレーティング(100ポゼッションでの平均得失点差。18.1は群を抜いての1位)といった数字を残し、攻守においてリーグのトップを走り続けたことが明白だった。

 千葉Jは2018-19シーズンに52勝8敗をマークし、今シーズンは自らの最高勝率記録を塗り替えた形となった。2021年の筆者とのインタビューで富樫はその戦績は「もう誰も破れないんじゃないかというくらい」のものだとしたが、新体制にも関わらずそれを今シーズン、上回ったことには当人にとっても驚きだった。

チームを53勝に導いたジョン・パトリックHC(中央)

富樫勇樹「危機感と自信を持ちながらやっていた」

 チャンピオンシップ(CS)に入って、クォーターファイナルの初戦で千葉Jは広島ドラゴンフライズに敗れるという波乱があったが、それでも、その敗戦がむしろ彼らの兜の緒を締めたところはあった。実際、その翌日から広島を連勝で下し、翌週のセミファイナルでもアルバルクを粉砕してファイナルへの切符を手にしている。

 そのセミファイナル終戦直後の会見で、富樫はファイナルでは「普通にやれば勝てる」と述べて一部のファンらからはそれを奢った発言だと捉えられた。それに対して富樫はとりたてて弁解めいたところもなく「自分たちの実力をしっかり出せたら勝てる自信があるという意味です」とし、今回で4度目となったファイナルの舞台で「いつも通りプレーすることが簡単じゃないということ」を肌身で知っているからこそそういった言葉が出たと述べた。

 ファイナル後も富樫は「危機感と自信を持ちながらやっていた」と口にした。昨年までの5度のファイナル(2019-20はコロナ禍によりCSは開催されなかった)において、シーズンの最高勝率チームが勝利した例は1度もなく、今回、千葉Jが敗れたことでそのジンクスは続くこととなった。

 「ここまで苦しめられた試合がシーズンではなかったというのが正直なところ」。富樫はファイナルでの自分たちの戦いぶりをそう振り返った。あまりに強すぎて劣勢の展開で戦う試合が少なくなってしまったことでリズムをつかめなかったとしたら、ある意味で皮肉な話だ。

 ファイナル終了後、原は同じ29歳の富樫が淡々と取材に対応するのとは違って、自身がとりわけオフェンス面で普段ほどの活躍ができなかったこともあってか、まだ敗戦のショックを隠しきれない様子だった。だが、誰もが最高勝率の千葉Jが有利、対して失うもののない琉球という構図でのファイナルで戦いづらさはなかったかと問われると、気丈にこう返した。

 「いや、ぶっちゃけそういったジンクスなどは僕たちじゃなくて周りが言っているだけで、僕らはフラットな状態で見ていました。琉球さんとは天皇杯を除いて(シーズンでは)1勝1敗でしたし負けて終わっていたので、別に周りの声がどうなのかは知らなかったですけど、そこまで気にはしていませんでした」

エースキラーとして活躍した原(右)

3季連続準優勝チームが翌年V 悔しさを来季の原動力に

 パトリックHCや富樫、そして他の千葉Jの面々は、優勝には届かなかったものの長いシーズンで成し遂げてきたことについて「誇りに思うしやってきたことは色褪せない」と口を揃えた。最高勝率という事実の反面、シーズン中はけが人が続出しており、しかしその度に誰かが頭角を現しながら補うなど、順風ばかりが吹いていたわけではなかった。

 「シーズンで53勝というのは本当に“マジックシーズン”だったと思います」

 パトリックHCはそう言い、選手とスタッフたちを労った。

 2020-21の千葉J、昨年の宇都宮ブレックス、そして今回と、前年のファイナルで破れたチームが翌年に優勝するという例はこれで3年連続となった。

 琉球が昨年のファイナル敗退の悔しさを今年に生かしたように、千葉Jは来シーズン、強さだけでなくさらなる強かさを備えて戦うことができるか。そこに注視したい。

(永塚 和志)

来季の雪辱に期待だ

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