「這ってでも勝たないと…」天皇杯準決勝で敗れたBリーグ首位の三遠 トーナメントでの“弱さ”を克服し、進化の糧にできるか
三遠ネオフェニックスの大浦颯太©Basketball News 2for1
沖縄を拠点とするフリーランス記者。沖縄の地元新聞で琉球ゴールデンキングスや東京五輪を3年間担当し、退職後もキングスを中心に沖縄スポーツの取材を続ける。趣味はNBA観戦。好物はヤギ汁。

 第100回天皇杯全日本選手権は2月5日、準決勝2試合を行い、三遠ネオフェニックス琉球ゴールデンキングスに67ー80で敗れた。初の決勝進出には、あと一歩届かなかった。

 Bリーグでは2月5日現在、目下15連勝中の三遠。30勝4敗で中地区首位を走り、リーグ全体でもトップの勝率を誇る。西地区で首位につけ、天皇杯においても昨年まで2年連続で決勝に駒を進めていた琉球相手でも、三遠に分があると見ていた人は多いだろう。

 しかし、結果はアウェーの地で敗退。沖縄アリーナの熱狂的な雰囲気に気圧された面もあったのか、平均90点超でBリーグトップの得点力を発揮できず。リバウンドで40本対56本と大差を付けられ、チームの生命線であるポゼッション数を増やせなかったことも大きな敗因となった。

 大野篤史HC体制となって3年目。それ以前のドアマットチームから一転、強豪の地位を確固たるものとし、昨シーズンも46勝14敗で中地区を圧倒的な強さで制した。しかし、リーグ全体2位として7季ぶりに出場したチャンピオンシップ(CC)では、ホーム開催にも関わらず、ワイルドカードの広島ドラゴンフライズに初戦で2連敗を喫し、早々に姿を消した。

 熱望するタイトル奪取に向け、トーナメント戦での“弱さ”をいかに克服していくか。試合後の会見に出席した大野HC、大浦颯太のコメントから進化に向けたポイントを探る。

最後まで「ソリューション」を見付けられず

 序盤から激しいプレッシャーを仕掛けてきた琉球に対し、開始から約5分で7点のリードを奪われた。

 しかし、タイムアウトで「我慢強く戦うこと」「リバウンドで戦うこと」を再確認すると、プレーの強度が上がり、持ち味である素早いトランジションからデイビッド・ヌワバ吉井裕鷹らが得点。逆転して第1Qを終えた。

 オールコートでのプレッシャーを含め、その後も流れを維持し、第3Qにはこの試合最大の13点リードを奪った。ただ、ここからヴィック・ローの連続得点などで一気に追い上げられ、ひっくり返された。

 第4Qは8,000人超の大歓声に背中を押された琉球の勢いを止められず、じわじわと引き離される。強烈なブーイングに飲まれたのか、勝負所のフリースローを外す場面もあり、及ばなかった。

 試合後、大野HCはこう総括した。

 「琉球のプレーは素晴らしかったですし、沖縄アリーナの皆さんの声援も素晴らしかったと思います。自分たちも最後まで諦めずに戦おうとしましたが、なかなかソリューション(解決策、解答など)を見付けることができない難しいゲームになってしまったと思います」

 この「ソリューション」については、帰化選手であるアレックス・カークを含めた3BIGを強みとする琉球に対し、ウィリアムス・ニカを含めたビッグラインナップで対抗したりするなど、模索が垣間見えた。

 しかし、最も大きなテーマだったリバウンドでなかなか優位に立つことができず。スピードで相手を翻弄する時間帯もあったが、武器の一つである3Pシュートの成功率が13.8%(29本中4本成功)と極端に低迷した中、難しい展開が続いた。

 「後半はおそらく50%以上のポゼッションを取られていますし、リバウンドでイニシアチブを取られてしまいました。ソリューションとしてビッグラインナップをしようかと思いましたが、なかなかうまくいかない。どのラインナップが一番効果的なのかを探しきれずに終わってしまい、そこは僕の責任だと思います」

記者の質問に答える大野篤史HC©Basketball News 2for1

大野篤史HC「姿勢を見せることが大事」

 この3シーズンで、三遠は大きく変わった。

 激しいディフェンスとハイペースなオフェンスで相手を飲み込んでいくようなスタイルは見る者を魅了し、強さは申し分ない。しかし、主力メンバーの中にBリーグのCSや天皇杯におけるビッグゲームを勝ち切った経験をしている選手は少なく、タイトルを取るためには、もう一つ壁を越える必要がある。

 それは、指揮官も強く認識している。

 「僕はチームを変えたいという思いを持って、3年前にここに来ました。昨年はBリーグのCSの一発目で負けてますし、このカップ戦に懸ける思いは強かったです。『勝たなきゃいけない』『勝たなきゃ終わる』という試合を、もう少し彼らに経験させてあげたかったです。それが彼らの成長につながります。これを学びに、自分たちが這ってでも勝たなきゃいけない試合があるということをもう少し理解してほしいなと思います」

 ファンが熱狂的なことから、リーグの中でもアウェーチームにとっては厳しい環境の一つで知られる沖縄アリーナ。一発勝負の試合であれば、声援やブーイングは一層激しさを増す。だからこそ、こういった雰囲気の中で白星を掴み取る難しさは強く感じたはずだ。

 大野HCが、前出のコメントに言葉を繋げる。

 「フェニックスが少しずつ変わってきてる中で、もう一つ階段を上るとするならば、こういうゲームに勝たなきゃいけない。相手チームにホームコートアドバンテージがあろうと、自分たちが這ってでも勝ちにいくという姿勢をもっともっと見せれるようなチームになっていかなきゃいけない。そういうチームを作っていけたらなと思っています」

 大一番での強さを手にいれるためには、指揮官が言うようなハングリーさ、勝利への執着心を一人ひとりがより強く持つ必要がある。試合後、選手たちには「リーダーが誰かなんて関係ない。自分がやるんだっていう意識をみんなが持ってほしい」と伝えたという。

 その上で、選手に求める具体的なプレーの在り方にも触れた。

 「ベンチから出ようが、スタートで出ようが、自分たちが苦しい状況になった時にこじ開けるのではなくて、姿勢を見せることが大事です。例えばディフェンスだったら、アグレッシブに行く、ルーズボールにダイブする、ボールをひたむきに追う。そういう姿勢をみんなが見せることによって、自分たちのチームが上がっていくっていうことを理解してもらえるように、僕も彼らに問いかけていきたいなと思っています」

 大野HCが多弁に語った言葉の中には、三遠が分厚い壁を打ち破るためのヒントが多く含まれているはずだ。

13点のリードを逆転された三遠©Basketball News 2for1

前を向く大浦颯太「この負けからどう学ぶか」

 悔しい負けを糧に、さらなる成長を遂げていきたいという思いは、選手も共有している。武器の3Pシュートこそ9本中1本の成功にとどまったが、10得点5リバウンド6アシストと安定した活躍を見せた大浦颯太は、総括で前を向いた。

 「こういうアウェー戦の中で、我慢しないといけないところで我慢しきれなかったことは、自分たちが成長すべき点だと思います。この負けからどう学び、CSに向かっていくかが大事です。今日は負けましたけど、戦えている部分もありました。こうやって逆転されるというのは、今までチャンピオンシップで勝ち上がったり、優勝してきたりしたチームの力だと思う。そこは自分たちも見習って、CSに向けてやっていけたらなと思います」

 前述のように、自身も含め、日本一を懸けたトーナメントの大一番で勝ち切るような経験をしてきた選手は少ない。大浦は「自分たちの弱さが出た試合だった」と結果を正面から受け止めた上で、「この強度の試合はなかなか無い。負けという形でしたが、CSに向かう中で、このタイミングでこういう試合を経験し、学べたことは良かったかなと思います」と続けた。

 ただ、「『経験の差が出たよね』という言葉だけで終わってしまうと、いつまで経っても勝てない」という自覚もある。重要な試合で勝ち切るためにはメンタル面や遂行力など何が必要と感じるかを問われ、こう答えた。

 「相手の特徴に対する全員の理解や、その試合で何をしなきゃいけないかという部分は、僕自身も含めてまだ足りないと思います。1分、2分でも隙を見せてしまうと、やっぱり勝てない。それがCSというところだと思います。40分間、自分たちが戦い続けないといけない。僕たちは何かを成し遂げたチームではないので、メンタル面、遂行力の二つともを高めていく必要があると思います」

 2シーズン連続のCS進出に向けて視界良好な三遠。トーナメント戦における度重なる悔しさを糧に、「勝たなきゃ終わる試合」で強さを発揮できるチームに変貌していきたい。

悔しさを糧にさらなる成長を目指す©Basketball News 2for1

(長嶺真輝)

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