2月4日に行われたBリーグ1部・アルバルク東京対琉球ゴールデンキングス戦後、琉球のエースである今村佳太にこう言わしめた。
「彼はゴー・トゥー・ガイになれる可能性がある選手だと思っているので、すごく期待しています」
「ゴー・トゥー・ガイ」とは、バスケットボールの世界で大黒柱やエースの役割を担う選手を形容する言葉だ。そして、今村が未来のゴー・トゥー・ガイだと太鼓判を押した「彼」とは脇真大(白鷗大学4年)のことだった。
2023年の全日本大学バスケットボール選手権大会で白鷗大を優勝に導き、MVPにも輝いた脇。今季はインカレ終了後に琉球と特別指定選手として契約を結び、加入後は12月31日のホームの仙台89ERS戦で初のロスター入り。1分48秒間出場し、ファンの大歓声を受けた。1月24日のEASLでは9分30秒の出場で8得点、31日の佐賀バルーナーズ戦では5得点、2月4日のA東京戦では8分12秒間出場するなど、めきめきと存在感をアピールしている。
7日の川崎ブレイブサンダース戦は久しぶりのベンチ外となったが、桶谷大HCは試合後、「ほんとは脇も出したかった」と話していた。実はこの日は白鷗大の卒業論文提出と試合が重なり、前日のチーム練習にも合流できず。指揮官も「もちろん学業優先で」と出場機会はなかったのだった。試合後、2日ぶりの練習で汗を流した脇に、琉球でのここまでのシーズンについて話してもらった。
「積極的なミスから学んでいけばいい」
大学時代はエースとして、”自分が勝たせる”というマインドでチームをけん引し、常に活躍してきた脇だが、琉球ではチーム最年少の末っ子となる。大学時代と琉球とマインドセットが違うようで、「『俺がやる』というよりは、自分は一番下でまだまだなので、色々学んで勉強しているという感じではあります」と謙虚な姿勢で変化を語った。
試合前やベンチでは先輩と戯れる姿も見られ、末っ子らしい愛されキャラとしての一面も見られる。脇自身も「本当に優しい先輩ばかりでとても可愛がってもらっているので、馴染めているなというのはあります。でもやるべきことはしっかりやらないといけないと思っているので、オンオフはっきりとやっています」と合流間もないにもかかわらず、チームの過ごしやすさも感じているようだ。
プレータイムが伸びていく中で2月4日、東地区首位A東京との第2戦では1Q途中からコートイン。2Qにはディフェンスでの貢献や、持ち味を生かした鋭いドライブからレイアップで得点を決める。東地区首位のA東京相手に申し分ない活躍を見せていたが、3Q残り5秒で不用意なファールで相手にフリースローを与え、即座に交代となった。その際に脇が悔しそうな表情を見せると、すかさず今村がフォローに入り、後ろから脇の頭をポンポンと2回叩いていた。今村はその時のことをこう振り返る。
「彼には色んなチャレンジをしてほしいなと思っていて、小さくとどまるような選手じゃないと思っているし、ダイナミックな選手だと思っています。試合の中でチャレンジしながら、トライ・アンド・エラーを繰り返して、彼の成長に繋がっていけばいいと思いますし、これからもチャンスはあると思います」
今村のコメントを伝えると脇は「(今村)佳太さんやいろんな人たちからチャレンジして、トライ・アンド・エラーを起こして、自分の成長に繋げていけと言われています。ただ、やってはいけないミスは分かっているので、それはやらないように意識してやって、積極的なミスだったら自分もそこで学べばいいかなと思っています。先輩たちがこうやって言ってくれて、背中をプッシュしてくれて、自分もやらないといけないと思ってますし、これだけ期待してもらっていて応えなかったら自分はここに入ってきた意味がないと思っているので。先輩たちや桶さん、コーチ、スタッフの人たちの期待に応えたいなと思っています」とコメント。特別指定選手ながらも、大学時代に培ってきたメンタリティやエースとしての責任感の強さが垣間見えた。
今村へのインタビューの最後、脇への期待を口にしたのが冒頭の言葉だった。琉球の日本人エースとして、昨季はチームを初のチャンピオンシップ制覇に導いた今村から出た“ゴー・トゥー・ガイ”発言は、脇への最大の賞辞と言えるだろう。合流からまだ約1カ月半でそのような印象を与えている脇には相当なポテンシャルを感じているに違いない。
エースからの称賛について脇は「素直にうれしいですし、(今村)佳太さんはずっと見てきていたので、こうやって今一緒のチームでプレー出来て本当に嬉しいです。学ぶところはどんどん盗んでいきたいと思っています」と語り、さらなる成長への貪欲な姿勢を見せた。
プレータイムを勝ち取るために「周りを見て勉強」
初優勝を果たした昨季のメンバーがほとんど残留していることに加え、今季はヴィック・ローやアレックス・カークが新たに加わるなど、リーグ屈指のタレントぞろいなチームとなっている琉球。指揮官もチームの状況については「みんなでシェアできるようになったらいいなと思う反面、ローテーションさせるのが難しい」と頭を悩ます。脇と同じポジションにも今村や小野寺祥太、牧隼利、田代直希と経験豊富な手練れたちが控えており、層の厚い琉球でプレータイムを勝ち取るのは容易ではない。
ベテランたちとの争いに勝ち、プレータイムを勝ち取るためには何が必要なのか。脇は話す。
「まずはディフェンスをハードにやるということと、オフェンスではハンドラーをやってスラッシュして、点を取ったり、ボール捌いたりをやっていかないとプレータイムは勝ち取れないです。いろいろ周りを見て勉強して、どういう風にやったらプレータイムを取れるかを今探りながらやっているところではあります」
大学MVPでさえもプレータイムを勝ち取るのが容易ではないのが琉球ゴールデンキングスの強さだ。脇が自身の持ち味を生かしつつ、琉球でプレータイムを得られるようになれば、それは日本最高峰の舞台で貢献できる力があるという証明にもなる。大学であらゆることを成し遂げた脇が新たなチャレンジを始める場所としては、最高の環境だといえそうだ。
琉球加入後はスラッシャーとしての印象が強いが、脇の強みはその「オールラウンドさ」にある。大学時代にはスコアラーとして点も取りつつ、ポイントガードとしてゲームコントロールをする場面も多々あった。Bリーグでのポイントガードの挑戦については「いろんなことに挑戦したいというのもありますし、今やるべきことはチームに求められていることを今はもっと向上していかないとと思っているので、それができたら次のステップでポイントガードをやっていけばいいかなと思っています」と語り、いずれは司令塔の役割にも挑戦する意向を示している。
桶谷大HC「将来キングスを背負って立つような選手になってほしい」
A東京戦後から川崎戦にかけて首都圏では雪が降るなど、今季一番の寒さとなった。インタビュー前に脇は「寒すぎるんで早く沖縄に帰りたいです」と身を震わせていた。沖縄での生活にもすっかり慣れ、既に第二の故郷として気に入っているようだ。日に日に沖縄アリーナ内やSNS上でのファンから声援が大きくなっているようで、インタビューの最後にはファンへの感謝を口にした。
「アウェイだと感じさせないくらい、たくさん応援してくださって、本当に自分たちの力にもなっていますし、自分のSNSとかで頑張ってとか、いろんな応援メッセージしてくれているので、その期待に応えられるようにこれからは頑張っていきたいと思うので、これからもよろしくお願いします」
脇に期待を寄せるのは今村だけではない。桶谷HCは仙台戦の後、「将来、キングスを背負って立つような選手になってほしい」と脇への思いを語っていた。昨季王者である琉球に加入したことは脇にとって大きな成長の糧となり、今後のキャリアを形成していくうえでターニングポイントとなるに違いない。ルーキーから琉球のゴー・トゥー・ガイ、そして日本のゴー・トゥー・ガイへ。脇真大の挑戦は始まったばかりだ。
(吉本 宗一朗)