「八村世代」琉球ゴールデンキングスの牧隼利、松脇圭志は”HACHIMURA”の鮮烈レイカーズデビューをどう見たか 
メディア向けの公開練習を行った琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 現在23勝9敗でBリーグ西地区4位につける琉球ゴールデンキングスが1月26日、沖縄アリーナ・サブアリーナでチーム練習をメディア向けに公開した。午後2時ごろから行った約2時間の練習では、トランジションや5対5のメニューを実施。28、29の両日にアウェーの群馬クレインサンダーズ戦が迫っているほか、2月15日には天皇杯準決勝の大一番も控えており、アリーナは実戦モードの選手たちの熱気に包まれていた。前日から全体練習に合流したばかりの渡邉飛勇の姿もあり、ケガからの復帰が近いことをうかがわせた。

 選手たちが汗を流していた時間帯には、電撃トレードでNBAの名門ロサンゼルス・レイカーズに移籍した八村塁が日本人として初めて伝統深い「パープル&ゴールド」のユニホームを着て、本拠地クリプトドットコム・アリーナでプレーしていた。結果は12得点、6リバウンドで勝利に大きく貢献し、鮮烈なレイカーズデビューとなった。琉球の選手たちも「繋がらなくて見られなかったけど(楽天NBAが一時サーバーダウンした件)、練習が始まる前にみんなでNBAを見ようとしていた」(岸本隆一)という。

 キングスの牧隼利と松脇圭志はいわゆる「八村世代」だ。世界のトップリーグに身を置き、日本バスケの新たな歴史を開拓し続ける同級生の活躍をどう見ているのか。いいタイミングだったので、公開練習後の会見で聞いてみた。

渡邉飛勇も汗を流した©Basketball News 2for1

「負けてられない気持ちもある」

 まずは牧。福岡大付大濠高1年だった2013年には、U16日本代表で八村と二大得点源として活躍した。納見悠仁(川崎ブレイブサンダース)や前田悟(同)、平岩玄(アルバルク東京)らも擁したチームはアジアU16選手権で3位に入り、翌年のU17世界選手権への出場権を獲得した。世界選手権では米国に84点差で敗れるなど、世界レベルを肌で感じた世代だ。

 八村のレイカーズデビュー戦の受け止めについて、牧の第一声は「すごいっすね。すごいとしか言いようがない」。笑顔も浮かべながら感嘆した様子を見せたが、一選手としてのプライドも覗かせた。「舞台は違うけど、負けてられない気持ちもある。ただ『すごい』で終わらせずに、頑張りたい。いい刺激をもらってます」

記者の質問に答える牧隼利©Basketball News 2for1

 続いて松脇。エースを務めていた西福岡中3年の時の全国中学生大会決勝で八村を擁する奥田中 (富山県)を破って優勝し、土浦日大高(茨城県)に進学した後も八村のいる明成高(宮城県) と全国の舞台で対戦した。高校最後の3年時のウインターカップでは再び決勝で顔を合わせ、今度は73-78で競り負けた。互いにエースとして活躍し、この大会では納見(明成)、平岩(土浦日大)、盛實海翔(能代工業)と共に2人ともベスト5に選出された。

 学生時代はライバルとして切磋琢磨してきたが、松脇に八村の活躍が刺激になる部分はあるか、と問うと、大きな笑みを見せながら「ないです。次元が違うので」と一蹴。「別の世界の人みたいな感じなので、ほぼ同級生とも思ってない。すごいな、とは思いますけど、刺激があるかって言われたら僕はないですね(笑)」と続け、異次元のレベルまで飛躍した八村の現状に感心しっぱなしだった。

笑顔の松脇圭志©Basketball News 2for1

 八村について聞いた選手がもう1人。トム・ホーバスHC体制下で度々日本代表に招集されている岸本だ。今夏に沖縄アリーナなどで開かれるFIBAワールドカップでは八村と共にジャパンのユニホームを着る可能性もある。

 「レイカーズでプレーするということは、他に例えようがないくらいすごいことだと思います。 これから彼に続く選手が出てくることを考えると、日本のバスケが飛躍しているんだなと感じます。自分たちもステージは違えど人に影響を与えられる仕事ではあると思うので、やれることをしっかりやっていけたらいいと思っています」

群馬戦「岸本対並里」の沖縄県勢ガード対決に注目

 28、29の両日にはアウェーで群馬戦に臨む琉球。昨シーズンまで琉球に所属した並里成がエースガードを務めており、岸本との沖縄県勢対決が注目される。学生時代から長い付き合いの並里とのマッチアップは、岸本も楽しみにしている。

 「成の速攻に持ち込む展開はどうしても抑えたいポイントです。マッチアップする時間は長いと思うので、しっかりケアしたい。ただ、やっぱり一番はお互いがしっかり100%の力を出すことです。2人だけの感じる部分は絶対にあると思うので、そういう空気感を楽しみながら最後はしっかり勝てるようにしたいです」

記者の質問に答える岸本隆一©Basketball News 2for1

 桶谷大HCも「すごい楽しみですね。成はすごく見ていて楽しい選手だし、相手にしても本当に楽しい選手。『これは止められないな』というプレーをしてくると思う。ただ、成を止めるぞというマインドよりは、チームとしてプラスになる戦いをしっかり遂行していきたいと思います」と話し、対戦を心待ちにしていた。

「ポジションレス」の中で見えてきた各々の役割

 昨シーズンまで西地区を5連覇中の琉球だが、今季は現在まで23勝9敗の地区4位。1位島根スサノオマジックや2位広島ドラゴンフライズなど、同地区のライバルたちが力を付けてきたことに加え、前半戦は新加入選手やケガから復帰した選手らのケミストリーがなかなか進まなかった印象だ。しかし、大黒柱のジャック・クーリー不在の状況下でホームで勝ち切ったFE名古屋戦、アウェー2連戦を1勝1敗で乗り切った川崎戦と直近の3戦はチームバスケの完成度が目に見えて上がってきている。「ポジションレス」を掲げてボールをシェアするオフェンスを目指すチームにあって、自然と各々に適した役割も見えてきている印象だ。

指揮官も好感触を語る。

 「序盤戦は新加入の松脇やダンカン、昨シーズン最後にいなかった田代、牧がうまくチームに絡むことができずに、昨シーズンの財産で勝っていたところがありましたが、ここにきて田代、牧が復調して、ダンカンのプレータイムも伸びてきています。やっと自分たちが目指す形がつくれるようになってきました。今シーズンはタイトルを狙うためにも、目の前の試合結果だけに一喜一 憂するんじゃなくて、最後に自分たちの調子が上がっていることが一番重要だと思っています。その意味で、本当にいい状態になりつつあります」

桶谷大HC©Basketball News 2for1

 この日会見に出席した岸本、牧、松脇も異口同音に好感触を示したが、最近オフェンスで存在感を増してきている松脇の話は特に印象的だった。22日の川崎戦で、スリー4本を含むチームトッ プの17得点を挙げたことを念頭に読んでみてほしい。

 「前半戦はまだ自分の役割がよく分からなくて、躊躇する場面もあったんですけど、後半戦に入って役割が明確になってきました。クリエイトできる選手がたくさんいるので、この前(川崎戦)みたいにコーナーにステイしてシュートを打つことはこれからも増えてくると思いますし、シュートも入ってるので、一つの武器にしたいです」

 自身の役割の明確化は、牧や田代がハンドラーとして定着してきた事も関連しているという。松脇が続ける。

 「基本的に僕もハンドラーができないといけないんですけど、牧や田代さんもすごいハンドラーなので、僕はどちらかというと今はシュートを打っています。牧とかには優先して『ハンドラーやって』とかも結構言います。僕を見てパスをくれる人が多いので、僕はコーナーにいて、空いたら打つという感覚です」

「3BIG」は主にディフェンスで活用か

 今後、琉球には日本人ビッグマンの渡邉やアジア枠であるフィリピン代表のカール・タマヨも合流する見通しだ。昨シーズン、帰化選手の小寺ハミルトンゲイリーの存在によりチームにあった「3BIG」の手札が再び手に入るが、桶谷HCは全員で戦う今のスタイルを崩す気はないようだ。

 「3BIGがあったとしても、たぶん僕たちが攻撃の武器として扱うことはないかなと思います。前回負けた川崎戦でもそうでしたが、相手が3BIGの時にマイケル・ヤングジュニア選手のところでアドバンテージを取られてしまったので、ディフェンスで主導権を取られないように使うかなと。ガード陣がしっかりプレーメークして、ディフェンスを高い強度でやり続ける。そこがこのチームの一番重要なベースなので、そこはぶれずにやっていきたいです」

 もがきながらも勝利7割以上をキープし、まだ伸びしろも残している琉球。近年のようにほとんど地区トップを走り続けているわけではないが、一歩一歩理想の形に近付いていく過程、変化は見ていて単純におもしろい。シーズン終盤でどのようなチームになっているのか、想像が膨らむばかりだ。

(長嶺 真輝)

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