【バスケ日本代表】パリ五輪へ、”また”熾烈な代表争いが始まる 強化に向けホーバスHCは「提言」も…
48年ぶりに自力で五輪出場を決めたバスケットボール男子日本代表©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者で2for1沖縄支局長。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 48年ぶりに、歴史が動いた。

 FIBA男子ワールドカップ・17〜32位決定戦グループOの日本代表は2日、カーボベルデ共和国と対戦し、80ー71で勝利した。1次ラウンドの結果も引き継いで通算成績は3勝2敗となり、グループOの1位が決定。W杯に出場したアジア6カ国の中でトップの順位になることが決まり、2024年のパリ五輪出場を確定させた。

 日本が五輪出場権を自力で獲得するのは、1976年のモントリオール五輪以来となる。

試合後、国旗を手に笑顔を見せるバスケットボール男子日本代表アカツキジャパン ©Basketball News 2for1

富永啓生 圧巻の“6連続3P”でけん引

 厳しいディフェンスで試合に入ったものの、序盤はカーボベルデの3Pやミドルシュートが高確率で決まり、先行を許す。重たい展開を打ち破ったのは、SG富永啓生だ。2試合前のオーストラリア戦は3Pが10分のゼロと大ブレーキとなったが、第1Qの終了間際に自身1本目の3Pを左45度からスウィッシュで決め、完全にシュートタッチをつかんだ。

 第2Qの残り約5分でまたも左45度から2本目を決めると、30秒後に右45度からヒット。第3Qまでに6本連続で3Pを成功させ、73ー55の大差で最終第4Qに入る最大の功労者となった。

 第4Qは積極性を欠いたことでペイントタッチが減り、3Pシュートが増えてオフェンスのリズムが崩壊。第3Qの終盤から連続13点を奪われ、残り1分12秒で3点差まで詰め寄られた。それでも最後はC/PFジョシュ・ホーキンソンがブロックショットや3Pで攻守に躍動し、リードを広げて逃げ切った。

カーボベルデ戦で3P6本を沈めた日本代表の富永啓生(中央)©Basketball News 2for1

渡邊雄太「死ぬまで日本代表です」

 試合終了のブザーと同時に選手やスタッフは雄叫びを挙げ、ハイタッチし、強く抱擁し合った。客席のファンも総立ちとなり、喜びの感情が爆発。沖縄アリーナには沖縄の宴会や祝いの席で流れる民謡「唐船ドーイ(とうしんどーい)」や、映画SLAMDANKのテーマ曲である「第ゼロ感」が流れ、お祭り騒ぎとなった。

 14得点、8アシストと活躍したチーム最年少、22歳のPG河村勇輝はパリ五輪の出場権を獲得したことについて「トムさんの体制になってから、この目標を掲げて戦ってきた。素直にうれしいです」と破顔。個人としても成長を実感できる大会になった。

 「うまくいったこと、うまくいかなかったことがある。チームとしてはすごい喜ばしい結果ですけど、個人としてはまだまだいろんなことをやらないといけないなという気持ちがある。日々成長だと思うし、W杯でこの5試合を経験できたことは、これからのキャリアにおいてすごく大切なものになる。チャンスを与えてくださったトムさんにすごい感謝してます」

 大会前から日本が五輪出場権を獲得できなかったら代表活動を引退すると公言していたSF渡邊雄太は、ミックスゾーンで「死ぬまで代表やります。死ぬまで日本代表です」と宣言し、手に持っていた日の丸の旗を掲げた。3戦全敗で終えた2021年の東京五輪を念頭に、感慨深げに言った。

 「あの時はNBA選手が2人いて、Bリーグも盛り上がってきていて、史上最強の代表とか言われてたけど戦えなかった。気持ちの部分で全然準備ができてなくて、日本代表として恥ずかしいプレーをしてしまった。その時のメンバーも含め、みんながしんどい思いをしてきたからこそ、今回、最高の5試合ができた。すごい誇らしいです」

試合後、日の丸旗を手に喜びを爆発させる渡邊雄太 ©Basketball News 2for1

12カ国が争うパリ五輪では「力足りない」

 最終的に3勝2敗で終えた日本。W杯で勝ち越したことは史上初であり、快挙となった。ただ、これはあくまでも「ゴール」ではない。W杯の32カ国に対し、各大陸の上位、そして今後行われる最終予選(OQT)を勝ち抜いたわずか12カ国のみに出場が許された“本戦”のオリンピックに向けた「スタート」でもあるのだ。以下は、試合直後の記者会見におけるトム・ホーバスHCのコメントである。

 「昨日より今日、もっといいバスケをやりたい。今大会、日本のレベルのスタンダードはつくった。でもパリ五輪では力が足りないです。あと1年ある。レベルアップしないと勝てないです」

 W杯に向けたアジア地区予選の12試合で計36人もの選手を招集し、競争を促してチーム力を底上げしてきたホーバスジャパン。今回、本番目前に選考から漏れたテーブス海(アルバルク東京)や金近廉(千葉ジェッツ)、ジェイコブス晶(ハワイ大学)など気鋭の若手に加え、Bリーグで自身のチームを引っ張る中堅、ベテランも代表入りを見据えて腕を磨く。

 パリ五輪に向け、「これからもっともっとコンペティション(競争)が激しくなる」(ホーバスHC)ことは間違いない。 

原修太「Bリーグの試合中も競争にある」

 それは、W杯を終えたばかりの選手たちもひしひしと感じている。

 昨シーズンのBリーグでベストディフェンダー賞を獲得したSF原修太は、本番前の強化合宿から招集されて最終12人のロスター入りを勝ち取ったが、本番では思うような活躍ができなかった。ディフェンス力を期待されてドイツ戦、フィンランド戦はスターターとしてコートに立ったが、オフェンスでは5試合を通してゼロ点。悔しさを滲ませながら、こう振り返った。

 「合宿中は残るために精一杯で、世界というのはそこまで想像できてなかったんですけど、いざこの舞台に立ってみると1人1人が本当に速くて、体が強くて、クオリティーの高さを感じました。ディフェンスだけでなく、オフェンスでも起点になれるようにもっと3Pを磨かないといけない。この1年間、もっともっと自分を追い込まないと、代表には戻ってこられないと思います」

カーボベルデ戦でシュートを放つ原修太 ©Basketball News 2for1

 河村や富永ら若手の活躍をそばで見て、「あの若さで物おじせず、自分の強みを世界の舞台で120%出せるのは本当にすごい」と刺激を受ける。10月に始まるBリーグの新シーズンに向け、「Bリーグの試合中も競争になると思うので、僕の強みをもっともっと出して、レベルアップしていきたいです」と自らを鼓舞した。

 25歳のC川真田紘也も強化試合では評価を高めたが、本番ではなかなか存在感を示すことができなかった。その上で「リバウンドやフィジカル面など、センターとしての技術を重点的に鍛えていきたいです。1年あれば、もしかしたら僕も3Pにもっと挑戦できるかもしれない。1年後に選ばれるか分からないので、準備をしていきたい」と今後を見通した。

比江島慎すらも安泰ではない事実

 今大会、勝利したフィンランド戦で17得点、ベネズエラ戦で23得点と殊勲の活躍を見せた最年長33歳のSG比江島慎すらも、安泰ではない。パリ五輪に向けた選考競争をいかに勝ち抜いていくか、を問うと、苦笑いを浮かべながらこう答えた。

 「ほんと、そこなんですよ。今回も当落線上にいるという意識が強くて、毎日毎日いつ落とされるか分からない中でストレスがすごかった。若い世代がすごいのは分かっている。ただ絶対に(パリ五輪に)出たいです。出たい。それは間違いない」

 10年以上に渡って代表をけん引してきた比江島ですら、これだけの危機感を抱いている。それ自体が、日本全体で個々の選手のレベルが上がってきている証左と言えるだろう。

今大会チーム最年長だった比江島慎も代表争いへ危機感を見せる ©Basketball News 2for1

ホーバスHC「Bリーグのチームが考えてほしい」

 一方、カーボベルデ戦後の記者会見で、ホーバスHCは選手の強化についてある“提言”を発した。内容は、Bリーグに向けたものである。

 

 「代表選手はもう世界に勝ったじゃないですか。これでBリーグに戻って、試合に出ないともったいないと思います。各クラブがチームの作り方をいろいろ考えていると思うけど、やっぱり選手のことをもうちょっと考えてほしいです」

 今回選ばれたBリーグ勢は12人のうち9人。そのうち、PG富樫勇樹や比江島、河村らは所属チームのエースとして活躍しているが、川真田やSF吉井裕鷹、PF井上宗一郎は状況が異なる。Bリーグはビッグマンの外国籍選手を抱えるチームが多いことも影響し、昨シーズンの平均出場時間は川真田が12分22秒、吉井は15分43秒、井上に至ってはわずか5分51秒にとどまった。

 ホーバスHCは「Bリーグのファンたちが僕に怒りそうだけど、仕方ない。日本のバスケ、強くなりたい」と意を決したように話し、続けた。

 

 「例えば、川真田。彼のチームに5番の外国人選手は2人いらない。川真田がいるから。ヨシ(吉井)は3番だから、彼のチームは3番選手を呼ばない方がいい。そういう考え方。もうちょっとチームが考えてほしいです」

トム・ホーバスHCはBリーグに提言 ©Basketball News 2for1

 もちろんプロ選手である以上、チーム内の同じポジションに外国籍選手がいたとしても、実力でプレータイムを獲得する努力が必要だ。一方で、実戦経験を積まないと成長を促すことが難しいのも事実。所属チームの戦術、選手自身によるチーム選びなど様々な要素が絡む問題ではあるが、快挙を成したアカツキジャパンのメンバーのプレーを見たい、というのは多くの人が抱く共通した思いだろう。どんな形であれ出場時間を確保し、ファンを魅了し、自らの成長につなげてもらいたいところだ。

 パリ五輪に向けては成長著しい若手のほか、今回辞退した八村塁もメンバー入りに名乗りを挙げる可能性もある。”また”激しい代表争いが始まったアカツキジャパン。1年後、再び日本のバスケファン、そして世界を驚かすことができるか。無限大の伸びしろを抱える彼らの進化の過程に注目したい。

(長嶺 真輝)

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