【バスケW杯】「沖縄は“Great Success”」FIBAが称賛した理由 アジア、Bリーグ、沖縄への影響は…
カーボベルデ戦に勝利後、記念に写真を撮るバスケットボール男子日本代表©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 沖縄、フィリピン・マニラ、インドネシア・ジャカルタを舞台に、史上初めて複数国開催となった第19回FIBA男子ワールドカップ(以下、W杯)。日本の48年ぶりとなる五輪出場権の自力獲得や、初出場のラトビアの5位入賞、ドイツの初優勝など、大会前のFIBAランキングによるパワーバランスを覆すような結果も多く、多くの感動を生んだ17日間となった。

 日本の最終順位は19位。大会を終えて更新された最新のFIBAランキングでは、アジアの中でトップの26位に順位を上げた。優勝のドイツに続いた国は準優勝がセルビア、3位がカナダ、4位は米国だった。

 3カ国の会場を合わせ、推計で70万人超を集客した今回のW杯。中でも沖縄アリーナを舞台に予選ラウンドを行った沖縄会場について、FIBAは「Great Success(素晴らしい成功)」と称賛した。その理由とはー。

沖縄アリーナは連日大盛り上がりだった©Basketball News 2for1

 

沖縄アリーナの座席稼働率が85%

 1次ラウンドでは出場32カ国を八つのグループに分けてマニラで4グループ、沖縄で2グループ、ジャカルタで2グループがそれぞれリーグ戦を戦い、その後に各会場で2次ラウンド、17〜32位決定戦までを行った。期間は8月25日〜9月3日。

 先述の「Great Success」は、大会最終日の9月10日、決勝トーナメント会場のモール・オブ・アジア・アリーナ(フィリピン・マニラ)で3位決定戦前に記者会見を開いたFIBAのアンドレアス・ザグリス事務総長のコメントだ。冒頭の挨拶で、以下のような文脈で発せられた。

 「初めて3カ国での開催となった今回は素晴らしい大会となりました。(3位決定戦と決勝を残した段階で)観客は70万人を突破すると予想されています。各会場の平均稼働率で見ると、マニラは今夜の試合で最終的な数字が出ますが、沖縄は85%で大成功。ジャカルタは60%以上となりました」

 沖縄ラウンドは”ホーム”となる日本がいたことに加え、日本が入ったグループEは、今大会MVPに輝いたデニス・シュルーダーがけん引するドイツ、ジョシュ・ギディーやパティ・ミルズら多くのNBA選手がいるオーストラリア、ラウリ・マルカネンというNBAスターがいるフィンランドと極めてハイレベルな組になり、関心を呼んだ。さらにグループFに入ったスロベニアの世界的スーパースター、ルカ・ドンチッチも大きな集客効果を発揮した。

デニス・シュルーダー率いるドイツは沖縄ラウンドから勝ち進み優勝©Basketball News 2for1

 日本の試合は初戦のドイツ戦こそチケットをまとめて購入した法人が観戦に訪れず、一部で空席が目立ったが、その後は毎試合ほぼ満席に。テレビ朝日系で生中継された最終戦のカーボベルデ戦は平均世帯視聴率が22.9%(ビデオリサーチ調べ)に達し、2023年度のテレビ全局、全番組を通して最高の数字に達した。

 ザグリス氏も「テレビ放送ではいくつかの記録をつくりました。日本では大きな市場シェアを獲得し、日本対カーボベルデは今年国内で最も視聴されたスポーツ番組になりました」と誇らしげに紹介していた。

 今大会はFIBAのソーシャルメディアアカウントも大盛況となり、最終日の試合を前にインプレッションが2019年の中国大会のほぼ2倍となる100億回以上を達成。動画の再生回数も約3倍に伸びたという。

FIBAのアンドレアス・ザグリス事務総長©Basketball News 2for1

Bリーグは「世界でトップ5に…」 アジアの発展に寄与

 今大会に出場した32カ国のうち、9カ国は2019年の前回大会は出場していない国だった。さらに決勝トーナメントに進んだ8カ国は、米国とセルビア以外の6カ国が前回とは異なる面々となり、ベスト4に至っては全て違う国だった。

 ベスト8は欧州6カ国、アメリカ大陸2カ国でアジア、アフリカ、オセアニアの国は不在だったが、4年間で国のラインナップがここまで変化することは、世界的に様々な国で競技レベルが向上している証左の一つと言えよう。直近5シーズンのMVPがヤニス・アデトクンボ(ギリシャ)、ニコラ・ヨキッチ(セルビア)、ジョエル・エンビード(カメルーン)といずれも外国出身選手となるなど、多国籍化が進むNBAと同様な傾向だ。

 ザグリス氏はアフリカの5カ国が全て1次ラウンドで1勝を記録したことを例に挙げ、「私は(決勝トーナメントの)大陸の分布は見ていません。各国がどのように次のレベルに向かうかを注視しています。なので、アフリカの国々が1勝を挙げたことは重要なことなのです」と語り、バスケ後進地域でもレベルが底上げされていることを強調した。

 2大会続けてアジアで開催されたことを受け、「W杯がアジアに与えた影響は?」との質問も飛んだ。それに対する答えは以下だ。

 「(中国大会の後には)コロナ禍がありましたが、これからの2〜3年におけるアジア諸国の発展に影響を与えると思います。世界からこの地域に多く人を動員したため、バスケが非常に人気です。ですので、私はアジアの未来についてとても楽観的です。クラブの取り組みも良いと感じます。(フィリピンリーグの)PBAは今後数年でアップグレードするでしょう。Bリーグは世界でトップ10の一つになりつつあり、すぐに予算などの面で世界でトップ5に入る国内リーグになるかもしれません」

 欧州では各国リーグの強豪チームが国境を越えて対戦するリーグ戦が整備されており、互いのレベルを高め合う仕組みが確立している。アジアでも昨シーズンからFIBAが公認する「東アジアスーパーリーグ(EASL)」が始まるなど交流が加速化しており、地域全体でレベルが上がっていく未来を描けるかもしれない。

©Basketball News 2for1

“ホットスポット”沖縄 来年1月にはオールスターも

 Bリーグに関しては、今回劇的な勝利を重ねてパリ五輪の出場権を獲得した日本代表の結果が好影響をもたらすことは間違いない。代表に選出された12人のうち渡邊雄太、馬場雄大、富永啓生を除く9人はBリーガーであり、彼らの集客力は向上したはずだ。1年後のパリ五輪に向けて代表入りを狙う選手たちにとっては大きなモチベーションになり、競争意識の高まりで競技レベルが上がる効果も期待できる。

 最終戦翌日の今月3日に行われた記者会見に臨んだ主将の富樫勇樹「Bリーグができて来シーズンで8年目となり、以前と比べて日本のバスケ界は本当に変わったと思います。子供達が憧れるリーグになっている。代表についてもBリーグで活躍したら選ばれる。モチベーションも含めていい循環になったらいいと思う。日本バスケが発展できるように努力していきたいです」と手応えと展望を語っていた。

 より細分化して見ると、国内で開催地となった沖縄への影響も甚大だろう。沖縄は昨年12月に公開された映画「THE FIRST SLAM DUNK」の舞台の一つとなり、今年5月には琉球ゴールデンキングスがBリーグ初制覇を達成。今回のW杯では日本バスケ史に刻まれるであろう名場面が生まれ、さらに来年1月には沖縄アリーナでBリーグオールスターも控えている。

 正に日本バスケ界の“ホットスポット”であり、この流れはホームである琉球にとっても力になっているようだ。13日にあった公開練習後のメディア対応で、W杯について聞かれた桶谷大HCは以下のコメントをしていた。

 「今の(国内の)バスケットの流れは全て沖縄でつくっていると思っているので、その流れをもう一回築けるように、ここ沖縄で一番いいバスケができたらと思います。あと、沖縄でW杯が開かれて、すごいレベルの高いバスケットボールを間近で見た子ども達がいる。その子達が将来キングスに入って日本を盛り上げる、または日本のバスケットマンとして世界へ出ていく。そういう流れができると嬉しいので、キングスは子ども達にとっていい球団であり続けられるように頑張りたいです」

 2023年、夏。アジア、日本、沖縄に強烈なインパクトを残し、興奮と感動の余韻を残したまま10日に閉幕した男子W杯。バスケ文化の成熟度という意味で、まだまだ成長の余地があるこれらの地域にとって、今大会が貴重な経験になったことは間違いないだろう。盛り上がりの火を絶やさず、それぞれの発展に着実につなげていきたい。

(長嶺 真輝)

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