「全勝」続く琉球ゴールデンキングス なぜ相手よりターンオーバー“2倍以上”でも勝てるのか
ソウルSKナイツ戦でプレーする琉球ゴールデンキングスの今村佳太©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 昨シーズンのBリーグ王者である琉球ゴールデンキングスが好調なスタートダッシュを見せている。

 今季からB1に昇格した佐賀バルーナーズとの第1節、ジョシュ・ホーキンソン田中大貴らを獲得して大型補強に成功したサンロッカーズ渋谷との第2節をいずれも連勝し、開幕から4戦全勝。18日に沖縄アリーナであった東アジアスーパーリーグ(EASL)2023-24シーズンの初戦となるソウルSKナイツ(韓国KBL)戦も80-79で接戦を制し、こちらも白星先行となった。

 ただ、一つ気になる数字がある。ターンオーバーの数である。直近2試合を見ると、84ー82で勝利した15日のSR渋谷戦は相手がわずか 「2」だったのに対し、琉球は「17」。ソウル戦も相手の「7」に対し、ちょうど2倍の「14」に上った。

 これだけ差があると負けてもおかしくないように見えるが、いずれの試合も我慢して接戦に持ち込み、最後はヴィック・ローのクラッチシュートで白星をさらった琉球。なぜ、ターンオーバー数が相手を大きく上回っても勝ち切れるのかー。

ソウルエースが39得点も粘り勝ち

 まずは直近のソウル戦から振り返る。

 ソウルは元韓国代表ポイントガードのキム・スンヒョンを欠いていたこともあり、得点力の高いセンターのジャミール・ワーニーにボールを集める。それに対し、琉球は前半こそアレックス・カークとのスピードのミスマッチを突かれるなどして得点を次々と決められるが、逆サイドのガード陣がトラップを仕掛けてボールを離させたり、ドライブできるコースを消して外から打たせたりして徐々に勢いを削った。

 1点ビハインドで迎えた後半は40分間フル出場したワーニーに疲労の色が見え始め、前半の本数で相手を下回ったリバウンドで優位に立てるように。琉球はハンドラーが相手のガード陣に激しいプレッシャーを仕掛けられて度々スティールから速攻を許したが、ドライブからのキックアウトでフリーを演出するなどして要所で3Pを決め、シーソーゲームとなった。

 第4Q残り1分3秒で牧隼利が左コーナーから3Pを沈めて77ー76と逆転。バスケットカウントワンスローを決められて77ー79と再逆転されたが、最後のオフェンスでローがドライブを仕掛けてファウルを受けながらレイアップを決め切り、ボーナスのフリースローも沈めて80ー79とし、そのまま逃げ切った。

常に4〜6人が“二桁得点” ボールシェア徹底

 ソウルは39得点を挙げたワーニーただ一人が二桁得点だったが、琉球は今村佳太が18点、ローが14点、カークが13点、松脇圭志が11点、牧隼利が10点と5人が二桁に乗せた。チーム全体のアシスト数は琉球が相手を3本上回る17本に達し、コート上の5人がパスを回しながらいかにバランスのいい攻撃をしたかが分かる。試合後会見に出席したローはこう振り返った。

 「ワーニー選手は脱帽するほど素晴らしい選手だったけど、ソウルは彼が33本のシュート(チーム全体は69本)を打ち、次に多い選手が11本。自分たちはどこからでもチームに対して貢献できる選手がいて、アシストも17本ありました。僕も自分自身の得点が少なくても、いかに勝利に貢献できるかが大事だと思ってプレーをしています」

 BリーグとEASLを合わせてこれまでに行った今シーズンの5試合は、二桁得点を挙げた人数は6人が1試合、5人が3試合、4人が1試合となっている琉球。大黒柱のジャック・クーリーが負傷離脱しているが、昨シーズンからほとんどの主力が残留し、新加入のローやカークもチームプレーを優先する選手なため、シーズン序盤で既にチームの身上である“ボールシェア”が徹底されている印象だ。

 試合によって今村やアレン・ダーラム、今季著しく成長しているカール・タマヨらがベンチスタートの時もあり、優勝した昨季に続いて相変わらず層も厚い。

決勝点を決めたヴィック・ロー©Basketball News 2for1

高い3P成功率 桶谷HC「タッチしているからリズムがいい」

 各選手がボールを触りながらバランス良くシュートを放つと、当然相手からしたらディフェンスの焦点を絞りにくいため守りづらいが、他にも良い効果が生まれる。ソウル戦後の「ターンオーバーが多い中で勝ち切れる要因は何か?」という質問に対する桶谷大HCの答えに、その要素が含まれている。

 「(相手に比べて)僕らの方がチームバスケットをしていてボールがよく動いています。パスが多くなるとどうしてもターンオーバーが増えるけど、ボールをシェアすることでみんながボールをタッチしているから、リズム良くシュートが打てる。アイソレーション(1対1の状況を作る戦術)や、そこからのワンパスでシュートを打つチームとはリズムの部分は違うかなと思います」

 絶対ではないが、ボールを頻繁に触る選手とたまにしか触らない選手では、シュートタッチの精度に差がつくことは往々にしてある。その点、琉球のオフェンスは人も動きながらボールをシェアして攻めるため、いい感覚が保ちやすいということだろう。

 実際、接戦を勝ち切った直近の2試合のフィールドゴール成功率を見ると、SR渋谷戦は相手が43.8%なのに対し55.6%、ソウル戦は相手が44.9%なのに対し46.2%といずれも上回った。特により繊細なシュート感覚が求められる3Pの成功率はSR渋谷が28.0%なのに対し45.0%、ソウルが17.3%なのに対し34.3%と大きく差を付けている。

 華麗なボールムーブメントからフリーの場面を演出し、より良いシチュエーションでシュートを打つことを追求しているため、成功率は自ずと上がってくる。ターンオーバー数が相手を大きく上回っても勝ち切れる要因は堅守や積極的なリバウンドなども含めて当然一つではないが、このシュート成功率の高さこそが最大の理由なのではないだろうか。

記者会見で語る桶谷大HC©Basketball News 2for1

ヴィック・ロー「目を背けずに次につなげる」

 一方で、チームはターンオーバーの多さを楽観視しているわけではない。ローのコメントだ。

 「見ている側からするとエキサイティングなゲームだったかもしれませんが、プレーする立場としてはこのようなシチュエーションにする必要はなかったと思っています。チームとしてターンオーバーが多かった。そういう部分から目を背けずに、試合から学べることを受け止め、また次につなげられるように頑張っていく必要があります」

 この2試合では今村や岸本、牧らハンドラーのターンオーバーが特に目立った。まだシーズン序盤で連係の熟度が深まっていく途上にあるため、パス回しでスティールされることもある。ただボールコントロールの段階でプレッシャーを掛けられてボールを失う場面も多いため、より安定感を高めたいところだ。

 桶谷HCが言う。「相手にやられていることに対する答えを見付けて、試合の中でどんどんクリアしていくのが僕たちのスタイル。ゲームに入ったら、やりながら修正していかないといけないので」。次節は21、22の両日にアウェーに乗り込み、河村勇輝を擁する横浜ビー・コルセアーズと対戦する琉球。EASLも含め過密なスケジュールを戦いながらいかに課題をクリアし、どこまで連勝を伸ばしていくことができるのか。2連覇を狙う王者の戦いぶりに注目だ。

(長嶺 真輝)

2連覇を狙う王者の戦いぶりに注目だ©Basketball News 2for1

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