
昨シーズンのB2で頂点に立ったアルティーリ千葉が、待望のB1初挑戦に向けて着々と準備を進めている。
9月23、24の両日には、沖縄サントリーアリーナで行われた「ISLAND GAMES 2025」に参戦し、琉球ゴールデンキングスと対戦した。結果は初戦から順に70-99、84-96で2連敗。ただ、2シーズン連続でB2のMVPに輝いたブランドン・アシュリーをコンディション不良で欠く中でも、チームは持ち前の高い統率力でスピーディーな展開や激しいディフェンスを貫いた。
これで全てのプレシーズンゲームを終え、10月4、5の両日にホームの千葉ポートアリーナで行われる長崎ヴェルカとの開幕2連戦に挑む。Bリーグ最高峰の舞台に立つ瞬間が刻々と迫る中、このタイミングで強豪の一角と対戦できた意義は極めて大きいはずだ。
B2では“無双状態”が続いていたA千葉が、B1でどこまで勝ち星を積み上げられるのかーー。4シーズン連続でファイナルに進出している琉球のホームに乗り込んだ2連戦の戦いぶりからは、2025-26シーズンの“台風の目”になる可能性がうかがえた。
「B1のフィジカル」を肌で体感した価値
試合中のハドルの多さ、献身的な動きを見せる身体能力の高い外国籍選手、高い位置から仕掛ける激しいディフェンス、素早いトランジション…。多くの主力が継続した今シーズンもA千葉の特徴は変わらない。
琉球戦では相手の激しいプレッシャーもあり、2試合を合わせてターンオーバーが39回に上ったが、トレイ・ポーターやデレク・パードン、黒川虎徹、杉本慶らを中心に随所で持ち味を発揮した。特に2戦目では、琉球の最大の武器であるリバウンドの本数で38本対44本(1戦目は29本対45本)と僅差に持ち込んだ。第3Q終盤に最大19点差を付けられながら、第4Qに一桁点差まで詰め、最後まで諦めない姿勢も印象的だった。
アシュリーに加え、オールラウンダーの前田怜緒が初戦で7分21秒のみ出場し、その後はコンディション調整で欠場したことも考えれば、十分に善戦したと言えるだろう。
特に、昨シーズンのB1で平均リバウンド数がリーグトップだった琉球を相手に“B1のフィジカル”を体感できた価値は高い。アンドレ・レマニスHCは初戦の後、「リーグのトップ4を走り続けている琉球と対戦することで、自分たちの実力がどのくらいなのかを知れる非常に大事な機会になりました」と総括した上で、試合のフィジカルレベルについても触れた。
「B1のフィジカルは実際に対戦しないと分からないことが多いと思っていました。今日の試合では琉球に多くのオフェンスリバウンドを取られ、そのプロセスも含めて、なぜそうなるのかを肌で感じることができました。少しでも、選手がプレーする上でのプラスになるようなことをコーチ陣として考えていければと思っています」
終盤に追い上げを見せた2戦目の後には、チームの戦う姿勢に対してポジティブな言葉を口にした。「厳しい状況に直面した時に、それに対してみんなで食らい付いて行くガッツが見えました。それは、会場まで応援に来てくれたファンの皆さんが誇りを持てるような姿勢だったと思います」。
ヘッドコーチの言葉にあったように、この2連戦は総じて、開幕に向けたいいテストになったはずだ。

新加入「エヴァンス・ルーク」のフィット感に手応え
新たに加入した帰化選手のエヴァンス・ルークの存在感も目立った。
2試合目はチームトップタイの23得点に加え、6リバウンドも記録。素早いトランジションで前を走ったり、相手のピックに対してガード陣とコミュニケーションを取りながら守ったり、豊富な経験を生かしてチームのシステムに適応してきていることが見て取れた。アシュリーが不在の中で「3ビッグ」のオプションこそ見られなかったが、早速チームに安定感をもたらしていた。
指揮官も手応えを感じているようだった。以下は初戦後のコメントだ。
「エヴァンスに関しては、良いところがたくさんありました。多くの選手を継続した中で、彼が入団してから、大量にインプットをしないといけない状況でした。1週間前と比べても、チームの理解が非常に進んでいると感じられる部分が多かったので、そこは良かったと思っています」
帰化枠やアジア特別枠の選手が年々充実しているB1においては、エヴァンスのフィット感の向上は欠かせない要素となる。開幕に向け、さらに連係を磨きたい。

“逸材”渡邉伶音の成長も鍵に
チームの上積み要素で言えば、206cm、100kgの体格を誇る渡邉伶音も注目だ。まだ19歳ながら、今夏のFIBAアジアカップ2025で日本代表候補に入った逸材である。昨シーズンも特別指定選手として所属したが、東海大学を退学して契約した今季は、本格的なプロキャリアの1歩目となる。
琉球戦の初戦のスタッツは10分18秒の出場で2得点1リバウンド、2戦目は12分38秒で5得点2リバウンド。決して高い数字ではないが、積極的にゴールへアタックしたり、外国籍選手を相手に体を張ってディフェンスしたりする場面もあった。
ヴィック・ローやケヴェ・アルマといったリーグ屈指の選手とも体をぶつけ合い、2戦目の後の会見ではフィジカルコンタクトに対する課題と収穫を語った。
「フィジカルはB2に比べて強度が高いと思いますし、特に琉球はフィジカルなチームなので、苦戦した部分はあります。ただ3番ポジション(スモールフォワード)でプレーするに当たっては、自分は身長があるので、バックカットとかでゴール下まで行ければシュートを決め切れます。リバウンドに絡み続けることで、相手にプレッシャーをかけることはできると思っています」
A千葉については、「チームで戦う」というコンセプトに惹かれて入団を決めたという。自身のリーダーシップを伸ばす上でも、適したチームだと感じているようだ。
「試合だけじゃなくて、練習中からも選手だけで何回もミーティングをやります。チームで勝利を目指すワンチームの精神は本当に素晴らしいと思っています。今はまだ、自分がハドルを作るとかはあまりないですけど、慣れていった時には、自分からも呼び掛けられるようになりたいです」
コメント内にもあったように、学生時代はパワーフォワードやセンターがメインだったが、プロではスモールフォワードでのプレーを見込む。もともと3ポイントシュートも打てるほどシュートレンジは広い。まだ状況判断やスペーシングを良好に保つための動きなどで課題は見られるが、徐々にチームに馴染んでいけば、戦術の幅を広げる存在になり得る。
一方で、レマニスHCは「非常にポテンシャルのある選手ですが、4〜5番から3番ポジションに変わることで攻守の動きが変わってくるので、これから時間をかけて努力と練習をしていく必要があると思っています」と長い目で見守る。昨シーズンに大きく飛躍した黒川を引き合いに出し、「黒川が努力をし続けて切り開いていったのと同じように、渡邉もチームメイトみんなでサポートし、成長が見られるようになってほしいです」と期待した。

4年をかけて掴んだ夢舞台「ファンとエンジョイしたい」
Bリーグ参入から5シーズン目にして、ついにB1のステージに立つA千葉。昨シーズンのB2ではチーム平均の得点、アシスト、リバウンド、3ポイントシュート成功率などがリーグトップで、琉球の岸本隆一も「一人にボールが偏らず、みんなでボールを触りながら点数を取ってくる。特にオフェンスのところは、すごく自信を持って戦ってきたんだろうな、ということが伝わってきました」と印象を語っていた。
もちろん、2シーズン連続で勝率が9割を超えたB2の頃のような勝利の連鎖をB1でも続けることは難しいだろう。チームをけん引する外国籍選手の支配力が相対的に落ちることが予想されるほか、日本人選手の顔ぶれがどこまでB1で通用するのか未知数な部分もある。
ただ、高い統率力を保って強みを維持し、新戦力と共に、さらに磨き上げることができれば、B1に旋風を巻き起こすだけのポテンシャルは有しているのではないか。
開幕から続く長崎ヴェルカ、越谷アルファーズの2カードは、いずれもB2のプレーオフで昇格を阻まれた因縁の相手となる。ただ、チームの創設以来、指揮を執ってきたレマニスHCに気負いはない。
「いつも通り、一つひとつやらないといけないことがあります。アシュリーと前田がしっかりプレーできていないので、まずは全員のコンディションを整えることが一つ。毎日、質の高い練習をこなしていくことが一つ。(開幕まで)あと10日くらいあるので、スカウティングをしっかりして、少しでもいい形で入れるように準備をしていければと思います」
柔らかい笑みを浮かべ、さらに言葉をつないだ。
「自分自身を含め、クラブに関わる人たち全員がB1の舞台を夢見て、ようやく4年をかけて辿り着きました。ファンの皆さんも楽しみにしてくれていたと思います。全員でエンジョイしながら、一つひとつの試合を戦っていきたいです」
来シーズンからは「Bプレミア」に移行し、現行のBリーグとしては最後のシーズンとなる2025-26シーズン。A千葉にとって「最初で最後のB1挑戦」が、まもなく始まる。

(長嶺真輝)






