“泥臭さ”をまとった琉球ゴールデンキングスのカール・タマヨ 変化の原動力とは
佐賀戦で躍動した琉球ゴールデンキングスのカール・タマヨ©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 昨シーズンとはまるで見違えるようだった。ディフェンスでビッグマン相手に体を張り、味方がシュートを打つと見れば積極的にリバウンドへ飛び込む。オフェンスではボールムーブメントを重視するチームの戦術を理解し、コーナーで待ち構えて正確な3Pを射抜く。

 5日にSAGAアリーナで行われたBリーグの2023-24シーズン開幕戦、昨シーズン王者の琉球ゴールデンキングス佐賀バルーナーズを80ー63で破った試合を観ていれば、どの選手の事かピンとくる人も多いだろう。琉球のアジア特別枠選手、カール・タマヨである。

 身長202cmで高いスキルを備えることから「フィリピンの至宝」と称され、昨シーズン途中のに鳴り物入りで入団。大学卒業を待たずに日本でプロデビューを果たしたが、個人技で打開しようとする傾向が強く、琉球のオフェンススタイルにフィットできず。ディフェンスの強度も不足し、チームが初優勝を飾る一方で、自身はローテーションに定着することはできなかった。

 しかし、スターティング5に名を連ねた佐賀との開幕戦ではプレーに“泥臭さ”が生まれ、出場時間は琉球に入団して以降では最長となる30分12秒。プレー面だけでなく、周囲に大声で指示を出す姿も見られ、仕草や表情からは自信の深さもうかがえた。

 劇的な変化をもたらした要因は何だったのかー。

放った3P4本を全て成功 ハレルソンをブロックも

 試合開始から約3分半、初めの見せ場が訪れる。岸本がアーリーオフェンスで左サイドから中央にドライブを仕掛け、相手ディフェンスが収縮した瞬間に左コーナーで待ち構えていたタマヨにキックアウト。迷わずキャッチ&シュートで3Pを放ち、ネットを揺らした。

 タマヨはこの試合で放った4本の3Pを全て成功。第2Q中盤では24秒オーバータイムぎりぎりで中央から、第3Q序盤には速攻の流れのまま中央から射抜いた。4本目は1本目のようなシチュエーションで右コーナーから決めた。

 桶谷大HC「(タマヨのマークマンが)かなりオーバーヘルプに来ていたから、タマヨにボールが来た時にしっかり仕留めることができたのはチームにとって大きかったです」と振り返る通り、佐賀は岸本や松脇というシューターをより警戒し、タマヨに対してはそこまで厳しくチェックに行っていなかった。そのため、タマヨが100%で3Pを決め切ったことは佐賀にとって想定外だっただろう。

 ディフェンスにおいてもタマヨの貢献は大きかった。

 佐賀は208cmのジョシュ・ハレルソンがオフに帰化したこともあり、ビッグラインナップの時間帯が長く、タマヨがハレルソンとマッチアップする場面が多かった。ポジション取りの時点でゴール下まで押し込まれるシーンもありはしたが、自身より身長で6cm、体重で28kg上回るハレルソンに対して終始体を張り、第3Qでは素早いカバーから見事なブロックを披露。第4Q終盤の追い上げられた時間帯では、日本人ビッグマンの満原優樹に対して激しいプレッシャーを仕掛け、アンスポーツマンライクファウルを誘って悪い流れを断ち切った。

 最終的なスタッツは15得点、5リバウンド、2アシスト、2ブロックで、全てキャリアハイを記録。ターンオーバーはゼロ。その選手が出場していた時間帯のチーム全体の得失点差を表す「+/−」(プラスマイナス)は「14」に達した。

15得点5リバウンドと攻守で貢献©Basketball News 2for1

オフに積み上げた“自信” 「Mr.ミヤギ」の教えを力に

 攻守に存在感を発揮したタマヨ。試合後の会見では、3Pを完璧に決め切れた要因について聞かれると、「今日の試合に関してはディフェンスからいい流れをつくり、自分の3Pに繋げることができました。桶谷HCからはオフェンスの内容に関係なく、ディフェンスを常にハードにするように言われています。ワークアウトも含め、常にハードにプレーすることを心掛けているので、結果に繋がって良かったです」と納得の表情を浮かべた。

 出場機会が限られていた昨シーズンについては「非常にタフなシーズンで、怪我も含め、うまくいかない時期が多かった印象があります」と振り返る。その悔しさをバネに、母国フィリピン、そして沖縄でワールドカップが開かれていたオフシーズンには、「先生」役であるアンソニー・マクヘンリーACと二人三脚でワークアウトに取り組んできた。

 昨シーズンまで一線でプレーしていた、琉球の「永久欠番」であるマクヘンリーACからの指導で学びになっている部分を聞くと、こう答えた。

 「昨年まで現役でプレーしていたマクヘンリーのようなコーチから学べることは非常にうれしく思っています。映像であったり、コート上でアドバイスを求めたりしています。“コーチマック”を含め、ACの2人からのアドバイスはチームでの自分の役割を探すという意味で非常に役立っています」

 試合直後のコート上では、岸本がマクヘンリーACの下に駆け寄り、満面の笑みを浮かべながら「Mr.ミヤギ!」と呼び掛け、メンバーを笑顔にする場面が見られた。「Mr.ミヤギ」とは1980年代に大ヒットした映画「ベスト・キッド」で、師匠として主人公を鍛える空手の達人のキャラクターである。タマヨとマクヘンリーACの師弟コンビは、チームメートからも頼もしく映っているようだ。

アンソニー・マクヘンリーAC(左)からの学びも多いと語る©Basketball News 2for1

クーリー、今村、渡邉との融合は…

 開幕戦で白星を飾り、2連覇に向けて好発信を切った琉球。ただ、現状では大黒柱のジャック・クーリーとW杯の日本代表候補だった渡邉飛勇の2人のビッグマンを負傷で欠き、日本代表としてアジア大会に出場した今村佳太も不在の状態でのスタートとなった。

 高さや得点力、ディフェンス力など、不安要素も多い中でのタマヨの覚醒は、チームにとって極めて大きな収穫になったことは言うまでもない。タマヨの活躍を「僕がめちゃめちゃ喜んでいた」という岸本は、こう言った。

 「カールの活躍はいろんな人を巻き込み、チームがいい雰囲気になる要素になる。そういうゲームになったことは、本人としてもすごく良かったんじゃないかと思います」

 チーム最年少の22歳で、まだまだ伸びしろがあるタマヨ。今後さらにフィット感を高め、クーリー、渡邉、今村が合流した時、どのような融合を見せるのか。琉球ファンのワクワク感を増大させるには、十分な内容の開幕戦となった。

(長嶺 真輝)

連覇に向けて好スタートを切った琉球ゴールデンキングス©Basketball News 2for1

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