開幕から約2週間、決勝トーナメントの準々決勝までを終え、出場32カ国が4カ国にまで絞られたFIBA男子ワールドカップ。格上のフィンランドを倒し、アジア1位の座をつかんで48年ぶりに自力で五輪出場権を獲得した日本の戦いは見事だった。今大会のハイライトの一つと言っていいだろう。
ただ、既に敗退した28カ国の中で最も大きなインパクトを残した国はどこかと問われれば、多くの人の答えが一致するはずだ。初出場にも関わらず“大物食い”を続け、8強入りを果たしたラトビア(FIBAランキング29位)である。
エースで221cmのクリスタプス・ポルジンギスを負傷で欠きながら、1次ラウンドではFIBAランキング5位のフランスに88ー86で競り勝ち、2次ラウンドでは前回王者で同1位のスペインを74ー69で撃破。準々決勝では優勝候補に挙げられる同11位のドイツに79ー81で惜敗したが、あと一歩のところまで追い詰めた。現在も5〜8位決定戦で格上相手に頼もしい戦いぶりを発揮している。
国土面積は日本のおよそ6分の1。2021年1月現在の人口は189万人という「小さな国」が、なぜ快進撃を続けられるのかー。
“パワーランキング2位”のドイツ苦しめる
準々決勝、今大会での戦力を推し量るFIBAのパワーランキングで2位につけるドイツに対し、先行したのはラトビアだった。高さやフィジカルで劣りながらも、ペイントタッチや華麗なパス回しで加点。NBAで“ラトビアンレーザー”の異名を持つデイビス・ベルターンスは正確な3Pを立て続けに決め、開始約5分で10点のリードを奪った。
一方、ドイツはエースのデニス・シュルーダーが前半で放ったシュートの成功が9分のゼロと大ブレーキ。しかし、この試合で負傷から復帰したフランツ・ワグナーやアンドレアス・オブストらが内外から得点し、接戦に持ち込まれた。
最終第4Qで抜け出したのは、自力で勝るドイツ。ディフェンスとリバウンドで圧倒され、オフェンスではワグナーの連続得点などで最大14点まで差を広げられた。それでも遠く離れた母国から駆け付けた200人超の応援団の大声援を背に受けるラトビアは諦めない。若手ガードのアルトゥルス・ザガースが3Pや鋭いドライブで得点を重ね、残り32秒で79ー81と2点差まで詰め寄った。
ドイツがこのポゼッションでシュートを外し、ボールをつかんだのは、その時点で既に6本の3Pを沈めていたベルターンス。右サイドをドリブルで駆け上がり、残り4秒で逆転を狙ったディープスリーを45度からプルアップで放った。しかし、シュートは無情にもリングに弾かれ、そのまま試合終了。ベルターンスはコート上でうずくまり、顔を覆ったまましばらく身動きが取れなかった。
シュートが外れた後、リバウンドに飛び込んだロディオン・クルクスは「彼(ベルターンス)は全ての試合でビッグショットを打ってきたから、みんな信頼している。私たちは互いをサポートし、一つのチームとしてプレーしてきた。最後のシュートがリングでのバウンドが悪く、運がなかった」と語り、ベルターンスに対する深い信頼感をうかがわせた。
高い「IQ」チームで戦う 若手とベテランの“融合”も
敗れたとはいえ、NBA選手がベルターンス一人のみというラトビアが優勝候補のドイツをここまで追い詰めたことは十分に健闘したと言える。個々の身体能力が高い訳ではないが、コート上の5人が見事なスペーシングを保って内外から多彩に攻め、アシストの本数はドイツを9本上回る19本に上った。それぞれのバスケIQの高さが、今大会での快進撃を支える最大の要因だろう。
以下は、チーム2番目に多い20得点を挙げたベルターンスの言葉だ。
「私たちが勝てる可能性のある立場に立つことができたのは、個々の選手の力ではなく、チームとしてプレーし、正しい方法でプレーしたからだと思う。残念ながら最終的には勝利を達成できなかったけど、どの試合もしっかりと戦っているこのチームを誇りに思う」
ルカ・バンチHCも前を向く。「もちろん大きな失望がある。しかし自分たちの進む道、自分たちが何をしてきたか、コート上で何を達成したか、プレースタイル、アイデンティティー、自分たちが示したことから視線を逸らす必要はない」と淡々とした様子で語り、言葉をつないだ。
「私たちはジャカルタでの予選ラウンドからマニラに移動し、世界のベスト7チームと同じテーブルに着いた。選手たちがとても大きく見えた。とても強い。とても強力だ。私たちは強豪国と競争できることをもう一度証明できた。とても誇りに思う」
ポルジンギスが不在の中、クルクスやザガースなど若手が活躍し、ベテランとの融合を見せたことで「方向性はかなり明確」(バンチHC)と育成状況にも手応えを感じているようだ。
進化へ飽くなき「向上心」 “格上”イタリアにも勝利
この試合、バルト三国から共に8強入りしたリトアニアのファンがラトビアの応援団に混じって声を枯らす姿も見られた。リトアニアも準々決勝で敗退したが、両国がベスト8に名を連ねたことに対する受け止めを聞かれたバンチHCは「この2つの小さな国が、これほど大きなトーナメントで競えたことは素晴らしい」と評価した。
一方、初出場のラトビアに対し、リトアニアはこれまでに6度に渡ってW杯の舞台に立ち、2010年のトルコ大会で3位、14年のスペイン大会で4位という好成績も収めている強豪国だ。それを念頭に、指揮官は「ラトビアにとってはこれがハイレベルなバスケットボールとの最初の出会いのようなものだ。その中で私たちは選手を見せ、自分たちのスタイル、アイデンティティーを示した。ラトビアとリトアニアの両方のファンの応援を誇りに思う」と感謝した。
ラトビアは準々決勝を終えた段階で5〜8位の順位決定戦に回り、この時点であと2試合を残していた。バンチHCは「もちろん負けたことはつらいけど、私たちはより良いプレーをし続けなければいけない。なぜなら、最高の選手と競争することでチーム、選手がより進化できるからだ。国内でのみプレーする選手もいる中で、W杯の全ての試合が重要になる」と気を引き締めた。
この飽くなき向上心こそ、チームバスケットに加え、ラトビアが強豪国と渡り合う程の力を蓄えることができたもう一つの要因だろう。
ベルターンスも「今一番のモチベーションは残りの2試合に勝つことだ」と言い切っていた。その言葉通り、7日の順位決定戦の初戦ではイタリアに87ー82で競り勝ち、またも格上から白星を挙げたラトビア。9日には、隣国リトアニアとの“バルト三国対決”となる5〜6位決定戦に挑む。初出場の小国ながら、大会に強烈な“旋風”を巻き起こす彼らの活躍から、最後まで目が離せない。
(長嶺 真輝)