【現地ルポ】折茂武彦 引退試合に見たバスケに愛されたスーパースターの姿
引退試合を終えコートを去る折茂武彦氏©Basketball News 2for1
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 2022年6月18日、レバンガ北海道代表取締役社長の折茂武彦氏の引退試合が行われた。

 2019-20シーズン、27年のキャリアに終止符を打ち、49歳でコートを去った折茂氏。2020年6月に予定されていた引退試合は、新型コロナウイルスの影響で2度の延期を余儀なくされたが、2年の時を経て、ようやく終幕の舞台が整った。

折茂武彦引退試合が行われた北海きたえーる

5,408人のファンが集結 場内が黄緑色に染まる

 会場となった北海道立総合体育センター(北海きたえーる)には、「選手」としての折茂氏の最後の勇姿を一目見ようと5,408人のファンが詰めかけた。すべての観客席には、この日限定の折茂氏の特別ユニフォームが用意されており、それを身につけたファンが会場内を黄緑色に染めていた。永久欠番となっている背番号「9」を「g」になぞらえた「Le9end折茂武彦」や「折茂さんありがとう」といったメッセージボードを掲げ、偉大なキャリアを称えるファンもいた。

場内にはファンからのメッセージボードもたくさん掲げられていた

 コートの外に目を向けると、たくさんの関係者から贈られた花束や、27年間のキャリアの足跡をたどることができるメモリアルブースが設置されていた。「SLAM DUNK」の作者である井上雄彦氏から寄贈された特別イラストなども飾られており、いかに折茂武彦という選手がバスケットボール界から愛されていたかを再確認することができた。

折茂氏のキャリアを振り返ることができるメモリアルブース

往年のスターが勢ぞろい「LEGEND」と「NINE」

 試合開始75分前。コートに選手が入場してくる。今回の引退試合は折茂氏と縁が深い引退選手らで構成される「TEAM LEGEND」とBリーグで現在も第一線で活躍しているスター軍団で構成される「TEAM NINE」に分かれての対戦となったのだが、そのメンバーがとにかくすごかった。

【TEAM LEGEND】

・梶山信吾(名古屋ダイヤモンドドルフィンズGM)

・佐古賢一(レバンガ北海道HC)

・関口聡史(元トヨタ自動車)

・節政貴弘(元東芝ブレイブサンダース)

・種市幸佑(バンビシャス奈良※今季限りで引退)

・半田圭史(元トヨタ自動車アルバルクほか)

・東野智弥(日本バスケットボール協会技術委員長)

・古田悟(元トヨタ自動車アルバルクほか)

・山田大治(群馬クレインサンダーズU18HC)

・渡邉拓馬(京都ハンナリーズGM)

・トム・ホーバスHC(男子日本代表HC)

【TEAM NINE】

・朝山正悟(広島ドラゴンフライズ)

・五十嵐圭(群馬クレインサンダーズ)

・柏木真介(シーホース三河)

・川村卓也(西宮ストークス)

・桜井良太(レバンガ北海道)

・竹内公輔(宇都宮ブレックス)

・竹内譲次(大阪エヴェッサ)

・田中大貴(アルバルク東京)

・田臥勇太(宇都宮ブレックス)

・野口大介(長崎ヴェルカ)

・比江島慎(宇都宮ブレックス)

・水野宏太HC(アルバルク東京トップAC)

 まるで時代を超えたオールスターゲームのようなメンバーが集まったこの試合は、日本中の多くのバスケットボールファンの心をわしづかみにしたに違いない。選手たちもきっとファンと同じく興奮していたのだろう。貴重な機会を逃すまいと、選手同士が笑顔で会話するシーンが多く見られたのが印象的だった。

試合前、笑顔で会話を楽しむ選手たち

桜井&柏木がハードディフェンスも折茂氏が42得点

 オープニングパフォーマンスやBリーグ島田慎二チェアマンからの花束贈呈、北海道出身のフォークシンガー松山千春による国家独唱を終え、いよいよティップオフ。

試合前には松山千春による国家独唱

 折茂氏が前半をプレーした「TEAM LEGEND」は佐古氏、節政氏、古田氏、関口氏というスターティングファイブ。対する「TEAM NINE」は田臥、田中、竹内公、竹内譲、比江島の5人が先発を務めた。

「TEAM LEGEND」のスターティングファイブ
ティップオフを迎える

 前半、「TEAM LEGEND」はこの日の主役に花を持たせるかのように折茂氏にボールを集める。序盤こそシュートタッチに少し苦しんでいた折茂氏だったが、徐々にシュートが決まり始め前半で12得点を記録。現役選手が躍動した「TEAM NINE」が8点リードで試合を折り返した。元チームメイトの桜井や柏木がフェイスガードで折茂氏を激しくディフェンスする場面もあり、これには折茂氏も「全然空気を読めていなかった」と苦笑いをしていた。

柏木のハードなディフェンスで会場も盛り上がった

 後半、折茂氏が「TEAM NINE」でプレーする代わりに、比江島と田中が「TEAM LEGEND」に移籍する“大型トレード”が行われ、ゲーム再開。比江島と田中が合計18得点をあげる活躍を見せ、「TEAM LEGEND」が一時逆転するなど、試合の盛り上がりは最高潮に達した。そんな中、試合の主人公となったのはやはり折茂武彦だった。後半だけで3ポイントシュート4本を含む12本のフィールドゴールを決め、30得点。第4クォーターの大事な場面でもきっちりと得点を伸ばし、80-76で「TEAM NINE」を勝利に導いた。

後半だけで30得点を記録した折茂氏(中央)

MVPには折茂氏と桜井のレバンガコンビが選出

 MVPには試合を通して42得点を記録した折茂氏と、5得点ながらガッツあふれるプレーが光った桜井がダブル選出。「シュートを外しても盛り上がるのが僕の特徴」と桜井が自信満々に語ると、地元北海道のファンから温かい拍手が送られた。

MVPに選ばれた折茂氏(右)と桜井

 MVP受賞の後は、同級生で長年のライバルでもあり、日本のバスケットボール界をともにけん引してきた佐古氏、そして折茂氏の息子である佑飛さんから花束が贈呈された。

 感動の中で幕を閉じると思われた折茂武彦引退試合。最後にやり残していたことが1つだけあった。

 「折茂武彦選手にラストショットといたしまして、代名詞の3ポイントシュートを打っていただきましょう」。

 突然の場内アナウンスに戸惑いながらも、ラストショットに向けて準備を始める折茂氏。

 パスを出すのは、日本代表でともにプレーし、現在は社長とHCとしてコンビを組んでいる佐古氏だ。

佐古氏からのパスで“ラストショット”「神様からのプレゼント」

 「Mr.バスケットボール」が繰り出すチェストパスをキャッチし、滑らかなモーションから3ポイントシュートが放つ。美しい放物線を描いたボールはそのままリングにさえ当たらずネットを揺らした。

 シュートが決まった瞬間に、会場は大歓声に包まれる。満面の笑顔を浮かべ、折茂氏と佐古氏が熱い抱擁を交わした。

佐古氏からのパスを受け
現役時代と変わらない美しいシュートを放つ
熱い抱擁でラストショットを祝福する折茂氏と佐古氏

 「あそこで一発で決めるっていうのがやっぱり、折茂だというふうに思いますね」。

 試合後の記者会見で折茂氏は笑顔を浮かべながらラストショットを振り返る。

 「(現役時代に佐古氏と)一緒のチームには最終的にはなれなかったので、常に戦うときはライバルということでやってきて、一緒になる場は日本代表でしかなかった。彼からもらったパスなので、それを最後に一発で沈めるっていうのが僕の役目でした。

 最後にああいう姿を応援してくれる人たちに見せられたということは、いい終わり方というか、心置きなくこのコートから去ることができるショットを打てたことは非常によかったです」(折茂氏)。

試合後の記者会見で思いを語る折茂氏

 チームメイトとしてラストショットをアシストした佐古氏は「もっと若いときから一緒にプレーしたかった」と正直な気持ちを吐露する。

 「この1か月間、折茂と一緒に練習をしてきて、『2度目の青春』でした。自分も頑張ったと思いますし、折茂も頑張りました。この環境下の中で、バスケットをさせてもらえたということで気持ちも高ぶりましたし、折茂の勇姿を見られたのはよかったです。

 ラストショットの時に、パスを出した瞬間、ハグをした瞬間に思ったのは『一緒にプレーしたかったな』って思いました。現役時代に、もっと若いときに一緒にやりたかったです」(佐古氏)。

折茂氏への思いを語った佐古氏(右)

 折茂氏も佐古氏の意見に同調する。

 「やっぱり17歳からずっとつらいことも楽しいことも一緒に乗り越えてきた仲間でもあるので。52歳になって、2人でコートにもう一度立って、同じチームでもプレーして、また対戦相手としてもプレーして、最後のパスですから。こんなお膳立てはないんですよね。

 抱擁したときにはいろんな思いがこみ上げてきましたね。『この楽しい時間はもう終わってしまうんだな』って残念というか、まだまだ一緒にやりたかったんですけど。最後にこうやって彼と一緒にできたっていうことは、神様がくれたプレゼントだったのかなというふう思います」(折茂氏)。

ケガを押しての圧倒的なパフォーマンス 最後まで貫いた“折茂節”

 引退試合を迎えるにあたり、折茂氏は現役時代のコンディションを取り戻すため1カ月間に渡り練習を重ねてきた。社長業と並行しての練習というハードなスケジュールを続けていたため、右足はアキレス腱炎を起こし、左足はその右足をかばっていたことで肉離れを起こしていたという。

 そんな中で、引退試合という大きな舞台で見せた圧倒的なパフォーマンス。27シーズンというとてつもなく長い期間を戦い抜いてきた折茂氏のプロフェッショナリズムが垣間見えた瞬間だった。

 「できる限りのことは準備をして、この試合では最後まで足は持ってくれたので、非常に良かったという思いしかないですね」と折茂氏は安どの表情で語る。

 「今後やりたいことは何でしょうかね。ゴルフですかね。もうバスケットボールは持つことはないので、小さいボールを持ちます」。

 メディアへのリップサービスも最後まで忘れず、記者会見を終えた折茂氏。一礼して去っていくその偉大な背中に、満員のメディア席からは惜しみない拍手が送られた。

(滝澤俊之)

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