過密日程でも西地区2位 琉球ゴールデンキングスを支える「優秀」な“スカウティングチーム”の力 
琉球ゴールデンキングスが誇る優秀なコーチ陣©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 Bリーグ西地区の琉球ゴールデンキングスは11、12の両日、沖縄アリーナに同地区のライバルである島根スサノオマジックを迎え、80ー77、91ー84で連勝した。

 昨季もレギュラーシーズンの最終盤まで激しい西地区優勝争いを演じた両雄の対決だけあって、終盤まで接戦が続いたが、いずれの試合も第4Q最終盤に岸本隆一が勝負を決めるディープスリーをねじ込み、琉球が競り勝った。

 この結果を受け、琉球は序盤戦の14試合を終えて11勝3敗と西地区2位につけている。アウェー戦が9試合を占めたことに加え、昨シーズン王者として参戦している東アジアスーパーリーグ(EASL)の試合も沖縄と韓国で2試合実施したことから「水曜ゲーム」は既に4回を数え、過密日程を戦ってきた。さらにジャック・クーリーと渡邉飛勇が開幕前の負傷で戦列復帰が遅れたことも踏まえると、8チーム中6チームが勝率5割を超える激戦の西地区で2位は上々の成績と言えるだろう。

 その要因の一つに挙げられるのが、桶谷大HC「優秀です」と断言するスカウティングチームの存在だ。厳しいスケジュールの中で、どのように相手チームの分析を行い、戦い方に反映させていっているのか。チームを支えるスカウティングチームの“力”にスポットライトを当てる。

小野寺が守備で躍動 ビュフォードが+/−で「−7」

 島根との第2戦。琉球は44ー43の1点リードで迎えた第3Qに抜け出した。今村佳太アレン・ダーラムらが内外から得点を重ね、最大14点まで点差を拡大。オフェンスに流れをもたらした最大の功労者は、守備職人の小野寺祥太である。

 このクオーターの開始約2分で、今節から復帰した島根の絶対的エース、ペリン・ビュフォードにマッチアップしていた今村がファウル三つとなり、代わって小野寺がついた。身長では16cmの差があるが、ビュフォードが得意とするドライブのコースを巧みに消し、持ち味のフットワークを生かしてしつこくプレッシャーを掛け続けた。結果、ビュフォードはフル出場した第3Qでわずか2得点しか挙げられなかった。

島根スサノオマジックのぺリン・ビュフォード(右)にプレッシャーをかけ続けた©Basketball News 2for1

 第4Qはビュフォードと安藤誓哉という二大エースに得点を重ねられて一時1点差まで詰め寄られたが、逃げ切った琉球。最終スタッツにおいて、その選手が出場している時間帯の得失点差を示す「+/−」で、この試合21得点、10リバウド、13アシストのトリプルダブルを達成したビュフォードは「−7」、安藤は「−9」だった。それを念頭に、逆に琉球でトップの「+20」という数字を残した小野寺はこう振り返った。

 「スカウティングの細かい部分の話になりますが、安藤選手は外のシュートが得意で、そこに対してビッグマンを通じてしっかりピックアップで捉えることを意識しました。ビュフォード選手は安藤選手と違ってアタックが得意なので、間合いを取りながら3Pを打たせたり、苦しい2Pを打たせたりすることができました。40分間、メーンの2人をチームとしてうまく守れたと思います」

会見で記者の質問に答える小野寺祥太©Basketball News 2for1

タフな日程を「スタンダード」に

 小野寺の言葉に出てきた「スカウティング」は、今季の琉球のような過密日程を戦うチームにとってはより重要度が増すことは間違いない。10月3週目からEASLの試合が入ってきたこともあり、4週連続で水曜ゲームを戦い、長期に渡って中2日のみで試合をこなしてきた。

 以下は序盤戦の評価を問われた際の桶谷HCのコメントだ。

 「まだ序盤なので、チーム力はまだまだ上がる自信があります。負ける時は点差がどんどん開いて、自分たちで自滅していってしまう。そういう時に何が起きているかというと、スカウティングがバチッとハマってない、選手たちもエクスキューション(戦術の遂行)できてない、アジャストメントしようとしてもうまくいかないという泥沼に入っていっている。最初の筋がぶれると、そういうゲームになってしまいます」

 さらに続けた。

 「水曜ゲームがあって、めちゃくちゃタフなスケジュールの中でスカウティングチームも選手も遂行すべき戦術を覚えないといけない。難しいかもしれないですけど、これがスタンダードになっていないと僕らは戦っていけない。その頭を使う部分は選手にも求めていきたいです」

 Bリーグだけでも当然チームごとに特色があるが、フィリピン、韓国、台湾、日本から計8チームが参戦しているEASLでは国ごとでの個性も極めて強い。試合間隔が短い中でも全員が相手チームや自分たちの戦術を理解していないと、「戦っていけない」という指摘は的を射ている。

桶谷大HC©Basketball News 2for1

森重ACと穂坂ACの“分担作業”

 そんな中、指揮官が重視しているのは「次のゲームに繋がる情報」である。

 「今日の試合の振り返りをやりますと言っても、その内容が次のゲームに繋がっていないと僕が却下される。『これは次の試合では起こらないです』と。情報量が多過ぎてもだめ。次に繋がるのであれば、昔の試合で出た課題を選手に見せることもあります。そういう意味では、目の前の試合を戦いながらちゃんと知的財産を残していっているのはチームとして大きいと思います」

 スカウティングに関しては、ほぼ休む間もなくゲームをこなしているため、試合が終わってから次戦の準備を始めていては間に合わない。そこで重要になってくるのが、森重貴裕ACと穂坂健祐ACらによる分担作業である。桶谷HCが説明してくれた。

 「その節ごとに森重ACと穂坂ACが交互にスカウティングを担当する。そこを(幸地)渉ACやマクヘンリーAC、平田(隆樹)アシスタントビデオコーディネーターらがヘルプする。みんな『いつ寝てんのかな』と思うくらいゲームを見ていて、僕のところに来る映像は既に必要な部分のみに編集されたものです。キングスのスカウティングチームは本当に優秀です」

 現在、琉球はアシスタントコーチだけで4人とリーグでも多い方だが、確かにこの日程を乗り切るためには必要な人員と言えるだろう。

(左から)森重貴裕AC、穂坂健祐AC、アンソニー・マクヘンリーAC、山下恵次PDC、キース・リチャードソンSC©Basketball News 2for1

マクヘンリーACの「プレーヤー経験」が上積み要素に

 また、このスカウティングチームに上積み要素をもたらしているのが、昨シーズンまで現役選手だったアンソニー・マクヘンリーACの存在だ。以下も指揮官の言葉である。

 「スカウティングチームがすごくいい情報を出してくる反面、プレーヤーとして見られるコーチが少ない。その中でマックは目線が全然違うから、『こういったところは選手として難しいよ』という感覚を持っている。だから僕らも『これどう?』と聞きやすい。選手とのずれをなくしてくれる一つのファクターになってくれていますね」

選手にとっても支えとなっているマクヘンリーAC(中央)©Basketball News 2for1

 情報を受け取る選手側も、スカウティングチームに対しては頼もしさを感じているようだ。小野寺は「ポイントを絞ってくれるからありがたいし、僕も相手を守りやすい。やってみてダメだった時も試合中にコーチ陣がすぐに修正してくれます」と信頼を寄せる。練習日が限られている選手たちもコート上で頻繁にハドルを組むことで、ゲーム中に修正やアジャストを繰り返しているという。

 15日にも沖縄アリーナでEASLの試合があり、フィリピンPBAのメラルコボルツと対戦する琉球。今シーズン初対戦の相手なだけに、今回も勝利を掴むためにスカウティングチームの“力”が強く求められることになりそうだ。

(長嶺 真輝)

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