琉球ゴールデンキングス“大黒柱”ジャック・クーリーの復活がアレン・ダーラムにもたらす「恩恵」とは
富山グラウジーズ戦で復帰後、笑顔を見せる琉球ゴールデンキングスのジャック・クーリー©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 Bリーグ1部・西地区の琉球ゴールデンキングスに“大黒柱”が帰ってきた。

 10月28、29の両日に沖縄アリーナであった富山グラウジーズ戦、開幕前に発症した右膝蓋靭帯炎の影響で戦線を離脱していたジャック・クーリーが復活した。1戦目はわずか17分34秒の出場で18得点、12リバウンドのダブルダブルを記録。2戦目も18分59秒で14得点、7リバウンドと存在感を示し、チームの2連勝に貢献した。

 計3シーズンでリーグのリバウンド王に輝いたクーリーの復活は、初の2連覇を狙う琉球にとって極めて大きな出来事だ。オフェンスリバウンドを取ってくれるという安心感はチームメートのシュート成功率の向上につながるのは間違いない。本人やチームメートらの言葉から、クーリーの存在意義を改めて考える。

“ゴール”の設定でスムーズに復帰「トレーナーに感謝」

 「Oh man..」。第1戦の試合終了後、コート中央でマイクを握ったクーリー。少し感極まったように言葉を詰まらせた後、復帰の喜びを語った。

 「キングスファンの皆さん、ありがとうございます。皆さんが恋しかった。チームメートと一緒に、皆さんの前でプレーできることは本当にうれしいです。この後も一丸となって素晴らしいプレーをして、皆さんと一緒に勝利をつかみたいと思います。今シーズンもよろしくお願いします」

 この試合でクーリーが初めてコートに立ったのは、2点ビハインドだった第1Q残り5分16秒の場面。相手のフリースローが落ちて早速リバウンドを記録すると、その後の攻撃ではオフェンスリバウドをもぎ取り、ファウルを受けながらシュートをねじ込んだ。2戦を通じてリバウンドやダイブからの味方との合わせなどしっかりと持ち味を発揮した。

 今回、クーリーが右膝蓋靭帯炎でインジュアリーリストに登録された期間は9月11日から10月24日まで。当初「全治未定」と診断されこともあり、復帰までの道のりは簡単なものではなかったという。桶谷大HCが振り返る。

 「どこがゴールかというのが見えにくかったです。ジャック(クーリー)の膝の痛み具合によってワークアウトがどれぐらいできるのかという判断も難しく、本人のモチベーションがなかなか上がらなかった。そこで、開幕から2週間くらい経ったタイミングで『もうゴールを決めよう』ということで、富山戦までにやることを逆算して決めました。そこからはモチベーションが上がり、スムーズに復帰までいきましたね」

 本人とトレーナー陣がいかに密にコミュニケーションを取りながら復帰に向けて一丸で取り組んできたかは、クーリーの言葉にも垣間見える。

 「トレーナー陣が常にコミュニケーションを取って復帰のスケジュールを組み立ててくれたので、スムーズに復帰することができました。トレーナーにはとても感謝しています。今日また戻ってこれて本当にうれしいです」

 コンディションの自己採点はまだ「75点」というが、「状態は上がってきている」といい感触をつかんでいるよう。今後に向けて「去年の状態が自分の中でベストだと思っているので、そこにまた近づけるようにしたい。あとはチームに貢献することを心がけていきたいです」と意気込んだ。

琉球ゴールデンキングスのジャック・クーリー
ゴール下で奮闘するクーリー(中央)©Basketball News 2for1

2P成功率の低かったダーラム “4番”で支配力増す

 クーリーの復活は、当然他の選手に与える影響も極めて大きい。今シーズン、ガードとしてゲームコントロールを担う場面が増えている牧隼利はこう見る。

 「一番大きな要素は、オフェンス、ディフェンス両方でのリバウンド。特にオフェンスでは他の選手が思い切ってシュートを打つことができます。あと、ジャックはポストアップして1対1を仕掛けるというよりは、ボールが動いている流れの中で彼にいい位置でボールを持たすことができれば、リーグで彼にかなう者はいないと思う。彼が持つゴール下の強みはチームにとってとても大きいと思います」

 外のシュートについては主にガード、フォワード陣に好影響が及ぶ点だが、インサイド陣に与える影響も見逃せない。桶谷HCが「ダーラムのところがすごく楽になる」と言ったように、特に大きな恩恵を受けるのはアレン・ダーラムである。どういうことか。指揮官が説明する。

 「ダーラムが4番をできるようになったことが大きい。ジャックがいない間はダーラムが5番をやらないといけない時間帯が増えていました。4番だとマッチアップする相手のサイズが小さくなるので、アタックしやすくなる。今シーズンは2点の成功率が低かったのですが、そこを上げていくためには4番でプレーする時間を増やしていかないとと思っています」

 確かに、現在インジュアリーリストに登録されているヴィック・ローがロスターに入っている時、ダーラムは5番で出ることも多かった。桶谷HCの指摘通り、2P成功率は琉球に加入してからの直近2シーズンは57.3%、56.0%と高確率で推移していたが、今シーズンはこれまで48.7%と低迷している。ただ、富山との2戦は60.0%、57.1%と本来の姿を取り戻した印象だ。

 第2戦終了後、ダーラムも「ジャックが戻ったことで、チャンピオンシップ進出に向けてピースが揃った。復帰を楽しみにしていました。今後、彼の存在はチームにいい効果をもたらすと思います」と語り、クーリーがチームに与える影響の大きさを強調していた。

クーリーの復帰でアレン・ダーラム(左)も快適にプレー©Basketball News 2for1

小野寺祥太とのルーティンも復活「気持ち昂る」

 桶谷HCはクーリーの存在がディフェンス面でも好影響を及ぼすと指摘する。富山との2戦目終了後のコメントだ。

 「ジャックが入ることでディフェンスのエナジーがめちゃくちゃ上がりました。外国人選手は3人いる状態で初めてインテンシティが保てる。25分から30分出ないといけないというマインドだとディフェンスをやらない時間帯が出ちゃうけど、そういう意識もなくなりました」

 ダーラムについては今シーズン、若干ディフェンスの強度が低い試合も散見されていたが、富山戦はいずれも厳しく当たり、その選手が出ている時間帯の得点差を表す「+/−」は第1戦から順に+35、+16と高い数値を示した。

 また、ファンにとっては嬉しいシーンも戻ってきた。クーリーと小野寺祥太が試合前に必ず行うルーティンである。コート中央で全員が円陣を組んだ後、ジャンプしながら交差してハイタッチをする2人の姿がファンの気持ちを昂らせていることは間違いない。小野寺本人も「気持ち的にテンションが上がる」という。

 クーリーの復活でチームに“芯”が通った琉球。今シーズンのチームを構築していく上で、ここが本当のスタートと言えるかもしれない。

(長嶺 真輝)

お馴染みのルーティーンも戻ってきた©Basketball News 2for1

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