
B1西地区の琉球ゴールデンキングスに頼もしい若手が帰ってきた。
今シーズン3戦目のアルバルク東京戦で右第3中手骨骨折の怪我を負い、戦線離脱していた脇真大だ。11月12日の大阪エヴェッサ戦で1カ月ぶりに復帰した。
昨シーズン新人賞を獲得したリーグ屈指のスラッシャーとしてチームに勢いをもたらし、チームは11月15、16の両日にあった京都ハンナリーズ戦も含めて3連勝を達成。通算成績を12勝6敗とし、西地区4位につける。
ホームで開幕2連敗を喫してスタートダッシュに失敗し、その後も怪我人が相次いだり、ケヴェ・アルマが突然退団したりするなど試練続きとなっている琉球。それでも本来の我慢強い戦いぶりを少しずつ取り戻し、11月は7勝1敗と一気に勝ち星を増やした。
脇のカムバックが上昇気流をさらに加速させていることは間違いない。
「強くなって帰ってくる」コート外で刺激も
16日の京都戦、第1クォーターの残り4分6秒でコートに入った脇。早速“らしい”プレーでチームをけん引した。
バックコートからボールを運び、アレックス・カークとパス交換してゴール下まで進入。相手ディフェンスを引き付けてカークにボールを戻し、イージースコアを演出した。このクオーターの最終ポゼッションでは中央を力強いドライブで切り裂き、フリースロー2本を獲得した。
「いろんな人にサポートされて、本当に感謝しています。こうやってまた元気な姿で、ファンの皆さんにプレーを見せられたのは本当に良かったです」
ホーム復帰戦となった前日15日の試合後会見、脇は開口一番で感謝の思いを口にした。戦列を離れた期間は決して短くない。だからこそ、沖縄サントリーアリーナのコートに戻ってくることができた喜びはひとしおだっただろう。
怪我を負ったその日、すぐに病院でレントゲンを撮って骨折が判明した。「その時はとても悔しかったです」と振り返るが、落ち込んでいても仕方がない。「強くなって帰ってくると決めていました」と前を向いた。
もがき続けるチームの戦いぶりをコートから一歩離れた位置で眺めた時間も、脇にとってはモチベーションを高める上で意味のあるものとなった。
「みんなが本当にアグレッシブに戦っていて、外から見ていてすごく刺激をもらいました。自分が戻った時に、あの流れにしっかり乗れるように、とずっと考えていました」
利き手の骨折はプレーへの影響が尾を引くことが懸念されたが、ドリブルやシュートの感覚は「もう何をやっても痛くないので、万全の状態」と言う。ただ、パスやハンドリングでの簡単なミスも見られ、試合勘はまだ完全に戻ってはいない。当然、それは本人が一番分かっている。
その上で、試合をコントロールするPGの一人として強い自覚を語る。
「試合勘は取り戻すのに時間がかかっていますけど、それでターンオーバーをするのは違う。そこから流れを持っていかれるので、集中してやらないといけません。今日もガードとしてやってはいけないミスがありました。ターンオーバーで終わるくらいだったら、しっかりシュートを狙いに行きたいと思います」
言い訳はしない。この姿勢こそ、復帰後すぐに存在感を発揮できる要因の一つだろう。

セカンドユニットの“ギア”を上げる役割
復帰3戦目となった16日の試合は20分42秒出場し、8得点4アシスト3リバウンド。決して派手な数字ではない。ただ、脇がPGを務めるセカンドユニットの時間帯はオフェンスのテンポが明らかに変わる。
「(崎濱)秀斗もそうですし、サド(佐土原遼)も走れる。僕もボールプッシュできるので、スタートの5人とは違うテンポの速い展開ができる。そしたら相手も止めにくいと思うので、そこは意識してやっていきたいです」
この感覚は佐土原も強く共有している。
「脇はトランジションで点を取りたい選手の一人。脇が帰ってきたことでテンポが上がったと感じています。自分も速い展開の中で点を取るのが好きなので、脇と一緒に出る時間はギアを上げてくれるので本当にやりやすいです。スローな感じではなく、スピーディーな展開の新たなキングスのバスケットボールを作れたらいいなと思います」
チームの大黒柱であり、これまでの全18試合で先発PGを務める岸本隆一が言及した脇の存在価値も興味深い。「彼がいると、ボール運びにしてもディフェンスにしても安定感がぐっと上がります。僕自身、ボールハンドラーとして機能しながらも、自分のところでボールがずっと収まっている状態は僕も望んでいません。脇がいることで起点を増やせるし、一緒に出ている時は、言葉を選ばずに言うと『楽できる』という印象です」。脇がPGとしてボールを運び、岸本がSGに回る時間帯もあり、戦い方のバリエーションの幅を広げている。
琉球の日本人選手はリーグ全体の中でも小柄だが、脇と佐土原は190cm以上の高さがある。脇が「僕とサドはディフェンスでしっかり守れる。セカンドユニットの時間帯は、そこをまず安定させたいです」と言う通り、脇の復帰はディフェンスの安定感を増す上でも価値が大きい。
京都戦ではジャック・クーリーやアレックス・カークがショーディフェンスに出ることも多く、ローテーションやスイッチがたびたび発生した。それを念頭に、桶谷大HCも「フィジカルが強い佐土原や脇が下でスイッチアウトできるので、ディフェンスの強度が上がったと思います」と語り、心強く感じているようだった。

伊藤達哉の所属する広島戦へ「絶対に負けたくない」
一方、指揮官はあえて厳しい言葉も口にした。
「このチームが今シーズン苦しんでいるのはターンオーバーだと思います。脇に関してはまだゲームに慣れてくる必要はあると思いますが、簡単にターンオーバーをしてしまう印象もあります。一つひとつのボールに対してもっと責任感を持ってほしい。そういう選手はWinnerになれないと思うので」
Winnerという言葉を使ったのは、期待の裏返しと言える。「彼にはWinnerになれる資質があるからこそ、厳しくやっていきたいです。脇が帰ってきたことでチームが活気づいているし、彼の良さもどんどん出てきてる。その良さをしっかり生かしたいです」。
3週間のバイウィーク(中断期間)を挟み、琉球は西地区5位の広島ドラゴンフライズとアウェーで2連戦を行い、さらに翌週には同地区2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズとホームで水曜ゲームを戦う。広島には昨シーズン共闘し、懇意にしている伊藤達哉が所属していることを念頭に、脇が意気込みを語った。
「広島は達哉さんもいて絶対に負けたくないですし、名古屋Dは乗りに乗ってるので強い気持ちで戦いたいと思います。バイウィークはチーム練習ができるので、そこでまた一つひとつチームとしてステップアップしていきたいと思います」
琉球のオフェンスの幅を広げ、ディフェンスに厚みをもたらす脇。その存在感は、地区上位陣とのカードが続く今後の戦いにおいて、ますます大きくなっていきそうだ。

(長嶺真輝)






