沖縄、フィリピン・マニラ、インドネシア・ジャカルタを会場としたFIBA男子ワールドカップが10日、クライマックスを迎えた。決勝進出はセルビア(FIBAランキング6位)が2大会ぶり2度目(旧ユーゴスラビアは5度優勝)、ドイツ(同11位)は初めて。いずれも悲願の初優勝を狙う顔合わせとなった。欧州同士の対決となったファイナルはマニラのモール・オブ・アジア・アリーナで行われ、ドイツがセルビアを83-77で破り、大会を通して無敗での初優勝を果たした。
ただ、この記事では“番狂わせ”も起きたセミファイナルについて振り返りたい。セルビアはカナダ(FIBAランキング15位)に95ー86、ドイツはFIBAのパワーランキングで1位だった米国(同2位)に113ー111で競り勝った。多くのNBA選手が名を連ねた米国とカナダが敗れたことは何を意味しているのか。試合内応やチームのコメントで考察する。
“チームディフェンス”でエース封じる セルビア
まずはセルビア対カナダの試合から振り返る。
カナダはジャマール・マレーが不在ながら、昨シーズンのNBAファーストチームに選出されたシェイ・ギルジャス・アレクサンダー、ディロン・ブルックス、RJ・バレットなど7人のNBA選手を擁するのに対し、セルビアは絶対的エースであるニコラ・ヨキッチが今大会を欠場。ボグダン・ボグダノビッチやニコラ・ヨビッチなどNBA選手は3人。個々のタレントではカナダに分があった。
しかし、序盤から抜け出したのはセルビアだった。丁寧にペイントタッチを繰り返して相手ディフェンスのズレをつくり、フリーの3Pを度々演出。200cm以上が4人のみというカナダに対し、ロスター12人のうち200cm以上が7人(うち4人は210cm以上)、最低身長が192cmというサイズの優位性を生かし、ピック&ロールからゴール下への合わせも効果的に使った。
結果、カナダはファウルトラブルに陥り、第2Q終了時点でディフェンスの名手ブルックスとアレクサンダーがファウル3つに。52ー39とセルビアリードで始まった第3Q以降、カナダは武器であるトランジションオフェンスでペースを上げようとするが、セルビアの内外バランスの取れたオフェンスに最後まで対応できず、セルビアがほとんど点差を詰められることなく逃げ切った。
最終的なスタッツでは、リバウンド数で33本対22本と圧倒したセルビア。個人ではボグダノビッチが23得点、センターのニコラ・ミルチノフが16得点、10リバウンドと活躍したが、試合を通して攻守ともにチーム力でカナダを上回っていたことは明白だった。
オフェンスは先述の通りだが、ディフェンスも個の能力に優れたカナダに対して素早いカバーや的確なローテーションで対抗し、何度も相手の勢いを断ち切った。フィールドゴールの成功率はセルビアが62.1%だったのに対し、カナダは48.2%にまで低迷。バレットには23得点を献上したものの、この試合の前まで平均25得点を記録していたアレクサンダーはわずか15得点に抑えた。
以下はセルビアのスベチスラフ・ペシッチHCの総括である。
「素晴らしい試合だった。私たちは正確なオフェンス、ディフェンスができることを示した。特にシェイに対しては非常に良い1対1のディフェンスができたと思う」
アレクサ・アブラモビッチ、オグニェン・ドブリッチという2人のガードのディフェンスを例にに挙げ、「ディフェンスはガードから始まり、それが他のメンバー連鎖的に影響を与える。一人が失敗すると全体が崩れてしまう。ドブリッチらは(準々決勝の)リトアニア戦から素晴らしい守備をしていた。背の高い選手たちも彼のボールプレッシャーに多くの信頼を寄せているんだ」と語り、互いの信頼関係がチームディフェンスを向上させていることを強調していた。
“3年計画”のドイツ ワグナー「毎夏一緒にプレーすることが助けに」
次にドイツ対米国。
言わずもがな、米国は若手主体でスーパースターは不在とはいえ、ジェイレン・ブランソンやミケル・ブリッジス、オースティン・リーブスなど全員がNBA選手。対するドイツは、デニス・シュルーダー、フランツ・ワグナー、モリッツ・ワグナー、ダニエル・タイスという各ポジションの4人のNBAプレーヤーが核をなすチームだ。
試合は第1Qから接戦になる。スモールバスケで速い展開を好み、さらに1対1でも得点を重ねる米国に対し、ドイツはフランツ・ワグナーを中心にトランジションオフェンスを徹底し、ハーフコートオフェンスではシュルーダーのピックプレーを起点に内外から攻める。双方とも前半の3P成功率が5割を超え、米国60ー59ドイツというNBAの試合のようなハイスコアで折り返した。
第3Qで抜け出したのはドイツ。タイスやワグナー兄弟がフィジカルの強さを生かしてオフェンスリバウンドを掴み、セカンドチャンスポイントを重ねていく。第4Qの残り約5分で点差をこの試合最大の12点に広げ、そのままファイナル行きの切符を手にするかに見えた。
しかし、米国もそれでは終わらない。アンソニー・エドワーズがドライブから強烈なボースハンドダンクを叩き込み、リーブスが3Pで続いて反撃の狼煙を上げると、残り約1分半で1点差に。それでも最後はドイツのアンドレアス・オブストがこの日4本目の3Pを決め、シュルーダーも個人技でしぶとく得点を重ね、ドイツが辛くも逃げ切った。
結果的にセカンドチャンスポイントで25対8と圧倒したドイツが接戦を制した形だが、セルビア対カナダと同様にチーム力の差が見て取れた。ドイツはオブスト、フランツ・ワグナー、タイスと20得点オーバーの3人を含めて6人(米国は4人)が二桁得点。全体のアシスト数も米国を5本上回る30本に達した。
優勝候補筆頭を倒してドイツ初の決勝進出を決め、フランツ・ワグナーは「ドイツにとって間違いなく歴史的な勝利」と喜ぶ。自身は3位に入った昨夏のユーロバスケット2022でも活躍した。「私にとっては代表チームで過ごす2度目の夏だが、他の選手たちは何年も代表でプレーし、このレベルで経験を積んできた。毎年の夏に一緒にプレーすることは自分たちにとって助けになる」と語り、チーム力の高さを誇った。
ドイツのゴーディ・ハーバートHCのコメントも、チームを構築する上で興味深いコメントを発した。以下のような内容である。
「私たちは3カ年計画でチームビルディングを進め、今年で2年目です。昨年の夏にみんなが集まってくれて、今年の夏も同じ。私たちはお互いのことを思いやり、お互いのためにプレーしている。多くの特別な選手たちによる、特別なチームなのです」
来夏パリ五輪 “個の集大成”アメリカを崩すチームは
この2試合を見ても分かる通り、セルビアとドイツは個人能力の高い米国、カナダを高い完成度のチーム力で凌駕した形だ。もちろん、NBAは労使協定で選手が国の代表活動をできる日数を制限しているため、米国やカナダは連係を深めるのが難しいのも事実だ。ただ、決勝トーナメントに進出すれば17日間で8試合を戦う厳しい日程を乗り越えるためには、やはり個に依存し過ぎる戦い方はリスクが高い。
一方で、今回ベスト8のうち6カ国を占めた欧州勢の力が“バスケ大国”米国を上回っているかというと、そう単純でもない。米国はより結果を重視する五輪では“本気級”のメンバーを揃え、2021年の東京五輪ではケビン・デュラントやデビン・ブッカー、デイミアン・リラード、ジェイソン・テイタムなどNBAオールスター級の選手たちで臨んで五輪4連覇を達成した。この直近4回の決勝では、スペイン2回、セルビア、フランスといずれも欧州勢が米国に屈している。
五輪のおいては、過去を遡っても欧州勢が優勝したことは1980年のモスクワ大会の旧ユーゴスラビアのみである。
日本も出場を決めた来年のパリ五輪。個の能力が突出した米国が5連覇を果たすのか、それとも数年計画でチーム力を高めている欧州勢がオリンピックの金メダルも掴むのか。まだ気が早いかもしれないが、パリ五輪では日本戦以外にも注目すべきカードは多そうだ。
(長嶺 真輝)