8月25日に沖縄などで開幕するFIBA男子ワールドカップに向け、日本代表(FIBAランキング36位)は17日、東京の有明アリーナでフランス(同5位)と国際強化試合を行い、70-88で敗れた。アンゴラ戦で右足首に軽い捻挫を負ったSF渡邊雄太は欠場。代わりに帰化選手のCルーク・エヴァンスがロスターに入った。
敗戦したとはいえ、持ち味である3Pやトランジションからの速攻など「やりたいバスケ」は体現した日本。ディフェンスでもNBAトップ級センターのルディ・ゴベールらを擁するサイズのあるフランスに対し、激しく体を当て、素早いローテーションで対抗した。
試合後、トム・ホーバスHCは「負けたけど、みんな自信が上がった感じがします。できると思います。みんな信じています。楽しみです」とポジティブな言葉を重ね、不敵な笑みを浮かべた。13,009人という“真っ赤”な大観衆が見守る中、W杯開幕まで残り1週間のタイミングで、世界トップクラスの国と対戦するという貴重な機会で日本が示した可能性、そして反省点とは-。
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富永啓生が20得点 ホーキンソンがディフェンスで存在感
試合開始直後、ミスマッチとなっていたPG河村勇輝のところでフランスにポストアップから攻められたり、ゴベールに落ちたシュートを押し込まれたりして7連続得点を許す。
劣勢の中、積極的なプレーで日本を鼓舞したのは“海外組”のSG富永啓生とSG馬場雄大だ。河村からパスを受けた富永が正面から3Pを射抜くと、今後は馬場が左サイドから体を当てながらドライブを仕掛け、バックシュートを決める。その後、河村やPG富樫勇樹、SG比江島慎らも長距離砲を沈め、日本は前半だけで3Pを9本ヒット(成功率36.0%)させた。
ディフェンスもC川真田紘也が強烈なブロックを決めたほか、コート上の全員がボックスアウトに対する意識が高く、アンダーサイズの中で前半のリバウンド数は17対18とほぼ同等。攻守ともに善戦し、30ー35の僅差で折り返した。
後半に入るとフランスが再び突き放しにかかるが、またも富永が苦しい場面でディープスリーを決めたり、PF/Cジョシュ・ホーキンソンのブロックから河村がファウルを受けながらレイアップを沈めるなどして食らいつく。しかし、このクオーターの後半から徐々に日本のプレー強度や3P成功率が落ち、第4Qにかけて突き放された。
最終的な個人スタッツは、3P4本を決めた富永がチームトップの20得点、富樫が3P5本で15得点、3アシスト、比江島が3P2本を含む13得点、河村は7得点、5アシスト。ホーキンソンは7リバウンド、3スティール、1ブロックとディフェンスで存在感を示した。
ゴベールも称賛 “ハイペース”な展開に手応え
今回の試合でまず明確になったことは、日本のハイペースな展開が格上相手にも通用するということである。チームが前半にいいリズムで試合を展開できた要因について、馬場はこう語った。
「シュートを決められても、スローインを早くしてハイテンポ、ハイペースのバスケをしようというところで、最初はみんな体力もあって、いい展開に持ち込めた。そういうところは収穫かなと思います」
ファストブレイクでの得点は9対4、相手のターンオーバーからの得点も15対6と相手を上回り、素早いトランジションからのオフェンスが通用したことは数字にも表れた。馬場や比江島、河村は7フッター(約213cm以上の選手)が揃うフランスのインサイドにも臆することなくドライブを仕掛け、相手ディフェンスを収縮させてチームとしていい形での3Pにつなげた。
いずれもフランストップの16得点、9リバウンドを記録したゴベールも「日本は多くのシューターがいて、非常に速い。第1Qはタフだったけど、その後は相手のペースを落とし、フィジカルなプレーを増やすことができた。素晴らしい試合だった」と振り返り、日本にリスペクトを示した。2年前の強化試合で日本に75ー81で敗れたことについても触れ、「そのことは覚えてるし、多くを学んだ。自分たちは日本のことをよく知っている」と語った。
ホーキンソン、馬場、井上が3Pゼロ
一方、シュートセレクション自体は試合を通じてほぼ的確だったが、最終的な3P成功率は29.5%(44本中13本成功)に低迷。フリーで落とす場面が多く、ホーバスHCも「細かいことがちょっと足りない。シュートもパーセンテージが足りないです。ノーマークのシュートも練習中は入っています。試合中は入らない。これは直さないとダメだと思う」と苦言を呈した。
特に馬場、ホーキンソン、PF井上宗一郎は3人合わせて11本を放って成功はゼロ。ホーキンソンはBリーグで38%台の成功率を記録したシーズンもあるだけに、右股関節のケガ明けでシュートタッチがまだ戻っていないようだ。
試合後、ホーキンソンは自身のパフォーマンスについて「(復帰後は)フルコンタクトの練習を1回と前回のアンゴラ戦をプレーしただけなので、まだシューティングタッチを戻すのに思ったよりも時間がかかっています。練習ではよく決まっているし、自分がシュートを決められることは分かっているので、打ち続けるだけです」とコメント。得意なピック&ポップから3Pを放つ形はつくれているだけに、復活が待たれる。
富樫も「チームとして決めるべきシュートが決めきれなくて、フリーの3Pも半分以上外してしまった印象があります。ただジョシュもコンディションが徐々に良くなっているので、彼のピック&ポップからの3Pが決まり出してくると、もっと違うチームなってくると思います」と期待感を示す。
富樫勇樹が課題に挙げた「ファウルの使い方」
3Pのほかに、富樫が指摘した課題がもう一つある。「ファウルの使い方」である。
ペイント内での得点で22対44と圧倒された日本。サイズで大きな違いがあるため、この差はそこまで気にすることではないかもしれないが、プットバックダンクなどを除いて簡単にゴール下を決められる場面が多かったことは否めない。フランスはこの試合のフリースロー成功率が58.8%とそこまで高くなかったため、ファウルを使ってフリースローを打たせることも有効に使うべき手段だった。富樫が言う。
「あのサイズ差でインサイドを守るためには、もうちょっとうまくファウルは使えたんじゃないかなと感じます。相手がシュートに飛ぶ前にファウルをするとか、チームとしてうまくやっていかないといけないという話はハーフタイムでも出ていたので、そこはすごく反省点かなと思います」
この試合で相手に与えたフリースローは17本とそこまで多くはない。ただ日本のファウル数は3回以上だったのは河村、川真田、SF吉井裕鷹の3人のみで余裕が残されていた。本番で対戦するドイツ、フィンランド、オーストラリアもフランスと同様にサイズが大きいため、ファウルの使い方は十分に勝負の鍵を握るポイントの一つになり得るだろう。
最大の収穫は「経験」
世界トップクラスとの対戦でチームのスタイルが先鋭化され、ポジティブな要素と反省点が如実に表れたフランス戦は、本番に向けて大きな意味を持つ一戦になったことは間違いない。中でも最大の収穫は何か、と問われた富樫は「経験です」と断言した。その理由はこうだ。
「僕や比江島は、オリンピックや親善試合などでヨーロッパのチームと対戦した経験がありますが、河村や吉井という若い選手が本番前にこのレベルで試合をし、そのプレッシャーやサイズを相手にプレーできた。彼らもいろいろ感じている部分あると思うので、それが一番大きかったと思います」
富樫がいうように、前述の2人を含め富永や井上、川真田、SG西田優大ら若手は、このレベルに「慣れる」という作業が間違いなく本番で生きてくる。ここにエースの渡邊が戻り、コンディションが上がっていったら、本番で金星を挙げてくれるのでは、と感じた人も多かったのではないだろうか。19日のスロベニア戦でさらにチームを仕上げ、フランス戦で示した“可能性”を現実のものにしたい。
(長嶺 真輝)