
まるでドラマや漫画を見ているようだ。
浜松アリーナで行われているBリーグチャンピオンシップ・セミファイナル(CS・SF)の三遠ネオフェニックス対琉球ゴールデンキングス。
5月17日にあった第1戦は第3Q終盤で三遠が最大13点までリードを広げたが、琉球がインサイドを強調して第4Qに猛追。最後はデイビッド・ヌワバと吉井裕鷹が勝負強い3ポイントシュートを決め切り、ホームの大声援を背にした三遠が87ー85で逃げ切った。
迎えた翌18日の第2戦。三遠は勝てば初のファイナル進出を決め、琉球は負ければシーズンが終わる大一番。前日の熱戦の余韻を残したアリーナの空気が、さらにヒートアップした。
第4Q終盤には琉球の松脇圭志、一度目のオーバータイムでは三遠の吉井とデイビッド・ダジンスキーがそれぞれクラッチシュートを沈め、45分間では勝負が付かず。ダブルオーバータイムの末に100ー98で琉球に軍配が上がり、死闘の幕が下りた。
これでシリーズ成績は1勝1敗のタイに。ファイナル行きの切符をかけた第3戦は5月19日午後7時5分から、浜松アリーナで行われる。
“奇跡”を手繰り寄せた松脇の習慣とは…
“奇跡”としか言いようがないプレーだった。
第2戦の第4Q残り5.3秒、スコアは77ー79。ビハインドを背負う琉球は自陣エンドラインから一気に前線へボールを投げ、ヴィック・ローが左45度からディープスリーを放つが、リング手前に大きく弾かれた。
勝利を確信したように、にわかに沸き立つ三遠ベンチと客席を真っ赤に染めたホームのファン。しかし、歓喜の予兆は一瞬にしてため息に変わる。
フリースローラインからややペイントエリアに入った位置でジャンプ一番、落ちてきたボールを右手のみでつかんだのは松脇だ。着地を待たずにそのままシュートを放つと、低い弾道のボールがバックボードに当たり、ゴールにするっと吸い込まれた。
珍しく感情を爆発させる松脇の後ろで、豪快に両手を突き上げるジャック・クーリーとアレックス・カーク。琉球ベンチと、その裏に陣取ったゴールド&ホワイトのファンは立ち上がって狂喜乱舞の状態に。審判が映像を確認し、スコアを認めるジェスチャーをすると、またも琉球ファンが埋める客席から大歓声が上がった。
シュートを「打った」というより、ボールを「投げた」に近かった。が、松脇の右手の感触には手応えがあったようだ。
「自分のところに落ちてきて、投げた時には『入ったかも』と思いました。実際に入った時にはよく分かっていなかったので、リアクションは取れなかったんですけど、本当に入って良かったです」
狙って決められるようなシュートではない。もちろん運の要素も大きいだろう。ただ、完全に偶然かというと、そうでもない。桶谷大HCは、松脇が前述のポジションにいた事を評価する。
「最近、松脇はオフェンスリバウンドにかなり絡んでくれています。奇跡的にあれを決められたのも、彼があそこに行ったからです。(シュートが入ったことは)本当に彼の努力の結果だと思っています」
実際、松脇もオフェンスリバウンドに対しては高い意識を持っているという。
「怒られるくらい、『みんなタグアップ(ディフェンスに戻ることも意識したオフェンスリバウンド)に行け』というのは佐々さんにも桶さんにも言われていて、CSではすごい大事になると思っています。いつもジャックやアレックスがリバウンドを取ってくれますが、そこは重点的に止められると思うので、日本人選手がオフェンスリバウドに絡むことができればいい流れが来る。オフェンスリバウンドに行く意識は、僕も含めてみんな高まっています」

3P成功を7本、守備でローにマッチアップも 吉井
勢いそのままに、オーバータイムでは琉球が前に出た。残り23.3秒で86ー82。最大の強みであるリバウンドを制して逃げ切るかに思われたが、今度は三遠が魅せる。
スリーポイントラインの外側、中央左寄りの位置でボールをもらった吉井が迷わずキャッチ&シュートへ。自分のフォームで打ち切り、チェックに来たカークにファウルが吹かれる。きれいな弧を描いたボールはスウィッシュでゴールを射抜き、歓声が爆発した。
吉井がフリースローを外し、その後は再び3点差に。それでも、今度はダジンスキーが残り1.1秒で3ポイントシュートを決め、88ー88の同点でダブルオーバータイムに突入した。
最後はカークとクーリーがゴール下を支配し、琉球が接戦を制したが、吉井はこの最終盤でも長距離砲1本を決めた。試合を通してはキャリアハイとなる3ポイントシュート7本の成功を含む23得点。シューターとしての能力が完全に覚醒し、大事な場面でことごとく決め続けた。
前日も4本中3本の3ポイントシュートを決め、これまでのCS4試合での3ポイントシュート成功率は脅威の55.6%(27本中15本成功)。大舞台で“右手”の好感触を維持することは容易ではないが、どのような心持ちでプレーしているのか。第1戦の後、良いシュートを打つための意識の在り方を口にしていた。
「僕はシューターアクションで決め切るというよりかは、回ってきてパスからシュートを打つだけです。それが案外大事だったりします。それが入ればうれしいし、入らなくてもいい流れで打てればチームとして問題ないという考え方をしています。今回はいい場面でシュートを決め切れたことはうれしいですが、ちゃんと打ち切れたことを褒めたいです」
琉球が3ビッグのラインナップを強みとする中、吉井は脇真大のほか、エースのヴィック・ローにマッチアップする時間帯も多かった。一対一でスティールする場面もあり、攻守における万能性が際立った。
大野篤史HCも頼もしさを感じたようだ。
「本当に素晴らしいパフォーマンスだったと思います。ヌワバのプレータイムが長くなってきた中でディフェンスの負担をちょっと減らしたくて、『マッチアップを変えなさい』ということは伝えていました。彼がしっかりその役を果たしてくれたと思います。オフェンス、ディフェンスの両面で貢献してくれました」

怪我人続出、溜まる疲労…新たな“ヒーロー”は出てくるか
両軍とも死力を尽くし、2戦とも2点差での決着となったこのカード。激しい体のぶつかり合いが続き、怪我人も相次いでいる。
三遠は第1戦途中にヤンテ・メイテンが負傷し、2戦目は少し右足を引きずりながらのプレーとなった。さらに第2戦では佐々木隆成も試合開始早々に足を痛めてコートを後にし、その後はプレーすることがなかった。
琉球も第1戦で足を痛めたケヴェ・アルマが第2戦を欠場。レギュラーシーズン最終盤からは岸本隆一も戦線を離脱している。
連戦で主力を中心に疲労が溜まり、お互いにローテーションも難しい状況だ。第3戦は双方とも総力戦となることが予想される中、主力以外の「Xファクター」が出てくるかどうかが勝敗を分ける大きなポイントになるかもしれない。
第2戦後、琉球の桶谷HCが「今日使っていないメンバーでヒーローが出るかというところが、明日の試合の重要なポイントだと思います」と言えば、三遠の大浦颯太も「山内(盛久)選手や(湧川)颯斗もいるので、もし隆成が出られなかった時に彼らがキーになってくると思います」と展望した。
“Win or GO Home”(勝てば次に進み、負ければ終了)となる運命の第3戦は、日を空けずに19日に行われる。まだ死闘続きの余韻は残るが、ファイナル進出をかけた大一番は待ったなしだ。

(長嶺真輝)