Bリーグ2部(B2)・信州ブレイブウォリアーズは12日、2024-25シーズンに向けたトレーニングキャンプを開始。ウェイン・マーシャルと新加入のペリン・ビュフォード以外の全選手がチームに合流し、勝久マイケルヘッドコーチのもと、約2時間にわたって汗を流した。
日本代表としてパリ五輪でプレーした渡邉飛勇は11日に帰国し、この日からチームに参加。練習には参加しなかったものの、新たなチームメイトと積極的にコミュニケーションを取るなど、コート外からチームを鼓舞する姿が見られた。
昨シーズンはチーム史上最低勝率となる10勝50敗(勝率16.7%)でシーズンを終え、B1からB2へと降格した信州。再起を図る今オフシーズンには、ビュフォードや渡邉、アキ・チェンバースやテレンス・ウッドベリーらをチームに加えるなど大規模な補強を敢行。「日々成長」のスローガンのもと、1シーズンでのB1昇格を目指す。
パリ五輪フランス戦で見せた“ゴベアブロック”「覚えてない」
日本代表として、自身2度目のオリンピックでの戦いを終えた渡邉。予選リーグ全3試合に出場し、約9分間の出場で平均1.3得点、2.3リバウンド、0.7ブロック、0.7アシストを記録した。
特筆すべきはフランス戦。エース八村塁が第4クォーターに退場するというピンチの中、出場時間を伸ばした渡邉が躍動。224㎝のビクター・ウェンバンヤマと216㎝のルディ・ゴベアを擁する強豪を相手に4得点6リバウンド2ブロックの活躍を見せ、接戦の中でゴベアのダンクをブロックしたシーンは大きな話題となった。
「(パリ五輪は)悔しいことと、すごくいい経験になりました」と渡邉は振り返る。
「(フランス戦では)塁のアンスポ(アンスポーツマンライクファウル)が2回あって、すごくきつい条件になって、僕が入って。(貢献できた部分は)自分の役割だけで、特別なプレーはしなかった。もちろんフランスとの試合が素晴らしいと思っていて、でも、(予選リーグでは)3回負けてしまった。これから日本のバスケは成長します」
世界中で話題となったゴベアへのブロックショットについては「全然覚えてない」という。
「今も全然覚えていなくて、自分がトップからゴール下にブロックに行っていたことも分かっていなかった。気づいたらゴベアがゴール下でダンクを狙っていたので、ブロックにいかなくちゃいけなかった。渡邊雄太も言っていたように『100回中99回はダンクされるシーン』だったと思うけど、その1回を引き当てることができました。(渡邊雄太と同じ)メンタリティで挑みました」
ビッグプレーで名前が売れても、謙虚な姿勢は忘れない。
「(ブロックが話題になったのは)ゴベア相手で、ゴベアがすごかったということです。ゴベアは素晴らしいです。NBAで最優秀ディフェンダー賞を4回獲っている選手だし。だからこそ世界が自分のプレーを見てくれたんだと思います」
信州での出場機会増加「本当に楽しみ」
東京五輪での代表選出を経て、2021年から琉球ゴールデンキングスでプロキャリアをスタートさせた渡邉。当時の信州入りは叶わなかったが、勝久HCは渡邉がポートランド大でプレーしていた時からチームに誘っていたという。
「彼がポートランドにいるときに、なんとか獲得したいと思い、どうにか本人に辿り着くように家族に連絡をさせてもらうなどアプローチをしていました」
勝久HCは続ける。
「彼はルーキーシーズンに琉球でプレーすることを選択して、とても強いチームで、とても良い経験になったと思う。今回、彼が琉球を離れて、どうなるかは分からなかったが、早い段階で話し合っていた。(声をかけていた)タイミングは何年も前からだったが、今回の編成に関しては、(声をかけていたのは)一番早い方の1人。とても早い段階で話し合っていました」
パリ五輪では渡邉はもちろん、元信州のジョシュ・ホーキンソンや兄で日本代表アシスタントコーチを務める勝久ジェフリー氏の存在もあり、日本代表の躍進を見守った。
「個人的に応援している人たちがたくさんいる中で、(フランス戦は)勝てる試合だと信じていました。そのときは実家から家族と観ていて、結構熱くなっていて、まずはジョシュのブロックにヒートアップして、その次に飛勇のブロックだったので、さらに大声を出して応援していましたね」
パリ五輪で一躍注目度が増した渡邉だが、信州への移籍は更なるステップアップを目指しての決断となる。琉球ではジャック・クーリーやアレックス・カーク、アレン・ダーラムら重量級のビッグマンが多く所属。ただでさえ競争が激しい中で、度重なるケガにも悩まされ、思うようなキャリアを歩めなかった。だからこそ、新天地では出場機会の増加や自身の成長にこだわる。
「過去3年間は自分の才能に頼っていた部分があったと思う。勝久HCの元でならより良い選手になれると思います。(3年前に)声をかけてもらった時も同じ思いでした。より良い選手に成長できると思います」
日本代表でチームメイトだったホーキンソンからも信州入りを後押しされたという。
「信州に来る前に彼とたくさん話したので、かなりいい印象をもって信州に来ることが出来ました。彼は『コーチマイクがキャリアを変えてくれた』と言っていて、信州に来る前のホーキンソンを知っていたらディフェンスはあまり良くなかったと思います。でも、信州でプレーした後は(パリ五輪で)ウェンビー(ウェンバンヤマ)をブロックしたり、ピック&ロールの対応も素晴らしかったり、かなりディフェンスが成長しました。だから、彼は僕も『同じように成長できると思う』と言ってくれました」
信州では琉球とは違い、外国籍のセンターはウェイン・マーシャルのみ。渡邉自身の出場機会の増加が見込まれ、求められる役割も大きくなる。
「(大きな役割を担うことは)本当に楽しみです。エリー(エリエット・ドンリー)選手とウッドベリー選手、石川選手はパスがうまい。(彼らとプレーするのは)本当に楽しみですし、自分の役割が大きくなることも楽しみです」
目指すのは守備力向上「本当に必要になる」
昨季は主力選手の退団や得点源として活躍が期待された外国籍選手たちの度重なる故障などにより、失意のシーズンを過ごした信州ブレイブウォリアーズ。今季からは戦いの舞台をB2に移すが、目指すのは1年でのB1復帰だ。
まだマーシャルとビュフォードは合流していないものの、この日から始まった全体練習を見て、渡邉のチームへの期待も高まったという。
「やばいですよね。ウッドベリー選手、エリー選手、アキも素晴らしいし、石川も。みんなが練習で本当に集中している。エネルギーが高いです。トレーニングキャンプだけど、代表合宿みたいです。みんなが120%の力でプレーしている。マイク(勝久HC)は厳しいコーチだけど、みんなが毎回正しくプレーしようとしています。みんながサボっていない。僕も早く(練習に)入りたいと思いました」
若き日本人ビッグマンには、指揮官も大きな期待を寄せている。
「日本人センターで彼のようなロブターゲットになれる能力を持っている選手は、なかなかレアなタイプ。『リングを守ることができる』というのも、能力だけではなく、タイミングだったり、読みだったり、勘だったりといろいろある中で、その二つを持っている。
キャリアのプライム(全盛期)どころか、まだ若い。琉球さんの方では彼の願っているプレータイムではなかったので、まだこれから伸びる。そんなポテンシャルが非常にある彼を獲得できたのは、とても嬉しいし、オリンピックを見ても、彼の次の成長を考えるために彼のビデオを見続けているときに、見るたびにワクワクが増しました。本当にワクワクしている選手です」
パリ五輪でそのポテンシャルの高さを存分に発揮した渡邉飛勇。五輪のような世界トップレベルのビッグマンたちと競い合っていくには、Bリーグで出場時間を確保し、さらに腕を磨いていくことが重要になる。
「(自分の役割は)まずはディフェンス。ビュフォードとウッドベリーが2番3番に出て、外国籍選手は僕が守らないといけない。それができなかったら(チームが)困る。ディフェンスは本当に必要になると思う」
勝久HCは選手のディフェンス力を伸ばすことに定評があるコーチであり、いまや日本代表の大黒柱となっているホーキンソンも信州時代に大きくディフェンス力を向上させた経緯がある。渡邉がホーキンソンと同じような成長曲線を描くことができれば、日本のインサイドにとっても大きな強みになることは間違いない。
自身の成長のため、日本代表のため、そして信州のB1復帰のため。渡邉飛勇の新たな挑戦がいま始まる。
(滝澤 俊之)