「バスケットは算数じゃねえ」
漫画「SLAM DUNK」に登場する湘北高校のエース流川楓が、ライバルである陵南高校の仙道彰と点取り合戦をしている最中に発した名言である。もちろんバスケットボールはスポーツである以上、戦略を組み立てたり、ファンが楽しんだりする上で「数字」は極めて重要な要素だが、こと選手に関しては、そう単純ではない。
つまり、必ずしも「1+1=2」にはならない。どれだけ個としての能力が高い選手を集めても、チームとしての連係が深まらずに1+1が「1」になることもあれば、逆に相乗効果を発揮して「3」になることもある。その「算数じゃねえ」ことにバスケットボールの面白さがあり、そして難しさがある。
Bリーグのレギュラーシーズンが後半戦に突入した今なお、その「難しさ」の部分と対峙し続けているのが、西地区1位の琉球ゴールデンキングスだ。
現在22勝11敗で、西地区2位の島根スサノオマジックと1ゲーム差で地区首位を守ってはいるが、1月の成績は2度の2連敗を含む3勝5敗。6日にあったファイティングイーグルス名古屋戦で今シーズン最少の57得点で敗れたが、その後に持ち直し、20日には東地区2位と好調の宇都宮ブレックスとの締まった試合を2点差でモノにした。ただ、試合後ごとで戦術に対する遂行力の差が大きく、内容の浮き沈みが激しいのが現状だ。
このようなチーム状態に陥っている要因の一つに、先に触れたチームケミストリーの「難しさ」に直面していることが挙げられる。試合内容や会見での言葉から探る。
京都戦で守備“崩壊” 2戦目は松脇の3P7本で延長制す
琉球は27、28の両日、沖縄アリーナで西地区最下位の京都ハンナリーズと対戦。失点数が今シーズン最多となった第1戦は85ー94で落とし、ディフェンスを改善した第2戦は延長にもつれ込む接戦の末、86ー81で勝ち切った。
初戦はマシュー・ライト、岡田侑大という京都の二大ハンドラーに対するプレッシャーが明らかに不足していた。ピックプレーでスクリーナーに付いているビッグマンのディフェンスもどこまで高いポジションを取るのかが中途半端だった。内外からいいようにシュートを決められ、第1Qでいきなり27得点を許し、ディフェンスのトーンセットに失敗したことが最後まで響いた。
第2戦は、ベンチ登録はされたものの、左膝のコンディションを見ながらの出場が事前に告知されていたヴィック・ローが事実上不在となった。厳しい状況ではあったが、普段出場機会が少ない植松義也や荒川楓、脇真大らも投入して総力戦で臨み、初戦で露呈したディフェンスの課題をいずれも改善。序盤から先行し、リードを保ち続けた。
しかし、9点リードで迎えた第4Qに疲労が出たのか、アレン・ダーラムとジャック・クーリーのゴール下がことごとく落ち、逆転を許して残り25秒で3点ビハインドに。それでも残り12秒で松脇圭志が厳しい体勢からこの日、自身7本目となる3Pを沈めて同点に追い付いた。
延長は岸本隆一や今村佳太が勝負強いシュートを決め、最後は2点リードの場面でライトに激しいプレッシャーを掛けた松脇が、スクリーナーのシェック・ディアロからオフェンスファウルを誘い、勝負を決めた。地区首位と最下位のため、スコアだけを見れば「辛勝」かもしれないが、ディフェンスの遂行力やオフェンスにおけるボールムーブは初戦から劇的に改善し、琉球のやりたいバスケを表現していた。
キャリアハイの23得点を挙げた松脇は「チームとして、昨日の負けからディフェンスを修正できたと思います。タフな時間帯もあったんですけど、我慢することで勝ちに繋がりました。個人としても、キャリハイを取れて良かったです」と笑みを浮かべた。
桶谷大HCは「チームとしてやりたい事を遂行してくれました。全員が勝つために必死になってハードワークし、良い形で勝てたゲームだったと思います。今日の結果を踏まえて、これを続けていけるように、次節からのアウェー戦にも挑んでいきたいと思います」と今後を見通した。
最大の課題はヴィック・ローの“フィット感”
京都との2試合は、試合ごとで遂行力の差が大きいという、最近の琉球の傾向を象徴するような連戦となった。桶谷HCは第2戦後に「これを続けていけるように」と展望したが、確かに、その継続性こそが今の琉球にとって最大と課題となっている。
そもそもなぜ、このような浮き沈みが生まれているのか。第2戦後に桶谷HCに要因を聞くと、今シーズン加入したヴィック・ローの存在を念頭に、以下のコメントが返ってきた。
「やっぱり外国人選手が変わると、みんな頭を悩ませるんです。ハンドラーの役割なのか、4番ポジションなのか、とか。どのプレーを選択した方がいいのか、変な気を使いながらやったりしてしまうこともあります。僕も悩むし、隆一が一番悩んでる。今誰を使った、誰がボール触ってない、とか。元々キングスが築いたベースにどうやって(ローを)入れていくかという課題がある。ヴィックが出たり入ったりしているので、『まだ、なかなか』というところは正直あります」
このコメントからも分かるように、今季の琉球はローという秀でた能力を持った万能型プレーヤーを補強したが、まだチームにフィットできていないのが現状だ。
それは、特にオフェンス面で顕著となっており、チームでつくった流れの中ではない状況で1対1を仕掛けてしまったり、ローがハンドラーとなるのか、ボールマンにピックに行くのか、ポストアップをしてボールをもらうのかなどで判断のタイミングのズレが生じてしまったりする場面も見られる。その時々で、チームの中でローがどういった役割を果たすかという共通認識がまだ構築できていないため、チームプレーに不安定さが生まれる要因になっている。
昨シーズン、ローが所属した千葉ジェッツは個々の高い能力を生かして1対1を強調するチームだったが、琉球は特定の選手に偏らないボールムーブメントを重視するため、ローも適応に苦しんでいるのかもしれない。
チーム戦術が違うため単純比較は難しいが、昨季とのスタッツ比較では平均得点は17.1点から14.5点に落ち、ターンオーバーは1.4から2.1に増加。得点面では2P関連の数字はほぼ同じだが、3Pは1試合当たりの試投数が4.4本から2.6本に減り、成功率は37.6%から24.1%に急落している。
ロー不在で臨んだ京都との第2戦は、昨シーズンのようなボールムーブメントが随所で見られた。ハンドラーも主に昨シーズンから所属している岸本、牧隼利、今村が担い、役割分担が明確で「みんながセイムページ(共通理解を持っている状況)で、分かりやすかった」(桶谷HC)。松脇がリズム良く3Pを決め続けられたのも、それが一要因だったのかもしれない。
ちなみに、第2戦の日の午前中には、今村佳太が桶谷HCに「ちょっと迷ってる選手がいるから、話してあげてくださいね」と伝え、その「迷い」を抱えた選手の一人が岸本だったという。
桶谷HCが「難しいですよね。ヴィックが悪いんじゃないんです。誰も悪い人はいない」と言うように、チームの不安定さはローに責任があるわけではない。昨シーズンから積み上げてきた、この第2戦のような戦い方をベースに、ローの存在をいかに“上積み”要素にしていくか、というチーム全体で向き合わないといけない問題なのである。
桶谷HCは「一人いい選手が入ったとしても、それは個人の力であって、チームとして大きくするのには、やっぱり時間と労力がすごい必要なんだなということを感じています」とも言った。
東アジアスーパーリーグ(EASL)への参戦もあって練習がままならなかったり、ロー自身が故障離脱する時期があったりして、フィット感を高める作業はもちろん簡単ではないが、これは、今シーズン琉球が連覇を狙う上では避けては通れない最大の課題と言っても過言ではないだろう。
集中し過ぎずに「自由にやらせるのがいい」松脇
では、どうすればローがより琉球というチームにフィットしていけるのか。桶谷HCはこう見通す。
「やっぱり、今まで積み重ねてきたキングスのバスケットがあって、そこにヴィックをうまくフィットさせる。トランジションを出しましょう、ヴィックをハンドラーで使いましょう、というところだと思います。これは、ヴィックも自分でフィットしていけるようにしないといけないし、チームもヴィックのことをちゃんと受け入れて、プレーできるようにしていきたいなと思います」
松脇にも、その辺りの認識を聞いてみた。
「僕的には、ヴィックは自由にやらせた方がいいと思っています。去年千葉Jにいた時のヴィックを見ていて、自由にやりたいようにやっていて、それがすごい生きていたので。ヴィックに集中し過ぎたらダメですけど、もう少しボールを触らせるとか、自分で攻めさせるというのはどんどん出していくのがいいんじゃないかなと。ハンドラーをやらせたら本当にすごい選手で、相手の脅威になるので。気を遣われたら逆に僕らが気を遣うので、もっと自由にやってもいいかなと思います」
レギュラーシーズンも前半戦を折り返し、チャンピオンシップ(CS)進出や、その後のホームコートアドバンテージの獲得も視野に入れながらの戦いとなる後半戦。現在、上位5チームが4ゲーム差の中にひしめく最激戦区の西地区を琉球が勝ち抜くためには、ローの加入による数式を「1+1=2」ではなく、その答えを「3」にも「4」にもしていく、成熟度の向上が必須になることは間違いない。
(長嶺 真輝)