第99回天皇杯全日本選手権大会は14日、準決勝2試合を行い、ホームの沖縄アリーナで試合を行った琉球ゴールデンキングスは川崎ブレイブサンダースに98ー70で勝利した。琉球は2年連続の決勝進出。決勝は3月16日にさいたまスーパーアリーナで行われ、昨年敗れた千葉ジェッツに対してリベンジに挑む。
Bリーグでは27勝12敗で西地区1位をキープしている琉球だが、決して順風満帆ではない。特に1月は4勝5敗と負け越していた。しかし1月最後の試合となった佐賀バルーナーズ戦からアレックス・カークが帰化登録で出場し始めると、風向きが変わる。まだ連係部分で課題は見えていたものの、2月の5試合は4勝1敗となり、目に見えて自力が底上げされた。
そんな中で迎えた天皇杯準決勝。カークに加え、今シーズンは怪我の影響で不安定なシーズンを送っている渡邉飛勇もコンディションを取り戻してきたことで、常にビッグラインナップを敷ける強みが顕著に表れた。
カーク、渡邉という“2通りの3BIG”というカードを手にした琉球の進化とはー。
リバウンドで「44対29」と圧倒 6人が二桁得点
第1Qから、その「強み」を示す象徴的な場面が訪れる。
琉球はカーク、アレン・ダーラム、ヴィック・ローをスターティング5に入れたのに対し、川崎は帰化選手のニック・ファジーカスが怪我明けでコンディションが万全ではないこともあり、ビッグマンはトーマス・ウィンブッシュとロスコ・アレンの2人のみでスタート。序盤から琉球がリバウンドで優位に立った。
開始5分、琉球がカークとダーラムを下げ、ビッグマンがジャック・クーリーとローのみになったタイミングで、川崎はファジーカスを投入して3BIGに。一時的に高さの優位性が逆転したものの、琉球は直後に今村佳太と交代で渡邉を入れ、同じ3BIGで対抗。渡邉はディフェンスリバウンドで競り合ってルーズボールに飛び込んだり、ローからのアリウープパスをそのままリングに叩き込んだりして存在感を発揮し、第1Qで24ー15とリードを奪う原動力となった。
第2Qも流れは変わらず、高さのある琉球はディフェンスでスイッチを使い、簡単にズレをつくらせない。オフェンスでもビッグマンにダブルチームがきたタイミングでパスをさばき、内外から効率良く得点を重ねて45ー27で前半を折り返した。
第4Qに激しいプレッシャーに対して受け身になる場面はあったが、牧隼利がドライブからのループシュートや3Pを沈めて流れを断ち切り、大差を保ったまま逃げ切った。
スタッツではリバウンドで44対29と圧倒。ボールの流動性が高く、40分を通していいシチュエーションでシュートを打つことができていたため、3P成功率は41.7%(36分の15)に上り、ロー、ダーラム、岸本隆一、クーリー、カーク、牧の6人が二桁得点を記録した。
決勝の舞台はさいたまスーパーアリーナ。埼玉県出身の牧は試合後、コート中央でマイクを握り「すごく個人的な話になりますが、地元が埼玉で、中学校以来、埼玉でバスケットをしていないので(決勝が)すごく楽しみです。皆さんもぜひ埼玉に来てください」と語り、ファンに会場での後押しを呼び掛けた。
ヴィック・ローが“3番”に 「植松&荒川」の出番も増加
琉球は3BIGの手札が加わってから、ローがインサイドの役割が軽減されるスモールフォワードの「3番ポジション」に入ることが増えた。チーム全体でダーラムや今村、岸本など、インサイド、アウトサイドともに得点を取れるポイントがより多くなったことで、どこで重点的に攻めるのかという共通認識を持つことが難しく、試合によってはボール回しが停滞する場面もあった。
しかし川崎戦では、牧が「カークが(帰化選手として)加わってから、チームでバスケットをする形としてすごくボールがよく回っていた印象で、すごく良かったと思います」と振り返ったように、ボールをシェアしながら各選手が好シチュエーションでシュートを打てるタイミングを探し、適切な状況判断で打ち続けた。今シーズン、チームの平均アシスト数は24チーム中23番目の16.4本にとどまるが、この試合はそれを大きく上回る26本を記録した。
クーリーと渡邉の「ツインタワー」にローを加えた3BIGもこれまであまり見られなかったラインナップだが、ディフェンスやリバウンドで効果を発揮し、桶谷HCは「(クーリーと渡邉が一緒に出ると)オフェンスのオプションは限られてくるけど、悪くはなかった。一緒に出た時により良いスペーシングができるようにしていきたいです」と述べ、今後武器となる手応えを感じているようだった。
3BIGの効果は高さの優位性、ローを3番で起用できることだけに留まらない。指揮官はこう語る。
「ヴィックをハンドラーで使えるので、1人ディフェンス重視の選手を置いても大丈夫という状態ができています。ハンドラーが増えると植松のような3&Dの選手が使いやすくなる。荒川もまだまだ経験値の部分で状況判断が悪い時もありますが、これからハンドラーになっていってほしいです」
このコメントに出てきた植松義也と荒川颯は、この試合で二人とも7分台の出場時間を獲得。植松は2アシスト、1スティール、荒川はコーナー3Pの成功を含む5得点を挙げた。2人とも最近の試合ではコンスタントに出場機会を得ており、特に相手のハンドラーや点取り屋に対して激しいプレッシャーを仕掛け、チーム全体のディフェンス強度を上げるという重要な役割を果たしている。
3BIGの誕生で攻守に安定感が増したことで、試合を通じてさまざまな選手の組み合わせを試すことができている琉球。セカンドユニットの強さで初の頂点まで駆け上がった昨シーズンと同様に、各選手が自らの役割をより明確にしていくことによって、終盤戦に向けてさらに層の厚さが増していきそうだ。
桶谷大HCが警戒する千葉Jの“3選手”は…
決勝は昨年と同じ顔合わせとなった。前回は千葉Jが富樫勇樹や原修太、ジョン・ムーニーらが要所で得点を重ね、盤石の試合運びで琉球を87ー76で退けた。
当時、千葉Jでエースを張っていたローが琉球に移籍したほか、カークが帰化したり、千葉Jの帰化登録選手がギャビン・エドワーズからアイラ・ブラウンになったりと主力の顔ぶれは互いに変わった。昨年の決勝時はまだ各タイトルを通じて無冠(bjリーグを除く)だった琉球にとっては、Bリーグ優勝を経た今回は大舞台へ向かう上でのメンタル面にも違いがあるようだ。
生え抜き12シーズン目の岸本はこう語る。
「同じような舞台かもしれないですけど、自分たちもいろんなことを経験して、去年とは全く違う状況だと思っています。今回は覚悟が決まった状態で決勝に臨める。一発勝負で、何が起こるか分からないという部分も込みで、勝ち取るべくして勝ち取りたいです」
千葉Jは琉球と共に東アジアスーパーリーグ(EASL)に参戦し、厳しいスケジュールの中で苦しい戦いが続く時期もあったが、1〜2月に12連勝を記録してチームバスケの完成度が増してきている。今シーズンはまだ直接対決はないが、千葉Jの印象を聞かれた桶谷HCは警戒する選手に3人の名前を挙げた。
「準決勝では富樫君が29点を取っているので、まずはそこだよね、と思っています。あとクックス選手。伸び伸びやっているので、そこを止めないといけない。当たり前ですけど、ムーニー選手もすごい選手。この3枚は気持ち良くプレーさせないようにしたいです」
琉球にとって、bjリーグ時代は出場すらできなかった天皇杯。だからこそ、岸本は「Bグループが発足して、やっとタイトルを狙っていいポジションまで来ることができた。そういう意味では欲しいタイトルです。勝てる試合は全部勝ちたい。自分自身のために天皇杯を取りに行って、その結果たくさんの人にいろんなを気持ちを共有できて、いろんなことを共感してもらえれば、自分としては嬉しいです」と強い決意を語る。
次回で第100回の節目を迎える伝統深い天皇杯のタイトル。クラブ、そして沖縄バスケに新たな歴史を刻むべく、琉球が初優勝を掴みにいく。
(長嶺 真輝)