シェーファーアヴィ幸樹(シーホース三河)をはじめとして近年、Bリーグに所属する選手の輩出も増えてきているユース組織『Tokyo Samurai』が9日、川崎市で“Tokyo Samurai Top 30 Showcase”を開催した。
今回で4年目となった同イベントには44名の選手が参加したが、Tokyo Samuraiの現役所属選手のほか、Bリーグでのプレー経験のある者も含めた同チームの「卒業生」や海外の大学やプロを目指す選手など、アメリカの大学でプレーする山﨑一渉(ラドフォード大)、ケイン・ロバーツ(ストーニーブルック大)、キシャーン・マクニール(セントフランシス大)、須藤タイレル拓(ノーザンイリノイ大)ら多彩な顔ぶれが集まり、午後から約6時間にわたって行われたミニゲームで汗を流した。
目次
石橋貴俊氏らBリーグ関係者も多数参加
Samuraiは元々、東京のセント・メリーズ・インターナショナルスクールを母体とし2014年に創設されたチームで、当初は両親のどちらかが日本以外にルーツを持つ面子が多かったものの、近年、海外での大学進学やプロリーグ入りを模索する者が増え、そういったバイレーシャル以外の選手の割合も大きくなっている。近年では国内の強豪大学や高校との練習試合も行っており、関係者との結びつきも強めている。
注目度の高さはバスケットボール界隈の関係者の数にも現れている。2022-23シーズン、Bリーグの指導者は10名ほど訪れ、その中には史上最高勝率を挙げた千葉ジェッツのジョン・パトリックヘッドコーチの顏もあった。その他、複数のゼネラルマネージャーや選手代理人らも選手たちのパフォーマンスを注視した。
元B3・八王子ビートレインズHCで来シーズンより同チームのアシスタントGMとなる石橋貴俊氏は当初、八王子のGMからSamuraiの存在知ったとのことだが、まだチームの2023-24シーズンの陣容が固まっていない状況で「あと数名、若くてある程度サイズがある選手がいないかな」という目的で訪問を決めたという。
とりわけ選手たちのどういった点に着目するかについて、石橋氏は「ディフェンスメンとボールを持っていないときの動き、しっかりボックスアウトをしているか、チームメートへの声掛け」などを挙げた。
「(日本の高校や大学の)有名選手たちはお金も高いので(笑)、隠れた逸材を探してというところですかね」
石橋氏はそう冗談めかしつつ、言葉を続けた。
「いわゆるエリートコースで、いい中学校、いい高校、いい大学というじゃない子もたくさんいると思うので、そういうような選手を見つけられたらなと思います」
OB・シェーファーアヴィ幸樹、盛り上がりに「嬉しく思う」
Showcaseには3月末に右ヒザ前十字靭帯断裂という重症を負い、今はリハビリに務めるシェーファーの姿もあった。現在、25歳のC/PFはSamuraiの初期メンバーで、U16日本代表との練習試合で当時、同チームのHCだったトーステン・ロイブル氏の目に留まり、後にワールドカップ(2019年の中国大会)やオリンピック(2021年の東京大会)にA代表の一員として出場するまでになった。この例がSamuraiの認知度を上げるのに大きく寄与している。
自身の在籍時の「知られざる存在」というところから多くの関係者の注目を集めるチームとなった現状に、シェーファーは目を細めた。
「僕とか、他のTokyo Samurai出身の選手が増えていますし、彼らが歴史を作ってどんどんその名前に価値をつけていて、そこについては僕も嬉しく思います」
シェーファーはShowcaseで繰り広げられる試合を眺めながら、全体の選手たちのレベルが上がっているとしつつ、高校時代の自身がそこに入ったとしたら「けちょんけちょん…まではいかないかもしれないですけど、ぜんぜん(活躍できない)と思います」と笑顔を浮かべた。
クリス・シーセン代表もレベルアップを実感
SamuraiでU18チームのヘッドコーチと代表を務めるクリス・シーセン氏も、全体のレベルが年々、上がってきていることに同意する。
「トップの選手たちのレベルが高かったのは以前もありましたが、下のレベルの選手たちとの差があったことは否めませんでした。しかし今年は、試合を見ていても接戦が多く、最後の数秒まで勝敗がわからない試合ばかりでした」
シーセン氏はそう述べ、Showcaseのように様々なバックグラウンドや能力のある選手同士がコートを共にする機会は、日本では稀であることを強調した。
「彼らのような若い選手たちにとっては自分たちが今どのような実力なのかを知ることができます。それに、アメリカの1部に所属する大学の選手やBリーグにいたことのある選手を相手にプレーができる機会など、どれだけあるでしょうか。我々の注力しているところはあくまで若い選手たち。彼等に少しだけ年上で強くて、速い相手とプレーさせてどれだけやれるかも見られますしね」
山﨑「頑張ることが先生のために」 恩師・佐藤久夫氏の言葉忘れず
今年のShowcaseには16歳の選手が最年少として参加。その他、17歳も数人いたが、そうした選手にとって「少しだけ年上で強くて速い」選手の1人となったのが、昨年からラドフォード大(米バージニア州)に進学している山﨑だった。
FIBAワールドカップとアジア大会へ向けて12日より始まる日本代表チームの第1次合宿にディフェロップメントメンバーとして加わる山﨑は、同合宿前に身体を動かしておきたいという理由もあってShowcaseに参加した。
前日に仙台大学付属明成高校の名将で山﨑にとっては成長を後押ししてくれた大恩人である佐藤久夫氏が逝去したことで、彼の参加もあるいはないのではないかとも思われた。山﨑自身も「アメリカで頑張ってこいよ」と力強く握手してくれた佐藤氏の訃報に接し「メンタル的にきつくて」と吐露したが、参加を決めたのはそうすることこそが佐藤氏が求めることだと考えたからだった。
「代表のキャンプもありますし、これからもアメリカでやってNBA選手になるためにやっている中で、先生なら『やれ』って言うはずなので。前に進むことが、自分が頑張ることが先生のためになると思ったからです」(山﨑)
今回のShowcaseでは初めて、イベントの冒頭で測定も行い、各選手の身長、体重、ウィングスパン、垂直跳び、スプリント(サイドライン間の4分の3の距離のタイム)、レーンアジリティ(コーンを置いて縦、横、後ろへの動きを入れながらのタイム)、シューティング(5か所から5本ずつを放つ)の数値を測っている。
山﨑は参加者の中で最長身(199cm)、体重(97kg)も全体で2番目だったが、アメリカに渡ってからのウェイトトレーニングの成果もありこの1年で体重を約10kg増量した19歳のプレーの力強さと迫力は、Showcaseの中で群を抜いていた。
「シーズンが終わってから少し体が落ちてきているところもあったんですけど、日本に帰ってきてワークアウトとトレーニングを徐々にやっていきながら、代表の活動に標準を合わせてやっていたので、少しずついい感じになっています」(山﨑)
日本人選手のアメリカ挑戦への架け橋に
山﨑がSamuraiに所属したことはないものの、多くの点で日本とは異なる環境のアメリカの大学について、彼の明成高でのチームメートのブルース菅野(米アイオワ州・エルスワース短大)に様々なアドバイスを送ったのがシーセンで、ラドフォード大と山﨑を繋げたのも彼だった。
シーセンによれば、山﨑や菅野以外にも同様に助言を与えた日本人選手はいて、今後、アメリカの大学留学を希望する高校生などにも同じように相談に乗っているという。
山﨑の進学先選定は難航したとも言われるが、シーセン氏らSamuraiの持つ情報に助けられたと感謝しつつ、これから自身のようにアメリカへ渡ることを検討している選手たちにはこのチームを知っておくことのメリットをこう説いている。
「コロナのこともあったりしていつも以上にプレーを見てもらう機会がなくて、自分とブルースもそこで本当に苦労しました。本来ならアメリカに行って自分たちがプレーしているところを見てもらいたかったのですが、それができなくて。ですが(Samuraiは)いろんなコネクションを持っている人たちなので、そこでプレーをするというのは大きなことだと思います」
シェーファーも「英語も喋られない、コネクションも何もない日本人がアメリカに行くっていうのは簡単じゃないので、アメリカとの架け橋になっている」とSamuraiの価値についてそう語った。
ユース世代の試合や大会を運営するAAU(アマチュア・アスレティック・ユニオン)のチームでもあるSamuraiは毎夏、選抜チームをアメリカでのAAU大会に遠征させている。アメリカの大学へ進学する者にとってはコーチやスカウトらに直接見てもらえる機会となる。今年も6月下旬よりペンシルベニア州の複数の大会に参加することとなっている。
(永塚 和志)