「チームとしてはジャックがいないということでピンチだったんですけど、自分にとってはチャンスだった。ずっと準備してきたので、それが勝利につながってうれしく思います」
1月18日夜、沖縄アリーナのコート中央でマイクを握り、頼もしい言葉を発したのは西地区3位の琉球ゴールデンキングスの8番、植松義也だ。チームは同日、西地区5位のファイティングイーグルス名古屋と対戦し、76-64で勝利。得点、リバウンドでチーム最多のスタッツを残すジャック・クーリーが昨年12月31日のアルバルク東京戦後に審判の判定に対してSNSで不満を示したとしてリーグから1試合の出場停止処分を受けて欠場する中、植松が19分48秒の出場で5リバウンド、2ブロック、1スティールと主にインサイドで躍動し、チームの「ピンチ」を救った。
今季途中の昨年11月に練習生から契約を勝ち取り、これまでほとんど出場機会のなかった若手が必死に「チャンス」をものにしようとする姿は、アリーナに詰め掛けた6,504人のファンの心を震わせた。
2ブロック、5リバウンド、1スティールと存在感
クーリーが不在の琉球に対し、FE名古屋も平均16.5点とチームのスコアリーダーであるアンドリュー・ランダルがコンディション不良でベンチ入りせず、両チームとも大黒柱を欠く中での対決となった一戦。ただ、ビッグマンがアレン・ダーラムとジョシュ・ダンカンという外国籍選手2人のみの琉球に対し、FE名古屋は日本代表でも活躍する帰化選手のエヴァンス・ルークを擁し、「3 ビッグ」のカードを持っていたため、インサイドでは琉球の不利が予想された。
そんな中、第1Q途中からコートに立った植松が存在感を発揮する。190cmとPFとしては小柄ながら、容易にバックダンクができる程の高い身体能力を生かし、ローポストで相手ビッグマンに体をぶつけられても押し負けない。相手のシュートに対しては必ずと言っていいほど全力でジャ ンプして目一杯手を伸ばし、プレッシャーを掛けて度々シュートミスを誘った。
すると第2Qの残り約4分、この試合最大のハイライトが訪れる。FE名古屋のエヴァンスがペイ ントエリアに走り込んでボールをもらい、右手で放ったループシュートに対し、即座にカバーに入った植松が飛び上がって両手でブロックショットを披露。アリーナがどっと沸いた。自身も「ブースターさんの印象に残るようなプレーができたことは自分の自信にもつながります」とその瞬間を笑顔で振り返った。
後半、何度も追い上げられる場面がありながらも、オールコートの2-2-1や2-3ゾーン、マッチアップゾーンなど様々なディフェンスを駆使しながらクーリー不在という大きな穴を埋めた琉球。ビッグマンが1人のみの「1ビッグ」の時間帯もあったが、植松を筆頭に今村佳太、松脇圭志、牧隼利、小野寺祥太も体を張った。終わってみれば、懸念されたリバウンド数も47対34で相手を圧倒した。
毎朝アリーナに一番乗り 積み重ねてきた準備
琉球と選手契約を結んでからこれまで出場は7試合のみで、ほとんど勝敗が決まった時間帯に1~3分ほどコートに立つくらいの存在だった植松。「昨日か一昨日の時点でもしかしたらジャックが出られないという情報は届いていたので、心の準備はできていました。自分がやってきたことをコートでやるだけという思いでした」と強い気持ちで試合に臨んだ。
自己評価を聞くと、「絶対に外国人選手が自分のマッチアップになると分かっていたので、ハードに体を当てたり、リバウンドを取るという自分の良さをコートの中で表現できました」と力強く言い切った。
これまで出場時間が少ない中でも、同じく琉球の練習生として活動してきた山本楓己と共に地道な努力を重ねてきた。毎朝7時半に一番乗りでアリーナに来て、2人で100本シュートを決めるというタスクをこなし、その後に他のメンバーのワークアウトを手伝うルーティーンを続けてきたという。「自分はシュートが売りの選手ではないですが、準備を積み重ねてきたということが、この結果につながったと思います」と自信をみなぎらせた。
目指すは渡邊雄太のような「3&Dプレーヤー」
一方で、琉球には今後、フィリピン代表でアジア枠のカール・タマヨが加入するほか、日本人ビッグマンの渡邉飛勇もケガからの復帰が見込まれる。いずれも2m超の選手であるため、植松がインサイドでプレータイムを獲得することは容易ではない。この日も得点はゼロで、まだオフェン スで存在感を発揮するのは難しい印象も否めなかった。自身が目指す姿を問うと、明確なビジョンを語ってくれた。
「この身長でインサイドでやっていくのはこの先絶対に難しいというのは自分でも分かっています。ディフェンスという自分の良さは残したまま、オフェンスでスペーシングを取って、外から決められるNBAの渡邊雄太選手のような3&Dの選手になりたいです。そのためにも毎朝のシューティングを続けていて、ちょっとずつ理想の形に近づくために積み重ねていっている状況です」
頼もしい若手の活躍に、桶谷大HCも「植松も松本礼太もそうですが、11番目、12番目の選手はなかなか試合のローテーションに入ってこられない。それでも文句を言わず、常に練習中からハードワークして、周りに気遣いができる。試合に出なくても、ずっと自分のできることをやり続けられる。だからこそキングスは強い。彼らの存在はチームにとってめちゃくちゃでかいと思っています」と賛辞を送る。
大黒柱が不在の中、今村がチームトップの23得点を挙げたり、コー・フリッピンがターンオーバーを1に抑えてゲームをコントロールしたりと、各選手が危機感を持ってステップアップを果たした琉球。指揮官が「このゲームを一つの分岐点にできたらいいと思っています」と語るように、チーム力のさらなる底上げにつなげたいところだ。
(長嶺 真輝)