Bリーグ西地区首位の琉球ゴールデンキングスは20日、沖縄アリーナで東地区2位の宇都宮ブレックスと対戦し、68ー66で接戦を制した。これでレギュラーシーズンのちょうど半分となる30試合を消化し、通算成績は21勝9敗。西地区2位の島根スサノオマジックも茨城ロボッツに86ー56で勝利したため、ゲーム差は「2」のまま。
宇都宮戦の前まで、1月の成績は1勝3敗と苦しい戦いが続いていた琉球。負けた試合の内の2試合は2点差での黒星で、10日に台湾であった東アジアスーパーリーグ(EASL)のニュータイペイキングス戦も4点差で敗れた。本来の持ち味である「接戦での強さ」が影を潜めていた。
しかし、この試合ではリーグ全体で3番目に高い勝率を誇る宇都宮を相手に、一度も二桁点差に開くことがなかったクロスゲームを2点差で勝ち切った。強みを取り戻すきっかけの一つに、桶谷大HCが前日のミーティング時に選手たちに伝えた言葉があった。
アレン・ダーラムの“竹内攻め”が奏功 第4Qに7得点でけん引
琉球は開始から宇都宮に7連続得点を許した。岸本隆一や今村佳太らの3Pですぐに点差を縮めたが、相手のハードショーに対して攻めあぐねる場面も。スコアラーの比江島慎とD.J・ニュービルに対しては今村と松脇圭志が主にマッチアップし、ビッグマンとのスイッチを使いながら徹底マーク。ただ、グラント・ジェレットとアイザック・フォトゥに高確率で内外からシュートを決められ、28ー35と7点のビハインドを追って折り返した。
後半に入るとピックする位置などを修正し、今村や岸本のペイントアタックが増えてボールムーブメントが向上。追い上げて一進一退の展開となった。
最終第4Qに入ると、この試合を通じて主に竹内公輔とマッチアップしていたアレン・ダーラムがフィジカルの優位性を生かして積極的にアタックをしていく。岸本の3Pもあり、残り2分24秒で64ー60と前に出た。
しかし、今村のパスミスからニュービルに単独速攻を決められ、さらに比江島のフリースロー2本で64ー64の同点に。さらに2点を取り合った後、再びダーラムが竹内とのマッチアップで中央をドライブして決め切り、残り30.3秒で68ー66とリード。最後は激しいディフェンスで竹内とニュービルの3Pミスを誘い、逃げ切った。
スタッツでは今村が17得点、ジャック・クーリーが15リバウンドを記録。第4Qだけで7得点を挙げたダーラムは14得点、8リバウンドで、その選手が出場している時間帯の得失点差を示す「±(プラスマイナス)」はクーリーに次いで高い「+9」だった。勝負所で目立った“竹内攻め”は、桶谷大HCがゲームプラン通りだったことを明かした。
「竹内君のところをアタックしていくのはゲームプランにありましたし、一番の狙いはファウルをもらうことでした。ニュービル選手と竹内選手は基本セットなので、竹内くんを削りに行くことでニュービル選手のプレータイムを減らす目的でした。それはうまくできてなかったけど、最後に竹内君のところからフィニッシュできたのは、プラン通りかなと思います」
ニュービル、ジェレット、フォトゥの外国籍3人に二桁得点を許したものの、比江島を8得点に抑えたことも大きかった。岸本は「出だしで勢いを付けられた部分があったんですけど、ディフェンスで崩れず、紙一重のところで試合を持っていけました」と守りの強度を保てたことを勝因に挙げた。
過密日程でチーム作りが停滞 “理想と現実の差”に苦しむ
琉球は12月までの25試合で5点差以内のゲームは10試合あり、その成績は8勝2敗と接戦での強さを発揮していた。しかし冒頭で触れた通り、1月に入ってからはことごとくクロスゲームで敗れ、ファイティングイーグルス名古屋や仙台89ERSといった勝率5割を切るチームにも黒星を喫していた。
成績が落ち込んでいる間、選手たちが審判の判定に対して頻繁に不満を表したり、ボールピックの回数が減って1対1を仕掛けたりする場面が増加。57得点しか奪えずに敗れた1月6日のFE名古屋戦後、桶谷HCが「キングスが一番求めているチームとして団結してバスケットをするというところがなくなってしまった。全てにおいて自分本位になってしまっている」と語った通り、チーム状況の悪化は技術や戦術面というよりも、メンタル面に起因していることは明らかだった。
その要因の一つが、BリーグとEASLを並行して戦うことによるタフなスケジュールで練習がままならないことだった。
これまで行ったEASLの5試合は全てBリーグの合間を縫った水曜ゲームであり、そのうちの3試合は韓国、マカオ、台湾と国境を越えてのアウェー戦。直近の日程を見ても、1月6、7の両日にFE名古屋とアウェーで2連戦を行い、10日にEASLで台湾で試合をした後、12〜14日に沖縄アリーナであったオールスターの各イベントに多くの選手が参加。17日のアウェー戦を挟んで宇都宮との連戦を迎えた。
このスケジュールを念頭に、桶谷HCは「スケジュールはめちゃくちゃタフです。台湾に行って、オールスターでは岸本と今村は3日間イベントに出っ放し。昨日は練習をしましたが、今日は14時からの試合で朝は練習できない。ウチと(共にEASLに出場している)千葉J以外は練習できていると思いますが、キングスはずっとこういう状況でやっています」と話す。
過密日程の影響もあってか負傷者も相次ぐ中、チーム作りが難しいことは想像に難しくない。初優勝した昨シーズンから多くの選手が残留し、ヴィック・ローも補強した中で、指揮官はチーム内で「こんなチームに負けるはずがないのに」という負の感情が生まれていたと説明する。岸本も「言葉にしてなくても、昨シーズン優勝したこととかが影響していると思います。いつもだったら勝てそうな試合に勝てなかったというのは、自分たちが感覚的に足踏みしている要因だったと思っています」と分析する。
結果に対する理想と現実の差がメンタルを不安定にし、チームプレーに綻びを生んでいた。
「コントロールできること」にフォーカス
そんな中、ここ数試合はチームで戦うという姿勢を徐々に取り戻しいき、宇都宮戦ではそれが結果に繋がった。マインドを変えるきっかけの一つに、桶谷HCの声掛けがあったようだ。宇都宮戦は激しい守り合いの中でも各選手が冷静さを保ってプレーしていた印象で、「選手たちのメンタル面の変化を感じるか?」との問いに対し、自ら振り返ってくれた。
「昨日のミーティングでスカウティングの映像を見る前に、『一回自分たちの置かれている立場をちゃんと受け入れましょう』という話をしました。僕たちはどのチームよりも練習ができないから、しっかり積み上げていくということにフォーカスしないと、ずっとこの気持ち悪い状態が続いてしまう。だから『コントロールできることだけをやり続けましょう』と。今日は全員がチームプレーをやってくれた。みんなが現状を受け入れてくれたんじゃないかと思います」
実際、岸本は精神面の変化があったという。
「桶さんの話があって、改めて自分たちのマインドセットを考えるきっかけになりました。個人的にも、ちょっと前までは『バイウイークまであと何試合』とかいろいろ考えていたけど、まずは『毎試合、全力を出す』ということに立ち返ることをテーマにしています。今日はチームとしても、個人的にも結果が出て良かったです」
岸本はこうも言った。
「やっぱり一つ一つの積み重ねが最終的に実を結ぶよね、ということを改めて思えた試合になりました。昨シーズン優勝したことは関係ない。勝つにしろ負けるにしろ、自分たちがベストを尽くして、それを積み重ねた先に西地区優勝、ホームコートアドバンテージの獲得、ファイナルがある。毎試合、毎試合、危機感を持って取り組んでいかないといけない。もっと意識して、自分の仕事をしていきたいです」
21日に宇都宮と第2戦を行った後、24日にもホームでEASLの試合があるため、2月の上旬まで5週連続で水曜ゲームが組まれている琉球。今後も厳しい日程が続く中、セルフコントロールの徹底が勝敗を分ける大きな鍵になることは間違いない。
(長嶺 真輝)