昨シーズンのBリーグ王者、琉球ゴールデンキングスに開幕前から試練が訪れている。
大黒柱のジャック・クーリーとW杯日本代表候補だった渡邉飛勇がインジュアリーリストに登録。守備職人の小野寺祥太も群馬クレインサンダーズ、台北富邦ブレーブスと行ったプレシーズンゲームの全4試合を欠場した。エースとしての活躍が期待される今村佳太もアジア大会の代表チームに招集されており、複数の主力が不在のまま、10月5日に佐賀バルーナーズとSAGAアリーナで行う開幕戦に突入する見通しだ。
一方で、この現状は植松義也や契約したばかりの荒川颯など、まだ経験の浅い選手たちにとってはチャンスでもある。両選手ともプレシーズンゲームでは多くの出場時間を獲得し、存在をアピールしていた。
中でも今シーズン、琉球にとって大きな“伸びしろ”であるアジア特別枠のカール・タマヨはフィット感を高める時期にしたいところだ。オフにコーチとして琉球に戻ってきたアンソニー・マクヘンリーACが「先生」(桶谷大HC)となり、付きっきりで指導していることからも、チームから受ける期待の高さがうかがえる。
“二人三脚”で成長を タマヨは「遂行力の高い時はいいバスケ」
まだ22歳ながら、202cm、97kgの体格でフィリピンの至宝と称されるタマヨ。今年1月に入団したが、琉球のスペーシングやボールムーブメントを重視するオフェンスにフィットできず、昨シーズンはローテーションに定着することはできなかった。
ただ今季は、クーリーの離脱後にアレックス・カークを獲得したものの、渡邊の不在やジョシュ・ダンカンの退団により、現状では高さやインサイドの重量感において昨シーズンを下回る琉球。初戦で戦う佐賀が208cmのジョシュ・ハレルソンを帰化選手登録するなどサイズのあるチームも多いため、タマヨの成長は2連覇を狙う上で不可欠な要素となる。
プレシーズンゲームでは主に3〜4番で出場し、24日の台湾富邦戦ではスムーズなボール回しからコーナーでキャッチ&シュートの3Pを決めたりして、チームオフェンスで得点する場面が見られた。ただ、まだポジショニングやドリブルを突く場面など、チームでやりたいオフェンスとは異なる動きをすることもあり、依然として課題は多い。
試合後、桶谷HCは「3ビッグをしないといけない場面も出てくるので、カールをいかに成長させるかが重要。ボールムーブメントの中で、彼が遂行力を高くプレーした時はいいバスケができています。ただ、途中で1対1をやりだしたり、いてはいけないスペースにいることがまだまだある。それだとチームの流れが崩れてしまうので、その辺りを修正し、もっと成長を促したいです」と今後を見通した。
先述のようにマクヘンリーACが指導役となっており、指揮官は「カールの先生はマクヘンリー。彼に『頼んだぞ』と話したら『頑張ります』と言っていたので、二人三脚で頑張ってほしいです」と期待する。マクヘンリーACはタマヨと同じ身長202cmでサイズ感が似ており、現役の頃は視野の広さを生かしてゲームコントロールにも長けていたため、「先生」としては正に適任と言えるだろう。
17日の群馬戦後、タマヨも「今シーズンは早くチームに合流し、体づくりのトレーニングからスタートできて、さらに良いシーズンを送りたいと思っているので、チームに貢献できるように頑張ります」とコメントしており、気合十分。琉球の礎を築いた“レジェンド”からチームで戦うための動きやスキル、メンタルを学び、ローテーションの一角に定着したい。
スペーシング重視のバスケ「より楽しい」カーク
タマヨと同様に、カークも開幕からキーマンになる。平均12.7本で自身3度目のリバウンド王を獲得したクーリーが不在の中、琉球にとって最大の強みであるインサイドにどれだけ厚みを持たせることができるか注目だ。
チームに合流してからまだ2週間ほどだが、コンディションも徐々に上がってきており、24日の試合では211cmの高さを生かしたリバウンドやゴール下での得点で存在感を発揮。桶谷HCも「試合のクロージングでしんどくなったら(ヴィック)ローを入れようと思っていたけど、最後までアレックスでいけたので、状態は上がってきていると思います」と評価していた。
6シーズンに渡ってアルバルク東京でプレーし、琉球はBリーグで自身2チーム目となる。A東京と琉球の戦術の違いについて聞くと、「スペーシング」を軸にこんな答えが返ってきた。
「キングスには多くの自由とスペースがあり、それぞれの選手が強みを発揮するエリアがあります。システムプレーは多くありません。1人、2人の選手だけがシュートを打つのではなく、全員が得点する機会を多く作り出せると思います。それはとても楽しいと感じます」
スクリーンやハンドオフで味方のオフェンスをフォローする動きを得意とするカール。指揮官が「まわりの選手もやりやすそうにしています」と語る通り、チームオフェンスを優先できる選手なため、個に依存し過ぎない琉球のスタイルと相性がいいのだろう。
チームの雰囲気についても「コート上に限らず、試合後にも選手同士が会話を楽しんでいる。全員が親しくしてくれるので、とてもやりやすいです」と笑顔で語り、居心地の良さを感じているようだ。クーリー不在の間、自身の持ち味を生かして琉球の勝利に貢献したい。
荒川颯は“うれしい”誤算
その他、7月から琉球の練習生として活動し、今月22日に契約を勝ち取った荒川はチームにとって“うれしい”誤算と言える。桶谷HCが「今村がいない分、ハンドラーのところで颯がどれだけできるかなと思っていたけど、いい感じです。今日(24日の試合)は彼が一番まわりが見えていたし、ゲームをつくっていた。これを毎回できるなら、チームにとって上積みになる」と高評価を語ったことが、それを示している。
まだ開幕前ではあるが、複数の主力が不在の現状が個々の成長期間となっている琉球。アレン・ダーラムは“その先”も見据え、こう語る。
「今村やクーリーが不在で、大きな穴がある状態で試合に臨んでいます。それでも今できることに注力し、彼らが戻ってきた時により良いケミストリーを生めるように取り組みたいです」
開幕当初は連係の構築に苦しみながらも、シーズンが進むごとにチーム力が向上し、最終的に頂点まで駆け上がった昨季のように「シーズンでどんどん強くなって、CSに入った時に一番強いチームになる」(桶谷HC)ことを掲げる琉球。完全体で新シーズンを迎えることは難しいが、開幕後にどのような変貌を遂げていくのか。その過程を今から楽しみにしているファンも多いはずだ。
(長嶺 真輝)