琉球ゴールデンキングス6連勝で西地区首位 「ヴィック・ローらしさ」を取り戻した理由
復調の兆しを見せている琉球ゴールデンキングスのヴィック・ロー©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 Bリーグ西地区の琉球ゴールデンキングスは16、17の両日、沖縄アリーナで広島ドラゴンフライズと第12節を戦い、80ー73、76ー71でいずれも勝利を飾った。これで連勝は「6」となり、同地区2位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの差を3ゲームに広げて西地区首位をひた走っている。

 ただ、この6試合は全て7点差以内の勝利で、いずれも接戦だった。オフェンスのリズムの悪さが目立ったり、持ち味のリバウンドで相手に上回られたりすることもあり、まだチームとして成熟途中であることがうかがえる。桶谷大HCが13日の東アジアスーパーリーグのアウェー戦から体調不調で不在となっている他、アレン・ダーラムが左大腿二頭筋肉離れで欠場が続き、渡邉飛勇も右手小指の怪我で広島との第2戦でベンチから外れるなどネガティブなニュースも続く。

 そんな中、チームにとって明るい材料となっているのが、今シーズン加入したヴィック・ローの復調である。

 バイウィーク明けの12月に負傷から復帰して以降、特にオフェンス面で結果を残せずにいたが、広島との第2戦後、桶谷HCの代わりに指揮を執った森重貴裕AC「5対5の中でプレーができています。毎試合後の反省の中でマクヘンリーACなどコーチたちが彼にアプローチし、ちょっとずつ良くなってきています」と語ったように、琉球のチームオフェンスにフィットしてきている。

 なぜ、この変化が生まれてきたのか。チームメートの言葉から探ってみたい。

©Basketball News 2for1

直近3試合で“+” 「チームとして戦って勝利できた」

 ダーラム不在の中で臨んだ広島との連戦。第1戦、ローは22得点、9リバウンド、6アシスト、2スティールという脅威のスタッツを記録し、攻守で躍動した。29得点、11リバウンドを記録したジャック・クーリーと共にゴール下を支配し、勝利の立役者に。この試合、琉球はペイントエリア内での得点で44対26と広島を圧倒した。

 続く第2戦、前半は広島ペースで進んだ。琉球は相手のオールコートプレスやゾーンディフェンスを崩せず、11点ビハインドで折り返した。それでも後半に入ると岸本隆一今村佳太が効果的に3Pを沈めてゾーンディフェンスを攻略し、ローとクーリーがリバウンドで体を張って逆転に成功。ディフェンスの強度も上がり、終盤に突き放して競り勝った。

 2戦目は今村が3P5本を含むチームトップの23得点。ローは14得点で続き、さらに7リバウンド、3アシスト、2スティールと2日続けて万能な活躍ぶりを見せた。

 ローの復調ぶりは、その選手が試合に出ている時の得失点差を表す「+/−」(プラスマイナス)に顕著に表れている。12月に出場した6試合の内、シーホース三河大阪エヴェッサ信州ブレイブウォリアーズと対戦した前半の3試合は「−9」「−9」「−7」だったが、信州との第2戦から広島との連戦までの直近3試合は「+17」「+12」「+8」と大きく改善した。

 広島との第1戦後、ローは「(東アジアスーパーリーグの)水曜日のメラルコボルツ戦から怪我人が出たりとチームとしてタフな状況でしたが、チームとして戦って勝利できました。プロフェッショナルの意識を持った選手達と共に戦うためにこのチームに来たので、今回のような勝利は嬉しいです」とコメントしており、琉球のチームバスケットにフィットしてきている感触があるようだ。最近、目に見えて笑顔を見せる場面も増えてきた。

チームメイトと談笑するロー(右)©Basketball News 2for1

ボールを集めて「いかに状況判断をさせるか」

 広島との第2戦後、ローの変化について問われた松脇圭志が「先々週くらいまで、ヴィックがちょっとやりづらそうにしているのは僕たちから見ても思っていました。昨シーズンから見ている僕たちからして、ヴィックっぽくない部分がすごいあったので」と言うように、12月の序盤戦はオフェンス面の状況判断に苦しんでいることは明白だった。

 持ち味である個の突破力を効果的に発揮できず、相手ディフェンスのズレを作れずに「+/−」がマイナスだった3試合のうち2試合は珍しくアシストもゼロだった。

 冒頭で森重ACが言ったように、試合後のフィードバックで改善を促していったこともあるが、チームは試合中のコート上でもローに対するアプローチを続けていた。松脇が説明する。

 「ヴィックがやりやすくなれば確実にチームは良くなると思っていたので、以前よりもヴィックにボールを集めました。それで自由にやってくれるようになり、今はチームに流れを引き寄せるプレーができています。ヴィックらしさが出てきているので、僕たちもやりやすいし、合わせやすい。だんだんキングスのチームバスケに慣れてきている感じがあります」

 今村も「彼の良さを引き出すためには、どれだけボールをタッチさせて、状況判断をさせるかが大事だと思っていたので、僕も常日頃から『アグレッシブに自分のプレーをやってほしい』と言っていました」と振り返るように、チームとしてローがボールを持つ時間を増やしていった。

“復調”を象徴した信州との第2戦

 その“リハビリ”のような取り組みが効果を発揮し始めた象徴的な場面があった。10日にあった信州戦の最終盤である。琉球に劇的な逆転勝利を呼び込んだ岸本の3連続3Pの印象があまりにも強いが、この3本は全てローのアシストから生まれた。

 1本目は右サイドから鋭いドライブを仕掛け、相手ディフェンスが収縮したと見るや左コーナーの岸本にキックアウト。2本目、3本目も岸本がスクリーンを使ってフリーになった瞬間にどんぴしゃりのタイミングでパスを送った。さらに同点の場面では、今度はファウルを受けながら自らレイアップを沈めて勝ち越し点を挙げた。

 積極的にゴールを狙うことで自身の得点が増え、相手ディフェンスを自らに引き寄せることでアシストも増える。わずか2分ほどの間に、理想的な循環を体現したのだった。

 今村は「自分がいくタイミングとボールを散らすタイミングが、彼の中で掴めてきたことがいいリズムの要因になっていると思います。チーム全体として彼をプッシュした結果、少しずつ良い循環ができてきています」と、ローの復調に手応えを語る。

10日の信州戦では終盤に真価を発揮した©Basketball News 2for1

3P成功率が「37.6%→19.4%」 向上の鍵はチームオフェンスか

 徐々に本来の姿を取り戻してきているローだが、一つ気になる数字がある。3Pの成功率だ。千葉ジェッツでプレーした昨季のレギュラーシーズンは37.6%という高確率だったが、今シーズンはこれまで19.4%と低迷している。1試合での試投数も昨シーズンの4.4本から2.8本に減った。これに関しては本人のシュートタッチの悪さもあるだろうが、チームとして良いシュートシチュエーションを作り切れていないことも影響しているのかもしれない。

 チームバスケットの現状について、今村はこう語る。

 「誰かが復帰したタイミングで欠場者が出てしまっているので、全員が揃ったタイミングで自分たちの核となるバスケットボールができていくのは、もう少し先になるかなと思います。今いるメンバーの中で少しずつ良くなってきている感覚はありますが、試合をこなしていきながらじゃないとこういうのは掴んでいけるものではないので。1試合1試合を勝ちながら、どれだけ自分たちにとってのいい経験にしていけるかが大事かなと思います」

 今シーズンの琉球において、現在インジュアリーリストに登録されているアレックス・カークを除けば、主力の中でただ一人の新加入選手であるロー。チームメートと互いのプレーの特徴に対する理解を深めていけば、より良いシュートシチュエーションが増え、3Pの試投数、成功率ともに向上していく可能性は十分にある。チームに与える影響力が極めて大きい選手なだけに、今後の琉球の成績を占う上で、どこまでフィットできるかは常に注目したいポイントだ。

(長嶺 真輝)

©Basketball News 2for1

関連記事

Twitterで最新情報をゲット!

おすすめの記事